今さらながら音楽雑誌の2008年ベストアルバムを検証する②

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 『MUSIC MAGAZINE ミュージック・マガジン
 2009年1月号 特集:ベストアルバム2008
 
 ロック(アメリカ・カナダ)
 1「Harps And Angels」Randy Newman ランディ・ニューマン(Nonsuch)
 2「吸血鬼大集合! Vampire Weekend」ヴァンパイア・ウィークエンド Vampire Weekend(ベガーズ)
 3「Rufus Does Judy At Carnegie Hall」Rufus Wainwright ルーファス・ウェインライト(Geffen)

 ロック(イギリス)
 1「ジ・エイジ・オブ・ジ・アンダーステイトメントThe Age Of The Understatemnet」ザ・ラスト・シャドウ・パペッツ The Last Shadow Puppets(ホステス)
 2「22ドリームス 22 Dreams」ポール・ウェラー Paul Weller(ユニバーサル)
 3「美しき生命 Viva La Vida」コールドプレイ Coldplay(EMI)

 R&B、ソウル、ブルース
 1「ジャスト・ミー  Just Me」キース・スウェット Keith Sweat(ワーナー)
 2「ラヴ・ビハインド・ザ・メロディー Love Behind The Melody」ラヒーム・デヴォーン Raheem DeVaughn(BMG)
 3「グロウイング・ペインズ Growing Pains」メアリー・J・ブライジ Mary J Blige(ユニバーサル)

 ラップ、ヒップホップ(海外)
 1「カーター ThaCarter 掘廛螢襦ΕΕДぅ Lil Wayne(ユニバーサル)
 2「ペーパー・トレイル~真実の行方 Paper Trail」T.I.(ワーナー)
 3「リセッション The Recession」ヤング・ジージー Young Jeezy(ユニバーサル)

 『ミュージック・マガジン』のベストアルバムの選考方法は独特のものだ。それぞれのジャンルごとに約3人の音楽評論家が一同に集まって、その場のみの合議でランキングを決めるというものだ。基本、全員の意見が一致するものが選ばれることになっているが、一人が強力に推すものも力関係で入ることがあるのがくせものなのである。ジャンルによっては、数十年もメンバーになっている評論家がいて、本人が辞めると言わない限りは、続けられるような特権階級になっているようだ。

 このランキングを見ると、これはどこか別の国のデータなのかと思う人もいるかもしれない。毎度毎度言っていることだが、この雑誌はとにかくひどい。いつまでこのシステムを続ける気なのだろう? 特にロック(アメリカ)に関しては、常軌を逸していると言ってもいいんじゃないか。

 ランディ・ニューマンが悪いわけではない。独特の辛辣な歌詞で聴かせるこの人の味は作品に十分に発揮されているものだろう。しかしこの作品が、他の音楽雑誌のベストアルバム特集で何位かにでもランキングされているものを、私は一切、一誌たりとも見たことがない。それがこの『ミュージック・マガジン』においては、ロック(アメリカ)の2008年総合1位の作品になってしまう不思議は何なんだ! どう考えてもおかしいだろう。しかもこのランディ・ニューマンのアルバム、日本盤すら出てないのである。同じ日本盤が出てないとはいえ、各雑誌におけるメトロノミーの注目のされかたとは雲泥の差がある。

 その他のロック(アメリカ)にランキングされているものも、ルーファス・ウェインライト(3位)、クレア&リーズンズ(4位)、ジェニー・ルイス(7位)、チャーリー・ヘイデン(8位)、レイチェル・ヤマガタ(10位)など、ほかの音楽雑誌では決して顧みることすらされていないものばかり。さらにこれはロック(イギリス)にも言えることだが、ヴェテランアーティストは、その作品が何であれ、無条件にランクインするかのようだ。ブライアン・ウィルソンデヴィッド・バーンポール・ウェラーザ・キュアースティーヴ・ウィンウッド、なぜその人のその作品がそれで今年注目されているのか、選考理由もよくわからないものが多い。

 若い人が読む雑誌じゃないから、それでもいいのだろうということなのか?と推測できるわけであるが、ならばベスト10の中に数個入っている、その年の空気を反映した作品、いわゆる他の雑誌でもランキングされている作品がポツポツと入っている選考(いわゆるヴァンパイア・ウィークエンドなど)にも疑問を感じるわけで。さすがにこれくらいは入れとかなきゃいかんでしょみたいな辻褄合わせのようなものでしかないのだろうか。


 『rockin‘on ロッキング・オン
 2009年2月号 特集:アルバム・オブ・ザ・イヤー2008
 1「ディグ・アウト・ユア・ソウルDig Out Your Soul」オアシス Oasisソニー
 2「美しき生命 Viva La Vida」コールドプレイ Coldplay(EMI)
 3「モダン・ギルト Modern Guilt」ベック Beck(ホステス)
 4「残響 Med Sud I Eyrum Vid Spilum Endalaust」シガー・ロス Sigur Ros(EMI)
 5「オール・ホープ・イズ・ゴーンAll Hope Is Gone」 スリップノットSlipknotロードランナー

 『ロッキング・オン』のベストアルバムの選考方法はよくわからない。編集部の合議制ということは何となくわかるが、それぞれのアルバムごとにライターの署名記事はあるのだが、ライターごとのベストテンみたいなものは明かされることがないので、ライター自身の傾向や嗜好もよくわからない。ライターの顔が見えない雑誌というところは、ずっと変わっていない。細かい選考基準やカラーが判断できるところは、特集の最後の振り返り対談くらいしかない。

 このランキングを見ると、これは何年か前のデータなのかと思う人もいるかもしれない。でもまぎれもなく2008年のデータだ。とにかくひどい。他の音楽雑誌には勝負をかけてきているものもある中で、この雑誌は相変わらずオアシスなどある程度権威のあるバンドやアーティストを持ち上げているだけだ。5位にスリップノットを入れるところも驚きだが、ちなみに7位には、ガンズの「チャイニーズ・デモクラシー」が入っているし、10位には、ほぼどの雑誌もスルーしていたプライマルの「ビューティフル・フューチャー」まで入れている。おめでたいものである。この雑誌の編集者が、他の雑誌のベストアルバムのランキングを見てどう思ったのか、聞いてみたいくらいだ。

 なぜオアシスが一位になったのか、その言い分はこの雑誌はやたら文字数だけは多いのだが、ノエル・ギャラガーがソングライティングの全権どころかギターをも手放して、赤の他人(デイヴ・サーディ:プロデューサー)にアルバムの方向性を委任したことだと言う。何だ、それ。サーディは、楽曲ではなくアルバムにフォーカスを当て、メロディーを後回しにして曲の空間設計にまず着手し、結果的にオアシスを再びデビュー当時の「無自覚」に近い状態にリセットしたのだそうだ。この雑誌はこのようなわかりにくい言い回しがほんとに多いのだが、外部プロデューサーを使って変化し、1作目と2作目の枷から解放される構造改革を行ったということらしい。ていうか、それでいいのか? その程度のことで1位なのか?

 私はこのアルバムを聴く限りにおいて、過去の有名アーティストやグループが劇的に変化した節目のアルバムに比べても、この作品でオアシスが特別変わったとは思えない。そこに聞こえてくるのは、どう聴いてもオアシスでしかないもので、今までとどこが違うのか、判別もしがたいのだけれど…。何て言うとこの雑誌は、そう思わせないところがオアシスのすごいところだ、それが劇的な変化だなんて言い出すんだろうな。要するに何でもありなんだろう。ちなみにデイヴ・サーディは今作からではなくて、前作『ドント・ビリーヴ・ザ・トゥルース』から関わっているはずなのだが…、前作についてこの雑誌が何て言っていたのか調べてみようかとも思ったが、大体予想できそうで、もう面倒くさくなった。

 スリップノットに関しては、感情を吐露した共感を呼び起こした作品という説明はあるが、評価の根拠は「米チャートで1位を記録し、世界中のチャートで大暴れし、停滞気味のロック界に強烈な一撃をお見舞いした」ということだけだし、ガンズに関しても、「2008年のベストアルバムに選ばれる時代的必然性はどこにもない、いつでもよかった」というものの、「余計な情報を振り払って聴くならば相当の迫力を持ったアルバムであることは間違いない、偏執狂的なまでに突き詰められた音のクオリティは驚嘆に値すべきものだ」と持ち上げてみせる。

 とりあえずセールス的にふるったものや、話題になったものは、ふれずにはいられないのだろうか。その全方位外交には関心するが、雑誌の読者としてそれでついていけるものなのだろうか。ちなみにブラックミュージックとしてランクインしているのは、33位のリル・ウェイン「カーター掘廚里漾これも良くも悪くも一番売れたラップアルバムである。ご苦労なことだ。