2018/11/18 Pusha T - The Daytona Tour Part 2 @ The Vogue, Indianapolis, IN(Live)

 11/18(日)この日は夜になってからも予定を入れていた。ラッパー、PUSHA Tのライブである。インディアナポリスは他の都市に比べてそもそもライブが行われる数も会場も少ないのだが、その中でもおもしろいかなと思ってチケットを買った。PUSHA Tは、彼が元いた、兄弟のヒップホップユニットClipse(クリプス)のアルバムを聴いていたことがあって、結構好きだったからだ。

 Clipseは、兄のNo Malice(以前はMaliceだったが、改名してNo Maliceに)本名ジーン・ソーントンと、弟のPusha T、本名テレンス・ソーントンからなるデュオで、ヒップホップでは珍しいヴァージニア・ビーチから出てきた2人だが、プロデュースをネプチューンズが手掛けたということで話題になり、聴いてみたところ土地的にはサウスであるのだろうが、サウス・ヒップホップとは全く違うポップでファンキーな感じに興味を持った。そんなClipseはもう兄弟としては一切活動していないようで、完全に袂を別ったのかもしれない。 
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 Clipseを離れてソロになったPusha Tであるが、それまでClipseは知る人ぞ知るヒップホップユニットであり、彼はそれこそソロになってから売れた人で、というのもソロになり、カニエ・ウエストのGOODレーベルと契約し、プロデュースもカニエが関わったりしたこともあって、大ヒットにつながったのだ。ネプチューンズではないが、ファレル・ウィリアムスもソロになってからのプロデュースには関わったりしていて、ラッパーの才能はともかく、人脈作りというか人望は相当なものなのだろうと思う。その後、PUSHA TはGOODレーベルの社長にまでなってしまったわけだから。実際、売れたには違いないが、世間的には、ラッパー、ドレイクとのビーフ騒動で有名になったと言った方がいいのかもしれない。いずれにしても、今、兄貴はどこ行ったの?という感じになるほど、兄弟の知名度の格差が開いているのである。兄は地道に活動はしているようだが。 

 PUSHA Tのソロ作はそれほど聞いていなかったが、今回ライブに行くのでおさらいした。カニエのわかりやすい類のビートが多くて、嫌いではない。2018年は、彼の3枚目のアルバム『DAYTONA』が大ヒットし、シングル”If You Know You Know”は、年を代表するほどのヒットシングルとなった。ちなみに『DAYTONA』のジャケットは、あのホイットニー・ヒューストン麻薬中毒で亡くなった当時の部屋のバスルームの写真だったことでも話題になった。悪趣味というか何というか、アルバムの中身がそれと何か関係があるかというと何もない、ただの話題作りだ。その写真の使用料は85000ドルで、カニエが支払ったようだ。そんなことがあって彼の全米ツアーが行われ、はるばるヒップホップとは無縁の土地と言えるインディアナポリスまで来ることになったというわけだ。
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 会場はThe Vogueという比較的新しめのライブハウスのようだが、インディアナポリスダウンタウンにあるわけでなく、結構な郊外で、車でないと行きづらい場所で面倒くさい。駐車場代もかかるだろうなと思いつつ、そこは仕方ないと覚悟する。インディアナポリスは結構な都会であるが、地下鉄はないし、バスはあるようだがほとんど見かけないので、公共の交通網は発達していない。だから、車を持って生活できる人しか住めない、比較的裕福な治安のいい街ということなのであろう。

 ライブの開始は21時からとなっていたが、ヒップホップのライブなので、いくつか前座があるだろうとは思いながらも、21時ちょい前に着くように出かける。実はPUSHA Tのいた兄弟ユニット、Clipseはファッションブランドも手がけていて、そのPlay Cloth(プレイ・クロース、このブランドはまだ存続しているようだ。兄、弟どっちが主体だったのかは不明)のシャツを持ってきていたので、それを着て行くことにした。誰もわかってくれる人はいないだろうなと思いながら…。会場はほんとに郊外の街で、こんなところにライブハウスがあるのねというところだったが、大きな看板があるのでわかった。裏道に入ると駐車場らしき場所があり、おばちゃんに金を払って車を止める、金額は忘れたが安かった。しゃーないか。
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 The Vogueはインディアナポリスでは有名なライブハウスで、もちろん普段はヒップホップでも何でもなく、ロックバンドなどがライブを行うところであった。中に入ると驚いたのは、さすがインディアナポリスというべきなのか、客が白人ばかりだったということだ。ほぼ9割はそうだろう。アジア系どころか、黒人もほとんど見かけない。しかも白人客のほとんどは、普段ヒップホップを聴くとも思えない大学生みたいな若い連中ばかりで、女子も結構いるのだ。ステージ前には、人が集まっているが、ステージ上では前座などはやっていない。もしかしたら、そのまますぐ始まるってことなのか? 
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 15分くらい何もない状態が続くと、会場が暗転して、PUSHA Tのライムが響く。これはまぎれもない生声で、”If You Know You Know”の冒頭部分であった。すると観客もそれに答えるようにリリックを叫ぶ、すると会場は一気に明転し、ステージ上にはPUSHA Tが登場していて、さらに歓声が上がる。そして、トラックが鳴り響き、”If You Know You Know”の大合唱が始まる流れ。まさかライブ冒頭に大ヒット曲、”If You Know You Know”を持って来るかということにも驚いたが、すでに会場の盛り上がりは最高潮に達していた。さらに驚いたのは、白人ばかりの観客が皆が皆ほぼ合唱してライムを叫んでいることだ。インディアナポリスってこんなにヒップホップファンがいたのか、そんなにPUSHA Tを聴いてるの?というのが信じられなく、逆ににわかで聴いていた自分もつられて、はじけてしまった。
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 前座も何もなく始まったヒップホップのライブ。これはインディアナポリスだからか、それともPUSHA Tだからなのか、12時前に始まればいいやと思っていた自分には、その辺のアメリカのヒップホップのライブ事情が未だにつかめていない。さらにビックリしたのは、ステージにいるのは、PUSHA Tの1人のみで、DJもいないし、ゲストや子分的なラッパーすらいない。ましてやステージの装飾なんて何もない。照明だけだ。金かかってないねー。何なの? これはカラオケなのか? 裏でDJが音を出しているのか? など思いながら、どんどんライブは進行していくのだ。
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 ”The Game We Play” ”Hard Piano”と、アルバム『DAYTONA』の曲が続く。リック・ロスのパートなどは本人の声だったから、マイナスワンのトラックを使っているということなのだろう。その後は、”Nostalgia” ”F.I.F.A.”など、さらに前のアルバムの曲を演った後、懐かしい耳慣れたフレーズが聞こえてきた。おう、これはカニエのアルバムの曲だ。なんと『My Beautiful Dark Twisted Fantasy(2010)』の曲、”So Appalled” である。fuckin ridiculousのリリックで思い出したよ。そして ”Run Away”である。PUSHA Tはまだソロデビューする前に、これらの曲でカニエのアルバムに参加していたんだと思い出す。ずいぶん懐かしいけど、それでもまだ8年前だ。あらためて聴いても、歌詞も曲も切ない、若いねえ。この頃のカニエ・ウエストはほんとに最高だった。何が彼を変えてしまったんだろう。結婚してからかな、今とは別人のようだ。ていうか、こんな曲をPUSHA Tは、2018年のライブでやるのね。確かにクラシックやけどさ、泣けてきたよ。
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 さらにカニエとのコラボ曲、”New God Flow”が続くと、その後で流れたのは、”Grindin'”。Clipseの曲であった。しかも、ファーストアルバムの『Lord Willin'』の収録曲で、最初のシングルである。やることはやるんだと思ったが、結局、Clipseの曲でやったのはこれだけであった。過去の音楽ニュースを見てると、Clipse再結成かみたいな記事も出てきたけど、もう今さらリユニオンする理由もないわな。
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 後半はアルバム『DAYTONA』の曲が続き、結局アルバムの7曲全曲やったことに。となると、そこから前のアルバムの曲をやるのかと思いきや、以降は外部仕事の曲とカバーであった。カニエ・ウエストとキッド・カディのプロジェクト、KID SEE GHOSTSの”Feel The Love”(確かにこの曲はPUSHA Tがフィーチャされている)、そしてGOODレーベルのプロジェクトの曲、”Mercy”、さらにFUTUREの曲、”Move That Dope(2014)”(確かにこれもファレルとPUSHA Tが参加しているけど、こんな曲もあったなという印象しか、この時はなかった)、そして次のCHIEF KEEFの曲、”I Don't Like(2012)”と来たら、確かにGOODレーベルの曲ではあるが、もうPUSHA Tが参加している曲でもないし、わけがわからない。ただ単純なわかりやすい曲ではあったので、この時は曲名もわからず、自分は客と一緒に盛り上がっていたのであった。後で調べてみると、社長だけに本当にGOODレーベルの広報をしているようなものだったことに気付いた。何だかね~。
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 会場には「RAP ALBUM OF THE YEAR」とどデカくプリントされたTシャツやフーディーが売られていて、これ誰が買うんだと思うものであったので(確かにPUSHA Tがそれを目指すと言っていたものであるが、何か恥ずかしいよな。ちなみにTシャツのブランドはPlay Clothではなかった)、そのままスルーして部屋に帰る。フットボールゲームのあった日であるが、インディアナポリスダウンタウンは、特に大きな騒ぎがあることもなく、静かな街であった。
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