今さらであるが、私の2008年ベストアルバムはこれだ!④

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 第1位 『ニュー・アメリカ パート・ワン(第4次世界大戦)New Amerykah Part One(4th World War)』Erykah Badu エリカ・バドゥ(ユニバーサル UICT1038)

 やはり、1位はこれをおいて他にはない。最初聴いた時は「何だ、これ?」とも思った。しかし聴けば聴くほど味が出るというか、より深さを身にしみて感じることのできるアルバムなのだ。アメリカR&B界の異端児であり良心であるエリカ・バドゥ、4年半ぶりのアルバムは、最大の野心作にして最高傑作となった。驚くべきはこれが、3部作のうちの1作目だということだ。

 このアルバムの画期的なところはもちろん、マッドリブ大先生やサーラー・クリエイティヴ・パートナーズなどアンダーグラウンド・ヒップホップとされるプロデューサー/トラックメイカーを、メジャーレーベルのメインストリームR&B(発売しているレーベルはユニバーサル・モータウンである)で起用し、それが十分に成り立つどころか、ポップミュージックとして機能することを証明して見せた点であろう。

 そんな方法があったのかという目から鱗な起用のように思うかもしれないが、例えばこれからマッドリブ大先生が、他のR&B畑でも引っ張りだことなるかと言われれば、決してそんなことはないだろう。なぜならここに展開している音は、何の音かすら想像できないようなアングラな音だったり、変態的な組み合わせのオンパレードといってもいい、彼らが自らのフィールドにいるそのまんまな音だからである。しかも同じタイトルなのに、パート2なのかと思うほど、途中から曲がガラリと変わるものの多いこと。

 このアルバムに使われている音を、エリカのヴォーカルがないと思って聞いてほしい。自分がラッパーならまだしも、シンガーであったとしたら、このトラックを渡されて、どういうヴォーカルを乗せるのか? 途方にくれることになるのではないか。彼女は、自分のために特別にアレンジされたトラックというより、彼らが現在いるフィールドで作る音のまんまで、がっぷり四つで組み合い、自らのものにしてみせた。それこそ見事な彼女の手腕であり、他に同じことができる人がそうそういるように思えないからである。

 そういうことを踏まえた上で、そこにある彼女の歌とリリックをあらためて聴くと、それがいかに独創的なものかがわかる。昨年はオバマ・フィーヴァーで、音楽も明るいムードに包まれていたりもしたように思うが、そこにあるのは決して否定できないブラック・アメリカの言いようもない現実。それを時にはスピリチュアルに、時には撮影したフィルムをまんま見せるかのようなリアルさで自由自在に描いて見せる。このトラックがありきのこの歌だとすら思わせてくれる。J・ディラ追悼の曲もすばらしい(クエストラヴにジェイムズ・ポイザー、ソウルクエリアンズの再来だ)。これを傑作と言わないで何というという感じだ。

 気になるのは、次々と入ってくる次作リリース延期のニュースだろう。何が問題なのかはわからないが、納得できないものであればことごとく直してほしいとは思う。しかしリリースはできるのだろうか? ていうか、そもそも3部作になりえるのだろうか?

 ちなみにこのアルバムは、雑誌bmrのベストアルバム50枚には入ってもいなかった。かと思えば、雑誌remixのURBANカテゴリーで1位だったり、SNOOZERのベストアルバム50にはランクされていたりするのだ(42位)。まあ、でもこの作品が「レディオヘッドのR&Bヴァージョン」という言い方はどうもピンと来ない。米ローリングストーン誌が言っていたようなのだが、だから取り上げられたのかどうかはわからないが、私に言わせればレディオヘッドとの共通点は、先述したように最初に聴いた時の「何だ、これ?」という印象以外には、一切ないのだが。


 なんと2008年は、他の年では考えられない、ベスト3がすべて女性ヴォーカルのアルバムになってしまった、ある意味記念すべき年だった。CDは売れなかったかもしれないが、傑作といわれるものがここ数年最も多かった年ではないかという風に思う。すでに2009年も1/3以上たってしまったが、今年はどうだろうか? まだ期待できる作品にはめぐりあっていないような気がする。