今さらながら私の2011年ベストアルバムを記録しておく①

もう8月であるが、致し方ない。これまで音楽雑誌やネットでの情報をくまなくチェックしてきたこともあるので、それらを精査した上での、私の2011年ベストアルバムを記録しておこう。せっかくなので、どちらかといえば、あまり評価されていない、忘れられているかのような作品を前面に取り上げられればと思っている。
 
10位The Whole Love ザ・ホール・ラヴ』 Wilco ウィルコ(ソニー)
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基本的に私はロックバンドこそ、一筋縄ではいかない奴らこそが理想だと思っている。今やロックというジャンル自体が、「保守」の代名詞にすらなっている時代。新作を出しても、やっぱりこんな感じなのねとしか思えないものならいらない。定型の美学という言葉もあるが、そんなものをありがたがるほど、まだ年を取ってはいない。そういう意味で、このバンドにはいつも何かしら驚かせてくれる要素がある。自身のレーベルを設立したということもあるのだろうが、最近の作品に比べて、楽しんでやっている印象が残る快作だと思う。1曲目からいきなりどこかのバンド?みたいな曲から始まる。これは狙いなのか? まさにつかみはOKで、ひねくれ加減満載である。かと思えば、初期を思わせるようなテイストの曲もあったり、最後はなんと12分を超える曲である。これは楽しんでやっていないわけがないであろう。ロックのアルバムとはこういうものだと納得させてくれる作品であり、断固私は支持する。
 
9位『Stone Rollin’ ストーン・ローリン Raphael Saadiq ラファエル・サーディク(ソニー)
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 このアルバムのすごいところは、ここ最近の彼の作品につながるのだけれども、この作品をそれこそ30年後の人間が何も知らずに聴いたとしたら、ほんとに60年代、70年代の作品だと思ってしまうのではないかというほどの再現力である。楽器はもちろん、サウンドの聴こえ方まで当時の作品、彼が敬愛するレトロサウンドを完璧に作り出している(歌詞まではチェックできていないが、現代でしか使われていない言葉は使っていないのかもしれない)。しかも今作は、前作のモータウンサウンドに比べ、さらにファンクロック色が強く、この辺りの音が好きな奴にはたまらないものだ。その技術力からももっと評価されていいアルバムだと思う。ただ悲しいかな、私などはその先にもう一つ求めてしまう。例えば2008年のソランジュ(ビヨンセの妹)のアルバム『Sol-Angel& The Hadley St Dreams』(今でも聴く名作だと思う)みたいな、レトロサウンドがあった上での、どこかに現代的な要素のアレンジが加わっていたりするものとか。しかし、ラファエル・サディークには、そんなことを求めてはいけないのだろう。彼は現代的な要素をすべて排除してでも、完璧に当時の音を再現することにこだわっているのだから。
 
8位Section 80 Kendrick Lamer ケンドリック•ラマー
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 このアルバムは、CDにはなっていない。ミックステープである。なので、雑誌にはなかなか取り上げられないものではあるが、今やヒップホップでは、ミックステープにこそトレンドがあるのは、周知の事実。そんな数あるミックステープの中でも、特に強烈な印象を残したのが、この作品だった。最初はトラック選びの新鮮さに惹かれた。かなりおもしろいじゃないかと。しかし、その個性的なフロウにも耳を傾けているうちに、気になるワードが色々と出てくる。そう。それは黒人が人種問題を語る上での言葉、最近のヒップホップではあまり出て来なくなったワードなのだ。そもそも①曲目のタイトルからして、“Fuck Your Ethnicity”(人種なんてクソくらえ)なんだから。これは相当のことを言っているんじゃないかと、リリックが掲載されているサイトを確認してみた。そして彼自身が語った黒人の歴史問題についての記事も発見。いや、これはすごい。これだけ自分の考え方をオープンに話せる人はなかなかいないだろう。やはり、我々(特に自分のような日本人)がヒップホップに求めるものは、このような衝動なのであるのだ。まだ25歳というラッパー。若いからこそできるのか、彼は本当に革命家なのか、それは歴史が明らかにしてくれるだろう。今年、フルアルバムがリリースされるというのでそちらにも期待である。モス・デフ(今はヤシーン・ベイですな)が、最初注目された時の時代の状況と似ているのかもしれないとも思った。
 
7位『El Camino エル•カミノ The Black Keys ザ•ブラック•キーズ (ワーナー)
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このバンドは最初に聴いた時、黒人のバンドかと一瞬思ってしまった。それくらい黒さを感じさせてくれる音楽である。実際は、オハイオ州アクロン出身のサエない感じの白人の兄ちゃん2人組で、そもそもバンドとも言えないようなユニットである。その編成(ギターとドラムス)からホワイト・ストライプスと比較されたりもするようだが、ストライプスがカントリーの影響が多々感じられるのに対して、この人達にはそんな要素は皆無。どこまでも泥臭く黒くブルースなのである。どちらと言えば、初期のストーンズに近いか。実は自分の中でここ数年で出てきた新しい人達というイメージがあったのだが、なんと今作が8作目のスタジオアルバムというから結構キャリアは長い。そして今作は全曲をあのデンジャーマウスがプロデュースしている。デンジャーマウスは、すでに前々作から彼らと関わってきたようで、その目利きの良さにも驚くが、言われてみれば納得のサウンドワークである。ブルースでもなくロックでもなくファンクでもなく変幻自在な音楽が展開しているのだが、ただ、どの曲をとっても感じる黒さは、まさに彼ら2人の音楽的素養によるものなのだろう。実は、彼らは2001年にヒップホップのアーティスト達と組んだコラボアルバム(サウンドはすべて2人が製作)『Blaqroc』を出していたのだ。そういえば、確かそんなアルバムがあったような記憶もあり、それで彼らの名前を知っていたのかもしれないという気がしてきた。彼らのブラックミュージックとの親和性はそんなところからも知らされるものであったのだ。日本での知名度はイマイチかもしれないが、アメリカでの人気はとにかく凄まじい(ロラパルーザ2012ではヘッドライナーである)、せっかくだからここで記録しておく価値はあると思った次第である。