個人的な2012年のベストアルバム②

 前記事より引き続きである
 
 5位 『Ohnomite Oh No
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今や兄のマッドリブ大先生よりもメジャーで活躍しているオー・ノーのまさに痛快作である。タイトル通り、70年代のブラックスプロイテーション映画の『ドールマイト』シリーズからインスパイアされて作られたもので、劇中音もふんだんに使用されているのだが、映画を知っている人間でも知らなくてもその空気を十分楽しめるし、実際そんなものなど関係ない。普通のプロデューサーなら映画に敬意を表する余り、映画的なノリを重要視して、70年代R&Bっぽい作品を作ってしまいがちだと思うのだが、そこは大先生直系のオー・ノー、常軌を逸したようなおなじみ変態的ビートも盛りだくさん、だからこそおもしろい。こういう作品がもっと評価される土壌はないものなのかね?
 
4位 『Country, God or the Girl K’naan カントリー、ゴッド、オア・ザ・ガール/ケイナーン
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ものすごくよくできたアルバムである。前作を聴いても思ったことだが、やはり少年時代をソマリアで過ごした彼には、絶対に欧米出身のアーティストでは作れない独特の音があることは否定できない。しかし音楽誌を含めて、彼の作品が評価以前に、取り上げられてもいないというのが現状である。そもそもジャンルレスで区分けしにくいものということもあるし、ラジオでもかけられにくいというのもあるけど、それにしてもなぁ…という感じである。彼に関しては、以前セルアウト的な評を耳にしたことがあって、ポップにも、ヒップホップにも足を突っ込み、アフリカンテイストも入れこんでどっちつかずという意味のようだったが、彼がアフリカにいたのは少年時代だけで、NYに出稼ぎに行っていた父から送ってもらったヒップホップのレコードが彼の音楽的土壌で、後にカナダに移住して吸収したポップミュージックと、すべてが融合されたものになってしかるべきものであり、彼にユッスー・ンドゥール的なものを求めるべきものではないはず。そんな彼を取り巻く状況を打破したのが、2010年サッカー、ワールドカップのテーマにも選ばれた“Wavin' Flag”のブレイクだったはずなのだが、その幸運をこの作品を売るために全く生かせられなかったのは、宣伝担当が無能だったのか…。何でこういう結果になったのか…残念でならない。共演しているアーティストを見れば、彼らから十分認められていることはわかる。このまま消えていってしまうのならば、あまりに惜しい才能だと思う。
 
 3位 『Channel Orange Frank Ocean チャンネル・オレンジ/フランク・オーシャン
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何? プレイステーションの起動音?かと思ったら、”Thinkin Bout You”1曲だけで、完全に打ちのめされてしまった。リリックは自分の心情を赤裸々に吐露したようなストレートさで、トラックもごくごくシンプルなもので、ヴォーカルを引き立たせるものに徹している。こんな感じでいいんだ…と思ったけど、こんな感じのものをあえて作ることこそ、いかに難しいかということだ。彼はMalayというプロデューサーと共作ではあるが、自分でソングライティングもして、トラックも作るというから恐れ入る。そして『Nostalgia, Ultra』の時もそうだが、自分の好きな要素を曲の中に取り込んだり、わかる人にはわかるような表現を色々入れ込んでみせる。後でわかって気づいたことの、なんと多いことか。まさに天才だ。Weekndなんて目じゃない才能だ。しかし、そればかりが強調されるのだが、同性愛とかなんとか言ったところで、何なの? 何の意味があるの? 好きだね~そういうスキャンダル的なことをとりあげるの。 
 
 2位 『good kid m.A.A.d city Kendrick Lamar グッド・キッド、マッド・シティーケンドリック・ラマー
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コンプトンという土地を、先入観で判断してはいけないことは『Section.80』で知った。そして、今作はアルバムの宣伝文句を借りるなら、まさにショートフィルムのような壮大なストーリーが展開する。一回くらい聴いただけではわからない自分の英語力のなさをとにかく悔やんだ。どこまでか創作なのかわからないが、ケンドリックの少年時代、K.Dotのコンプトンでの話ではあるのだが、何だろう…、自分の仲間を裏切れないために、ドラッグや強盗行為に手を染めてしまう心理や、警察に捕まったりする中での自分のもどかしさを語るようなリリックなんて、自分は初めて聴いたものであった。マッドシティー(コンプトン)の中で普通であることの難しさ、自分を奮い立たせるための、道をはずれないための言い訳として、フリースタイルラップがあったなんて、蟹江やジガには一生書けないリリックだろう。そんな自分とは少し違う存在だったはずのドクター・ドレやスヌープなどが彼をサポートするというヒップホップの土壌の深さ。2012年どころか、ヒップホップの歴史に残る金字塔的作品だと言っていいと思う。間違いなくナンバーワンである。
 
1位 『Home Again』 Michael Kiwanuka マイケル・キワヌカ
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あえてケンドリック・ラマーを個人的に1位にしなかったのは、これがあったからである。初めて聴いたときのインパクトも大きかったが、何度も続けて聴いてしまう、この安心感は何だろう。ウガンダのアミン政権の圧政から逃れてイギリスに渡った両親の元で生まれた彼は、様々な音楽を聴いて育つ。ジミ・ヘンドリックスオーティス・レディングジョニ・ミッチェルボブ・ディラン、ビル・ウィザース。数々の名前が挙がるミュージシャン達をミックスしたら、こういうものが出来上がりましたというべき音楽なのである。確かに言われてみれば否定できないし、そんな要素を見つけることができるのだ。後にアデルが彼をツアーの前座に抜擢したと聞いて、妙に納得したところがあった。これは理想的に純粋培養された音楽なのか? しかし、どことなく背景に感じる、独特の影や暗さは何なのだろう? おそらく両親から影響を受けた部分もあるのではないかと思われるので、それが今後見えてくるならば、もっとおもしろくなるのではという期待があってのランキングである。
 
とりあえずまとめである。しかし、なぜか一番よく聴いていたのは、2011年の作品である、The Black Keysの『 El Camino』であった。
1位 『Home Again』 Michael Kiwanuka ホーム・アゲイン/マイケル・キワヌカ
2位 Good Kid M.A.A.D City』 Kendrick Lamar グッド・キッド、マッド・シティーケンドリック・ラマー
3位 『Channel Orange』 Frank Ocean チャンネル・オレンジ/フランク・オーシャン
4位 『Country, God or the Girl』 Knaan カントリー、ゴッド・オア・ザ・ガール/ケイナーン
5位 Ohnomite』 Oh No
6位 Food & Liquor 2 The Great American Rap Album Pt.1』  Lupe Fiasco フード&リカー2 ザ・グレイト・アメリカン・ラップ・アルバム パート1/ルーペ・フィアスコ
7位 『Brack Radio Robert Glasper Experiment ブラック・レイディオ/ロバート・グラスパー
8位 『All Of Me  Estelle オール・オブ・ミー/エステル
10位 『Celebration Rock Japandroids  セレブレーション・ロック/ジャパンドロイズ
次点 『Sorry To Bother You』  The Coup