今さらであるが、私の2008年ベストアルバムはこれだ!③

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 第4位 『Something Else サムシング・エルス』Robin Thicke ロビン・シック(ユニバーサルUICS1171)

 期待しなかった作品ほど、ものすごく素晴らしく感じるものというものは多分にある。このアルバムも、bmr以外の音楽雑誌では全く振り返られることもない作品だが、もっと評価されてもいい、そういうものだった。ジャスティン・ティンバーレイクならば聴くはずの他の音楽雑誌の人達は、これを聴いていないのだろうか? bmrいわく「ニーヨよりも黒い」という白人アーティストだが、その才能と引き出しの多さは彼ら以上なのではないかと驚くばかりなのであるが。

 その家庭環境にも大変興味があるが、彼は小さい頃からR&Bやヒップホップを聴いて育ち、ロックは17歳になるまで聴かなかったという。16歳の時にはラジオから流れる曲を聴くだけで演奏ができたそうで、すごい絶対音感の持ち主なのだろうが、彼は最初ソングライターとして注目された。アギレラやアッシャー、メアリー・J・ブライジなど錚々たるメンバーに曲を提供しつつ、自らパフォーマーとしてソロアルバムも出し、2作目の前作『Evolution Of Robin Thicke』で、シングル“Lost Without U”のメガ・ヒットもありダブルプラチナを売る大成功、数々のアワードにも輝いた。

 私はその前作から知ったのだが、その当時の感想は、「なんかクソ甘ったるいなあ」というものだった。彼の売りは“Lost Without U”に見られるファルセットであり、ライヴ客の大半は黒人女性という話もあるから、ファンはそれを期待しているのだろう。あのリル・ウェインと組んでも、その個性は揺らぐことがないほどだ(自分が作る曲なのだからアレンジは好きなようにできるわけだけれども)。だが、彼の魅力はそこだけではなかったのだ。

 前作ではほんとに気付かなかったのだが、彼のすごいところは、むしろどファンキーな曲にあると言っていい。特に今作は70年代ソウル、ファンクにオマージュを捧げたというだけあって、力の入れ具合がちがうようで、注目すべきは明らかにこちらの方であり、彼の音楽的背景もうかがえて実におもしろいのだ。

 АHard On My Love”“Something Else”“Shadow Of Doubt”などのブラック・ムーヴィーのサントラみたいな曲やディスコ調のグルーヴなど、この人が好きな色々な曲がまんま自分の趣味とシンクロした感じになり、久々に鳥肌が立った。どんな白人アーティストや少々の黒人アーティストにも負けない黒さ、ファンキーさである。最初の印象だけで判断してはいけないものだと実感した。どうでもいいバラードばかりのニーヨや、立ち位置が近いジャスティン・ティンバーレイクと比べても、はるかに才能が感じられるのだが、どうだろうか? それこそジョージ・マイケルやダリル・ホールよりもすごいかもしれない。

 リリック的に、露骨すぎる直接的表現が少ないように見えるのは白人アーティストならではのゆえなのか? あえてこのアルバムの難点を言うならば、アップテンポな曲をまとめて並べた方がよかったのかなと言う点だ。メロウな曲がポツポツ間に入ってくるのは、やっぱり流れを止めてしまう。


 第3位 『Sol-Angel And The Hadley St. Dreams ソランジュ&ザ・ハドリー・ストリート・ドリームス』Solange ソランジュ(ユニバーサルUICF1107)

 ビヨンセの妹、ソランジュの2作目である。姉の2枚組の大作は、私的ランキングには入れなかったものの、妹のこの作品はこんな上位に入れることになった。それだけのインパクトのある作品だったというわけである。

 ファミリーの秘蔵っ子として、16歳でソロ1作目を出すものの、姉とちがって早くに結婚し出産したため、音楽活動から身を退いていた形になっていたのだが、それでもビヨンセソロ作などに、彼女の名前はソングライターにクレジットされていたりして、全く引退していたというわけではなかったようだ。そんな彼女の満を持しての復帰作がこれで、まさに期待に違わぬ内容のものである。

 このアルバムで言われることは、懐古趣味やモータウンへのオマージュというものである。どちらかと言えば、映画『ドリームガールズ』を通過した姉が取るような路線のように思えるが、それを妹の方がやったことが実に興味深い。シュープリームスマーヴェレッツなどの古き良きモータウンサウンドへの愛が感じられて楽しい。しかし、重要なところは、それが決して古くは聞こえないところだ。それは一曲一曲を聴いてみれば、聞こえてくる音の組み合わせ、構成の仕方からして今の時代だからこそできる実験をやっているのだとわかる。あえてねらって古く作った『ドリームガールズ』とは、方向性は全く違うと言っていい。それは、プロデューサーやアレンジの仕事ではあるだろうが、ネプチューンズやジャック・スプラッシュ、マーク・ロンソンなどの個性的な人達をもってしても、そのちがいをわからせないほど貫かれているアルバムコンセプトの方が立っているのは、彼女の手腕と言えるだろう。

 さらにこのアルバムのすごいところは、彼女の趣味であろうエレクトロニカも反映されているところだ。後半になってから、特に“Cosmic Journey”や“This Bird”でやっていることは、もはやR&Bとエレクトロニカの融合である。こんなことをやろうとしている人が他にいるだろうか? 彼女がただ者ではないことを十分わからせてくれたように思う。ただ悲しいかな、何もしないでも売れる姉の作品とちがって、レコード会社のちがいもあるが、その圧倒的プロモーション量のちがいによって、この妹の作品が広く世に知られるという風には行かなかったが。PVもおしゃれでおもろかったのになー。

 姉がよくやる独特のこぶしをつけるような歌い方をあえてしないのも、彼女の個性の主張なのか? でもこのアルバムでわからないのは、こんなタイトルにしなくてもよかったのになあということだ。事務所のある通り(ハドリー・ストリート)ということだが、そんなつかみどころのないものよりも、それこそ曲にもある“Sandcastle Disco”とかにしておけば、曲の雰囲気とかアルバムの方向性とかも感じてもらえたりするのにとか思った。


 第2位 『Shine シャイン』Estelle エステル(ワーナー WPCR12941)

 イギリス、ウエスト・ロンドン出身の28歳。シンガーであり、ラッパーであり、ソングライターでもあり、プロデュースやリミックスもできるという、まさに最強という言葉はこの人のためにあるというアーティストである。その多才ぶりは、引っ張りだこというべき数々の客演が証明しているだろう。ローリン・ヒルと比較されるのはそれゆえであろう。このアルバムは、ジョン・レジェンドのレーベルが第一弾アーティストとしてリリースしたもので、本人の作品としては2作目にあたる。

 そのサウンドは色々言われているように、ヒップホップとジャズ、R&Bそしてレゲエをミックスしたものと言うしかないもので、実にバラエティに富んでいる。特にレゲエっぽい曲が実にイギリス出身の黒人らしくていい。曲順の割り振りも考えられていて、まさに完璧なアルバムだ。それぞれの曲はプロデューサーもそれぞれ変わっていて、2曲担当しているのはwill.i.amとワイクリフのみ。しかし根幹のソングライティングはエステル本人のようで、メロディーの中には彼女のくせというか独特の回しが見えてきて、好感が持てる。さらに本人が「100%真実」と言い張るリアリティの垣間見られるリリックも魅力の一つだと思う。

 さらにこのアルバムは、今どきのヒップホップのアルバムでは少なくなった、サンプリングのクレジットを事細かく表示してくれている。中にはジョージ・マイケルボブ・マーリーサイモン&ガーファンクルのような誰もが知っている曲があったりして、あえてそういう曲を使って聴きやすくしているわけではなかろうが(いわゆる大ネタ使いというわかりやすいものでもない)、これがこうなっているのかと納得したり、想像したりする、ヒップホップの原初的楽しみも味わせてくれている。

 このアルバムは実際本国イギリスでは大ヒットし、シングルの“American Boy”チャートの1位にもなり、昨年最も売れた曲の一つと言ってもいいほどだった。カニエ・ウエストがラップしているので、蟹江の曲と思っている人もいるかと思うが、この曲のプロデュースはwill.i.amだ。しかもビートは、自身のソロ作『Songs About Girls』にも収録されている曲“Impatient”のまんま使い回しである。いやあ、確信犯というか開き直りというか、こういうのもありなのねと正直思うほどだ。それが大ヒットするのだから、世の中はわからない。実際、蟹江がからんだ曲では、昨年一番ヒットした曲かもしれない。だとしたら、皮肉なことだ。

 この曲がイマイチ、アメリカでウケなかったのは、(おのぼりさん的な?)歌詞のせいだったのだろうか? そのせいなのか?このアルバム自体もイマイチ注目されなかったように思える。グラミーもほとんどノミネートされなかったし(そんな中でおそらく唯一受賞したのが、Best Rap / Sung Collaborationで、この曲“American Boy”だった。アメリカ人の評価はよくわからん)。しかし、少なくとも同じUK勢のアデルやダフィーに比べても(彼らにしてもアメリカで特別大ヒットしたわけでもない)、昨年旋風を巻き起こしたエイミー・ワインハウスすらよりも、はるかにこちらエステルの方が才能豊かなように思えるのだが…。ルックスのせいなのかねぇ…。


 3回で終えるつもりが、字数制限で1位が入らなかった。