今さらであるが、私の2008年ベストアルバムはこれだ!①

イメージ 1

イメージ 2

 これまで音楽雑誌の2008年のベストアルバムを見てきたわけだが、それをふまえた上で、これからは私なりのベストテンをまとめてみたので記しておく。各音楽雑誌どれも詳しい内容を書かないのでよくわからないが、アルバムとしての評価というものは、どういう風に決めているものなのだろうか? 結局それぞれのライターなどに一任されているだけのもののようだが、それでは読者として時折思うであろう「何でこれなの?」という疑問は払拭されない。ネット配信の時代、アルバムという価値自体があいまいになってきている中、今一度その基準というものを明確にしてもらうと非常にわかりやすいと思った次第である。

 私なりの解釈では、評価されるべきアルバムというのは、その年を代表するトピック的楽曲が含まれていることもあるだろうし、単純にセールスが良かったということもあるだろうし、一聴してそのアーティストだとわかる個性を持っていることも重要であろうが、ただアルバムである以上、続けて聴くことができるだけの魅力、つまり一曲ごとが持つ楽曲の力、飽きさせないバリエーションの豊富さ、流れのグルーヴを感じられる曲順の割り振りの巧みさなども評価されるべきものだと思う。そこがシングルとアルバムの違いである。いくら個性的なアーティストでもアルバムで聴くと飽きてしまうという例は数多い。

 さらにアルバムという形式の存在が無意味化していっている中で、アルバムを貫くコンセプトを持っているものも評価に値するものだと思う。今どきアルバム一枚を通して聴くなんてことの方が少ないというかもしれないし、実際そうではあるが、アルバムを評価するという形態がある以上、そこは重視されるべきものではないか。

 ここ数年でわかったことであるが、iPodでシャッフルして聴いてみると、楽曲一曲一曲の力強さが見えてくる。シャッフルしてみたところで、何をしていながらであろうと、魅力ある曲には耳を止めてしまうものなのである。アルバム一枚でシャッフルすると、その曲順の意味や曲順が正しかったのかどうか見えてくるし、他のアーティストとシャッフルしてみると、スルーしてしまうかどうか、その曲が何なのか、アルバムのどこに入っているか確認するかどうかなど、曲の持つ強さがわかってくる。むしろネット配信やiPodのおかげで、純粋にそのアルバム自体に関心を持つのかどうか、評価されるべき基準の一つができたのではないかと私は思っている。

 ちなみに以下は私の2007年につけたランキングである。中には今は昔的なものもあるが、評価基準としては特別間違っていたとは思わない。

 1. 『EARDRUM イヤードラム』 Talib Kweli タリブ・クウェリ(ワーナー)
 2. 『DESIRE デザイア』 Pharoahe Monch ファロア・モンチ(ユニバーサル)
 3. 『MIRRORED ミラード』 BATTLES バトルス(Beat Records)
 4. 『AS I AM アズ・アイ・アム』 Alicia Keys アリシア・キーズ(BMG)
 5. 『MATHS + ENGLISH マス・アンド・イングリッシュ』 Dizzee Rascal ディジー・ラスカル(ベガーズ/ワーナー)
 6. 『FINDING FOREVER ファインディング・フォーエヴァー』 Common コモン(ユニバーサル)
 7. 『LIFE IN CARTOON MOTION ライフ・イン・カートゥーン・モーション』 Mika ミーカ(ユニバーサル)
 8. 『WEEKEND IN THE CITY ウィークエンド・イン・ザ・シティ』 Bloc Party ブロック・パーティー (V2)
 9. 『I AM アイ・アム』 Chrisette Michele クリセット・ミッシェル(ユニバーサル)
 10. 『GRADUATION グラデュエーション』 Kanye West カニエ・ウエスト(ユニバーサル)

 ということで以上が長い前置きだ。以下、私の今年のランキングである。音楽雑誌もそうだったが、自分のランキングもあらためて見ると驚くべきものとなった。


 第10位 『Jennifer Hudson ジェニファー・ハドソン』(BMG BVCP-21637)

 このアルバムの評価は決して高くない。決してセールス的に成功したわけでもない。その理由はたくさん考えられる。映画『ドリームガールズ』からあまりに間隔が空きすぎたこと。シングルの“スポットライト(ニーヨ&スターゲイト作)”から今風のR&Bで、アルバム全体としても映画のエフィー役の延長線上の路線を期待していた層からは拍子抜けの感があったこと。作り手側は新しいジェニファー・ハドソン像を出したいがために、集められる限りのゲストプロデューサー陣を配し、現代的なR&Bの曲とともに、彼女の歌唱力を生かした『ドリームガールズ』的楽曲も入れ込んだものの、それが全体的に散漫な印象を与えてしまったことなど。

 しかしこのアルバムは、今の段階ででき得る限りのことをしたアルバムには違いない。いつまでもエフィーを引っ張るわけにはいかないのは確かなので、現代的プロダクションの曲を入れるのは当然のこと。ニーヨ&スターゲイト、ブライアン・ケネディティンバランド、ポロウ・ダ・ドン、ジャック・スプラッシュなどの曲も彼女が歌うことで、見事なジェニファー・ハドソンの色になっている。彼女は曲を作らないシンガーだが、どんなプロデューサーであろうと自分の色にしてみせるという実力を誇示するためにも、この節操のなさは必要だったのかもしれない。ただシングルに彼女の声の魅力が抑制された“スポットライト”を選んだことは失敗だった。あえて戦略的にそれを選んだのなら、タイミングが遅かった。アルバムの中にはもっとシングル向けの曲もあるはずなのだが、それを知ってもらえる機会は残念ながら少なくなってしまったと言わざるを得ない。

 映画『ドリームガールズ』的楽曲をはずすわけにはいかないのも当然。“And I’m Telling You I’m Not Going”をまんま収録するのはどうかとも思うが、選択肢としては正しいことだろう。アルバムを通して聴くと、彼女の魅力である歌唱力を存分に生かした曲は十分に味わうことはできる。特に“We Gon’ Fight”などは。個人的には、全盛期のホイットニー・ヒューストンをしのぐのではないかとも思っている。2008年に出た新人女性アーティストと比較しても(ジャズミン・サリヴァン、アデル、ダフィーなどなど)、その実力と魅力は群を抜いているように感じる。ただその味がある曲が、これも戦略なのかもしれないが、後半に置かれていることだ。一般的なリスナーが、試聴するにしても、後半まで聴いて買うのかとなると、これも疑問だと言わざるを得ない。

 要するにジェニファー・ハドソンお披露目アルバムとしては申し分のない内容なはずなのだが、それにしてはタイミングが遅すぎたということに限る。このアルバムならば、『ドリームガールズ』の余韻が冷めやらないうちに出すべきものなのだ。実際、女優の仕事が忙しくてレコーディングができなかったという事情があったようだが、それだけの期間を置いて満を持して出されたものには、通常を遙かに超えるものを期待してしまう。そこをとっても内容ではなく戦略的に失敗したアルバムなのだろう。むしろ世間的には完全に失望された方が良かったのかもしれない。

 いずれにしてもお試し期間は終わった。家族の不幸を乗り越えて、これから彼女が再生できるのか、そう考えるとこのアルバムがハードルを下げてくれたかもしれない。


 第9位 『Chin Chin』 Chin Chin (Definitive Jux DJX159)

 聞いたこともない名前のグループだと思うが(そのつづりの通りチンチンと読む、多分イタリア語の乾杯から来ているはず)、とあるインターネットサイトで目にして、その名前の奇妙さからCDを買ってみて、そのおもしろさに惹かれて、今もしょっちゅう聴いているのがこのバンドだ。結成は2001年とかのようだが、フルアルバムは今作が初めてらしい。(ちなみに去年少し話題になったイギリスのユニットはThe Ting Tingsザ・ティン・ティンズだ。日本語では似ているが、発音もつづりも全く違う)

 Amazonによるとブルックリン出身のファンク/ディスコハウス/エレクトロバンドということだが、要するにほんとに何でもアリのバンドなのだ。ベースはジャズバンドのようであるが、ダンスミュージックであり、それをもっぱら指向しているバンドであることは間違いない。その音の多彩さは聴いて驚くばかり。今年2009年にもすでに新作を発表し、ザ・ルーツのHP、Okayplayerも大々的にフィーチャーしはじめて、これは本物だと確信した。あえて何に近いかと言えば、音は微妙に違うが、オゾマトリやTVオン・ザ・レイディオか。こんなバンドは、とにかく出てくるだけでおもしろくて仕方がない。ライヴが見たくてたまらない。

 ものすごい大所帯かと思うかもしれないが、CDによると中心メンバーは3人。Wilder Zoby (Keys,Vox), Jeremy Wilms (Bass, Gtr, Keys, Vox), Torbitt Schwartz (Drums, Percussion, Gtr, Synth, Vox)HPを見るとみな白人のようだ。それぞれがマルチプレイヤーとして曲作りをしているらしい。ただ曲ごとにミュージシャンが入れ替わり立ち替わり参加しており、中にはYusuke Yamamoto (Vibes, Percussion), Yoshi Takemasa (Percussion), Tada Hirano (Guitar)など日本人らしき名前も見える。日系人なのか、在住日本人なのか、詳しいことはわからないが、PVやライヴ映像を見ても日本人らしき人物が出てる(楽器から察するにYusuke YamamotoとTada Hiranoか)。オフィシャルのバイオを見るとTada Hiranoはブロンド・レッドヘッドチボ・マットでプレイしていたと書かれている。こんな日本人の活躍もうれしいことだし、こんなところもオゾマトリとも似ている。

 さらに驚くべきことに、TVオン・ザ・レイディオの連中とは友達で、一緒にツアーをしていたこともあるそうだ。それも納得というか何というか色んなところでミュージシャンはつながっているものだと納得、リスナーもそれによってつながっていくわけだ。正直アルバムを聴くと、なぜなのかよくわからないインスト曲もあったり、ボーカルエフェクトを使いすぎている感もあり、ちゃんとしたボーカリスト(特に女性)を入れたり、ラッパーを使ったりした方が、さらにおもしろい展開を望めるのにとも思ったが、そんなことは彼ら自身言わなくてもやっていくのだろう。まだまだ入ってくる情報は少ないが(特にCDは写真一枚もないし、クレジットも短すぎる)、とにかく今一番注目のバンドであることは間違いない。それは音を聴けばわかってもらえると思う。
 myspace: http://www.myspace.com/chinchinnyc  
 official: http://www.chinchin.tv/