今さらながら音楽雑誌の2008年ベストアルバムを検証する③

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『bmr ビー・エム・アール』(ブルース・インターアクションズ)2009年2月号
 特集:2008ベスト・アルバム・ランキング
 1「カーター Tha Carter 掘廛螢襦ΕΕДぅ Lil Wayne(ユニバーサル)
 2「スリー・リングス Thr33 Rings」T・ペイン T-Pain(BMG)
 3「ペーパー・トレイル~真実の行方 Paper Trail」T.I.(ワーナー)
 4「ラヴ・ビハインド・ザ・メロディー Love Behind The Melody」ラヒーム・デヴォーン Raheem DeVaughn(BMG)
 5「メール・オン・サンデー Mail On Sunday」フロー・ライダー Flo Rida(ワーナー)

 かつて『ブラック・ミュージック・レビュー』と言っていた雑誌だが、呼称が『ビー・エム・アール』となった。ブラック・ミュージックの雑誌であることと一発でわかった方がいいはずなので、そのことにあまりメリットがあると思えないのだが、そういう方針だから仕方がない。いずれにしても、今や唯一のブラック・ミュージック&カルチャーの専門誌になってしまった。

 ランキングに関しては、ブラック・ミュージックの専門誌とうたわれている以上、他のジャンルの音楽が入ってくることはない。それはそういうものだと思っていても、他の雑誌から見れば、独特のランキングであることには変わりないだろう。しかしセールス的に見れば、ほんとにアメリカで爆発的に売れたものが上位に反映されている、ごくごく真っ当なランキングなのだ。逆に音楽雑誌として、それでいいのかとも思えるが、元々サウス勢のヒップホップを盛り上げようとしていたこの雑誌的には、思い通りの展開だったと言えるのだろう。この順位付けは編集部の意向で決められるもので、特別データを集計したものではなく、明確にその年のシーンが反映されるものとなっている。

 ただ6位に、ヒップホップを捨てたとさえも言われる、ブラックコミュニティでは決して諸手で受け入れられているわけではないカニエ・ウエストの「808s&ハートブレイク」をあえて入れているところが、この雑誌の主張と受け取っていいだろう。

 1位のリル・ウェインだが、個人的にはどうも受け入れられない。“ア・ミリ A Milli”の延々続くボイスのループのインパクトはすごいと認めるが、ビートは単純なものだし、ズルズルと続くフリースタイルに近い?ラップにはどうにもなじめない。“ロリポップ Lollipop”は、印象的なフックもあり売れたことは納得できるがそこだけだ、何らオチがあるわけでもない。リリックはことごとく下品であるし。

 それに比べると、T・ペインにはまだおもしろさを感じる。オートチューンの好き嫌いは別にして、サーカスの団長となっているアルバムのごとくバラエティに富んでいて、本人も意識している現代のロジャー的楽しさを感じることができる。T.I.に関しては、皮肉にも刑務所入りが決まってから、キャリア最高とも言えるヒット作となった。復帰が待望される最高の展開となったわけだ。この人のトラック選びのセンスには、ほんとに感心する。M.I.A.から「恋のマイアヒ」まで持ってくるとは思わんだろう。相変わらずリリックは、ほんとにどうでもいい自慢話ばかりでうんざりするのだが。

 4位のラヒーム・デヴォーンは素晴らしかった。ジャケットやルックスだけで判断しちゃいかんということを実感。アルバムとしては少しだれるところもあるが、そこに聞こえてくるのは、マーヴィン・ゲイを聴いた時の感覚だった。


『remix リミックス』(アウトバーン)2009年2月号 
 特集:2008年度ベスト・ディスク

 URBAN
 1「ニュー・アメリカ パート・ワン(第4次世界大戦)New Amerykah Part One(4th World War)」エリカ・バドゥ Erykah Badu(ユニバーサル)
 2「Baby’s Choice」TWIGY(AWDR/LR2)
 3「ロス・アンジェルス Los Angels」フライング・ロータス Flying Lotus(ビート)

 ROCK/POPS
 1「ディア・サイエンス Dear Science」TVオン・ザ・レイディオ TV On The Radio(ベガーズ)
 2「Microcastle」 Deerhunter(kranky)
 3「Drifting Devil」石橋英子RHYTHM TRACKS/バウンティ)

 TECHNO
 1「Final Resolution」DJ WADASUBLIME
 
 JAZZ
 1「リチュアルズ Rituals」ニコラ・コンテ Nicola Conte(ユニバーサル)
 
 HOUSE/DISCO
 1「HERCVLEZ AND LOVE AFFAIR」HERCVLEZ AND LOVE AFFAIR(DFA
 
 DRUM&BASS
 1「Symmetry」 BREAK (Symmetry)
 
 DUBSTEP
 1「Diary Of An Aflo Warrior」BENGA(TEMPA)
 
 LEFTFIELD
 1「London Zoo」THE BUG(NINJA TUNE/BEAT)
 
 CHILL OUT/SOFT GROOVE
 1「山と海」リトルテンポ(Pヴァイン)

 この雑誌のベストアルバム特集は、ジャンルごとに数人のライターが合議でランキングを決めるようだ(その明確な記述はない)。いわゆるミュージック・マガジン的である。このジャンルの細分化は独特なもので、その違いはわかるようでよくわからない。URBANって言われても…って感じだ。ちなみにそのジャンル分けの具体的な説明はない。邦楽と洋楽を分けないところは好感を持てる。

 実際クロスオーバーするアーティストは多数いると思うのだが、ランキング上はかぶらないように調整されているようだ。ただその選考基準は、ライター達の座談会も特集の最後にあり、大体のことはわかってくる。この辺はロッキング・オン的である。

 この2月号には、アーティストやDJが選ぶベストアルバム、シングルなども収録されており、毎年お買い得である。bmrのように、シングルにアルバムにその年のベスト特集だけで何号分使うんだというようなセコいことをしないところが潔い。

 正直、この雑誌のランキングを見ると、年々自分の指向と近くなっていることに気付き愕然とすることがある。ただTVオン・ザ・レイディオにしても、「去年が『イン・レインボウズ(注:レディオヘッドの2007年のアルバム)』なら、今年はこれ」とか、エリカ・バドゥにしても「レディオヘッドのR&Bヴァージョン」などという訳がわからない説明があったりする。何でこうもレディオヘッドと結びつけたがるんだろう。そこは全く自分とは相容れないところなのだが…。

 レディオヘッドを信奉する人とは関わりたくないと、本能に従って触手が動くものを聴いてきたつもりなのだが、自分も同列ではないのかとはからずも気付かされてしまった次第である。いや、でも絶対レディオヘッドと一緒にするのはどう考えてもおかしいだろう。そこははっきりさせておきたいので、私なりのランキングにおいて説明していきたいと思う。