今さらながら音楽雑誌の2011年ベストアルバムを検証する③

続いては、雑誌『CROSSBEAT クロスビート』である。『ロッキング・オン』誌などに比べ、はるかにマイナーな雑誌であり、書店で見かけないところもあるほどだが、すでに20年以上、未だに発行され続けている音楽雑誌である。
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この雑誌も毎年、年間のランキングを発表しているのだが、その評価方法は真っ当である。30人ほどいる評論家/ライター陣に、年間ランキング(ベスト10作品など)を発表してもらい、それを順位に沿って点数をつけていき、その合計で、雑誌の年間ランキングにするというもの、だったはずなのであるが…、残念ながら現在ではその選定方法が、もう記述されていないようだ。でも、それぞれライター陣の年間ベスト作品が挙げられている欄があり、彼らが挙げているものは、たいてい年間ランキングに入っているものと重なっているのは確かなので、今でも年間ランキングの算出方法として、間違ってはいないのだろうと思われる。
 
今年もそのランキングは、至極真っ当なものであった。前回『ロッキング・オン』誌を取り上げたが、その対談の中で語られていて評価されているのに、実際のランキングでは反映されていないものだって、『クロスビート』誌のランキングでは正当に評価されていたりするわけである(実は『ロッキング・オン』誌と重複して書いているライターがほぼいないのが事実である)。ではそのランキングを、一部紹介しよう。
 
クロスビート』2011年間トップランキング(2012年2月号)
【総合チャート】
1位 ジェイムス・ブレイクジェイムス・ブレイク (ユニバーサル)
2位 『トーチズ』 フォスター・ザ・ピープル (ソニー)
3位 ボン・イヴェールボン・イヴェール (ホステス)
4位 『ファーザー、サン、ホーリー・ゴースト』 ガールズ (よしもとR&C
5位 『ヤック』 ヤック (パチンコ)
6位 『ザ・ホール・ラヴ』 ウィルコ (ソニー)
7位 『アイム・ウィズ・ユー』 レッド・ホット・チリ・ペッパーズ (ワーナー)
8位 『ヘルプレスネス・ブルーズ』 フリート・フォクシーズ (トラフィック/Pヴァイン)
9位 『ワット・ディジュー・エクスペクト・フロム・ヴァクシーンズ?』 ヴァクシーンズ (ソニー)
10位 『パラ』 フレンドリー・ファイアーズ (ホステス)
 
 おもしろいのは、ロッキング・オン』誌では1位だったレディオヘッドが、『クロスビート』誌では、20位だったということだろう。ジェイムス・ブレイクをもってしては、レディオヘッドのアルバムは印象の残らないものになってしまったといった感じか。どちらににしても日本人好みの音なのであろうが、あえてここに優劣の差を付けたところは、評価されるべきものだと思う。個人的には、聴いててちょっと物足りないものではあるが(どちらかと言えばボン・イヴェールの方がおもしろさを感じているのだが)。
 
そして、2位に持って来たフォスター・ザ・ピープル。『ロッキング・オン』誌と違ってUSのマイナーバンドも積極的に取り上げ、ランキングに入れている『クロスビート』誌ではあるが、どうも個人的にはこのバンドは過大評価されすぎているような気がする。シングル“パンプド・アップ・キックス”のヒットは大きいが、続くそれ以上のものがあるバンドなのだろうか? ギターがほとんど聴こえないところとか、コーラスワークのアレンジはいいなとは思ったが、アルバムを通して、“パンプド…”以上に響いてくるものは感じなかったのが正直なところ。ストロークスやキラーズを初めて聴いた時の印象とは、明らかに違う。USのインディーバンドには、もっと凝っていて驚かせてくれるバンドはいるはず。この号の締切に間に合わなかっただけかもしれないが、この雑誌が例えば、ブラック・キーズなどをどう評価するのか、楽しみではある。
 
中でも驚きは、5位のヤックである。『ロッキング・オン』誌には、ランクインどころか、一言も触れられていなかったようなこのバンドをベスト5に入れるところなかなかである。確かにお初の頃からケイジャン・ダンス・パーティーを推していたように思う『クロスビート』誌ならではであろう。
 
あと、これはかつてこの雑誌からブラックミュージック系が『FRONT』(後に『blast』と改名するも休刊)として分かれてから顕著であるが、ブラックミュージック系のアーティストはなかなか取り上げられない。ランキングでの最高位は23位のタイラー・ザ・クリエイター。この点に関して言えば、決して上位には来ないが、話題になったものは数個入れ込む『ロッキング・オン』誌の方が進んでいると言えるか。
 
全体の印象として、雑誌としての体裁を考えて、メジャーどころのアーティストの作品を押し込んで入れ込んでいる『ロッキング・オン』誌と比べると、主張を感じ、好感を持てるランキングではある。今は記述されていないが、これが評論家/ライター陣のアンケートの集計したものの単純結果だとしたら、この雑誌の評論家陣は信用できる人達だと言っていいだろう。この『クロスビート』誌の年間ランキング企画には、他にも、ベスト・シングル、ベスト・リイシュー、ベスト・ライヴ、ベスト・アートワーク、事件(こういうのがあるところが、この誌らしい)などもあるのだが、それらの中身はごくごく当たり前のものばかりであったので、ここでは割愛したい。
 
実はこの号には、おそらく今年になって初めてだと思うが、小冊子の付録がついており、さらに年間ランキングをジャンル別に細分して(雑誌の本紙のランキングは特にジャンル分けをしていない)、さらにベストアルバムのランキングを紹介するという手の込んだ企画をやっているのである。せっかくなので、その一部も紹介しておこう。
 
【UK ROCK】
1位 『パラ』 フレンドリー・ファイアーズ
【US ROCK】
【OTHER COUNTRIES】
1位 『リチュアル・ユニオン』 リトル・ドラゴン
【POP】
1位 『21』 アデル
【VETERAN】
1位 『プル・アップ・サム・ダスト・アンド・シット・ダウン』 ライ・クーダー
【PUNK/EMO】
1位 『ネイバーフッズ』 ブリンク182
【LOUD ROCK】
1位 『エヴァネッセンス』 エヴァネッセンス.
【DVD】
1位 『ザ・キング・オブ・リムス/ライヴ・フロム・ザ・ベースメント』 レディオヘッド
【DUBSTEP/BASS&BEAT MUSIC】
【CHILLWAVE】
1位 『ウィズイン・アンド・ウィズアウト』 ウォッシュト・アウト.
【ELECTRONICA】
1位 『Ravedeath, 1972Tim Hecker
【ELECTRO/TECHNO/HOUSE】
1位 『ルーピング・ステイト・オブ・マインド』 ザ・フィールド.
【HIPHOP】
1位 『テイク・ケア』 ドレイク.
【SOUL/R&B】
1位 『4』 ビヨンセ.
 
最初のUK、USなど地域別はともかく、他のジャンル分けは、なぜ?そこ?という疑問符がつきまくるものである。しかも、すべてを放棄したかのような多すぎるジャンル。実際、ジャンル別のランキングの中身を見ると、雑誌本体のランキングとは逆転しているものもあったりして、これでいいのか?という疑問も出てくる。実はこちらのランキングは、選出した評論家/ライター自身に委ねられて決められたものでしかないようだ。一応複数のジャンルにまたがって重複している作品はないようにしているようだが、本誌のランキングを否定する形のものは、まずいんじゃないの? 力を入れているのか、入れていないのか、よくわからないことになっている。
 
おまけに各ジャンルの最上位作品などは、スピン誌やNME紙、ローリングストーン誌などの評価と比較して、クロスビート誌の評価を並べ、星印で表したりしている。あのさー、どうでもいいけど、そこまでの雑誌じゃないでしょ!? 自分たちをどれだけの雑誌と思っているのやら…。しかも、基本的にベストアルバムだから、ほとんどどの雑誌でも評価がそれほど変わらないので、おもしろくもないんやけど。NMEがアメリカのバンドをあまり評価しないということがわかったくらいしかない。1つだけ感心したのは、【VETERAN】というジャンル分けは、いいかもねっていうこと。新作アルバムにクラシック・ロックと言うわけにもいかないわけだし…。ぜひこのジャンル分けは、『ミュージック・マガジン』誌に採用してもらいたいものである。