今さらながら音楽雑誌の2008年ベストアルバムを検証する①

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 もうすでに次の次の号すら出ている時期なのだが、今回も2008年音楽雑誌のベストアルバムを振り返ってみることにする。個人的にあまりにも忙しくて、親しいところに不幸もあり、落ち込むようなことも多々あり、このような状況になってしまったわけだが、そんなことは放っておいて本題に行こう。

 音楽雑誌において、一年のベストアルバムの企画というのは、その雑誌の総括であり、今後をも左右する特集であるはずだ。今年は特に野心的であり、攻めの姿勢を感じられることができ、大変興味深いものになっていた。もちろん一部の雑誌は相変わらずだったが…。では雑誌ごとに見ていこう。

 『CROSSBEAT クロスビート』(シンコーミュージック・エンタテインメント)
 2009年2月号 特集:2008年ベストアルバム
 1「オラキュラー・スペクタキュラー Oracular Spectacular」MGMT(ソニー
 2「ディア・サイエンス Dear Science」TVオン・ザ・レイディオ TV On The Radio(ベガーズ)
 3「アクセラレイト Accelerate」R.E.M.(ワーナー)
 3「吸血鬼大集合! Vampire Weekend」ヴァンパイア・ウィークエンド Vampire Weekend(ベガーズ)
 5「オンリー・バイ・ザ・ナイト Only By The Night」キングス・オブ・レオン Kings Of Leon(BMG)
 5「美しき生命 Viva La Vida」コールドプレイ Coldplay(EMI)
 5「モダン・ギルト Modern Guilt」ベック Beck(ホステス)

 この雑誌のベストアルバム企画はとてもわかりやすい。34人のライターが選んだ年間ベストテンに選ばれたものの数を集計するだけというもので、これは今年も変わらない(3位と5位が複数あるのは、同数だったということである)。

 そんな方法なのに、第1位がMGMTだというから、驚きというか、勝負に出たというか。MGMTは、映画『ラスベガスをぶっつぶせ』のテーマといえるべき曲に使われるなどの注目のユニットであるが、このアルバムがデビュー作の新人である。ロックの世界はそれだけ閉塞してしまっていて、新しいアイコンが待望されていたことなのだろうかというのが見えてくる。

 個人的には、MGMTのアルバムを聴いて思ったのは、なんかレトロだなーということだった。今の時代はこれでいいんだ、これでOKなんだという印象だった。おそらく10年前だったら認められていない、安っぽさすら感じられる音。時代は80年代趣味になっているんだなと実感。彼らはアート・ロックの範疇に入るようだが、ただ難解な要素はほとんどない。メロディーはとにかくわかりやすい。多国籍的な音の要素をうまくまぶしているのはプロデューサーの手腕かもしれないが見事である。“Kids”など名曲だと思うが、ほんとに彼らの真価が問われるべきは2作目であるはずだし、この雑誌はその時どう評価を下すのか、注目してみよう。

 3位のヴァンパイア・ウィークエンドは、名前とはちがい、リゾートっぽさ満開の音を聴かせてくれる。彼らもまだアルバムは1枚しか出していないバンドだ。このいわゆるヴァンパイア節、一曲一曲聴くと楽しいのだが、アルバムで通して聴くと、私はけっこう耐えられなくなったのだが、どうだろうか? 正直アルバムで評価されるべきアーティストなのかどうか。このバンドこそ、次作ではどうするのか、独特の音をどこまで続けるのか、変えていくのかが興味深いものなのだが…。

 このような新しいバンド、年間1位や3位というそこまで早期に絶対的評価を与えるほど持ち上げるべき存在なのかは疑問を感じるが(いわゆるストーン・ローゼズやオアシスの出てきた頃に比べてみると)、雑誌としてこのような新しいものを取り上げて変化していこうとする姿勢は、もっと評価されるべきものだろう。ライターが取り上げるものに制約は決してないみたいだが、ただランキングには今年もブラックミュージックのアーティストは一切入っていない。


 『SNOOZER スヌーザー』(リトルモア) 2009年2月号 特集:年間ベストアルバム
 1「Nights Out」Metronomy(Because Music)(後にワーナーより日本盤発売)
 2「吸血鬼大集合! Vampire Weekend」ヴァンパイア・ウィークエンド Vampire Weekend(ベガーズ)
 3「フレンドリー・ファイアーズ Friendly Fires」フレンドリー・ファイアーズ Friendly Fires(ベガーズ)
 4「モダン・ギルト Modern Guilt」ベック Beck(ホステス)
 5「Microcastle」 Deerhunter(kranky)

 続いて『スヌーザー』である。この雑誌の選考は、本誌選定というだけで詳しい内容は明かされていない。ただ編集長の独断というわけではなく、各アルバムにライター署名記事があり、いわゆる編集部の合議制というべきものであろう。何度も言うが、ロック雑誌でありながら、かつて年間第1位をアウトキャストの「スピーカーボックス/ザ・ラヴ・ビロウ」にした雑誌である。何を挙げてくるのか、全く予想がつかないといえば、これほど期待させてくれる雑誌もない。そして今年もやってくれた。

 何と第1位は、雑誌発売時には日本盤すら出ていないMetronomy(メトロノミー)だった。これまた80年代要素の濃いエレクトロポップだ。そういう時代なのだといえばそういうことなのだろうが、安っぽい音にさらに宅録野郎なたたずまいが想像される雰囲気は、これと比較するならば私はMGMTの方がはるかに完成されていると思いつつ、でもここにあるようなちょっとひねくれた音の使い方や遊びは、ヒップホップに慣れた自分にはむしろこっちの方がおもしろいなと思わせてくれる妙な味があるものだった。でも『スヌーザー』の言うような「ぶっち切りの独創性を持った1枚」や「全音楽総アーカイヴ時代に生まれた、すべての前提となるべき金字塔」などそこまでのものとは、どうひいき目に見ても思えない。

 ただ、私のそんなイメージが見事に覆されたのは、このMetronomy、ジャケットから想像するに、宅録系の一人ユニットだと思っていたのだが、実は3人組で、ギターやベース、キーボードを担当し、ライヴも行う奴らだとわかったことだ(何せCDのクレジットには、メンバー構成や使用楽器などは一切書かれていなかったのだ)。あらためて聴いてみると、中には3人で作ったものと考えると納得のいく曲もあり、ライヴではどういう風にするんだろうなどと、俄然興味を持ち始めたのである。かつてバトルスに出会った時のような感動があるのかもと思った次第だ。

 5位のDeerhunterは、最近のバンドでは個人的には一番好きかもと思ったバンドである。初期のソニック・ユースを思い出した。でもソニック・ユースほどの実験音楽でもないし、ポップミュージックとしても成立しているし、アルバムを通してのバリエーションも考えられてある作品で、聴いてみて納得の選考と感じた作品だった。

 その『スヌーザー』にしても、50枚のうち純粋なブラックミュージックの作品は、Q-TIPエリカ・バドゥの2枚だけだった。デンジャーマウスを起用しながら、肩透かしもいいところだったベックのアルバムがなぜそんなに評価されているのかなど、理解できない部分も多いのだが、それでもこの2誌だけを見ると、2008年は新しい顔が次々と出てきた大変おもしろい年だったと感じることはできる。果たしてほんとにそうなのか。他の雑誌も見てみよう。