今さらであるが、私の2008年ベストアルバムはこれだ!②

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 第8位 『The In Crowd』 Kidz In The Hall (Duck Down DDM CD 2075)

 シカゴ出身のラッパー、ナレッジ(Naledge)とトラックメイカー、ダブルO(Double O)、大学のクラスメイトである2人のユニット、キッズ・イン・ザ・ホールの2作目のアルバムである。2006年の1作目は、復活したロウカス・レーベル(Rawkus Records)から出るほどの期待株で、こちらも良かったのだが、この2作目はさらにすごいことになっている。(ちなみに今作はロウカスではない。ロウカス聞かないけど、またつぶれたのか?)

 基本は1作目と同様、90年代を意識したサンプリング・ミュージックなのだが、ホーンやストリングスはもちろん、ディスコビートやサウス系な音やボーカルエフェクトもあったりと、さらにカラフルさを増している。しかも、Estelle、Phonte (LITTLE BROTHER)、Bun B (UGK)、Cool Kids、Pusha T (CLIPSE)、Black Milk(この人最近かなり好きである)、Guilty Simpson、Buckshot、Masta Aceなど、メジャーからアングラまでほとんどの曲がゲスト参加という豪華さだ。実際、フロア向けの曲も多数あり、正直これがヒットしなくてどうする?と思ったくらいだ。

 さらにオバマの選挙用キャンペーンソング“Work To Do”も制作したのも彼らだ。私は、will.i.amの“Yes We Can”よりこっちの方が何気に好きである。特にTalib KweliとBun Bが加わったリミックスはカッコイイ。同じシカゴ出身ということで注目されたのだろうが、ナレッジ自身も政治的主張を展開し、銃規制なども唱えているコンシャスなラッパーである。しかし時代は彼らに追い風となるかと思いきや、残念ながらそこまでのブレイクには至っていないようで、本国はともかく日本では日本盤も出ていないし、amazon.co.jpのレビューすら未だナシの状況である。

 このアルバムに“Work To Do”を入れれば良かったのかもしれないが、後に発売されたdeluxe editionにも入っていないことを見ると、権利関係で入れられなかったのか(オフィシャルのmyspaceでは無料でダウンロードできるようにしていたようだが)。別に彼らの政治的な主張が嫌われたわけではないと思うのだが…、レーベルの規模の違いなのだろうか?

 今や古きと言わざるを得ないのが悲しい過去のヒップホップを昇華した、こういう新しいヒップホップが、ブレイクすることなしに忘れ去られてしまうというのなら非常に辛いことだ。悲しいのは、雑誌bmrのベストアルバムランキングにおいても、ライター別のベストテンにおいても、この作品を挙げていた人物が皆無だったことだ。クール・キッズと間違っている人もいたりして? まあしかしクール・キッズにしても挙げている人間は一人くらいだったから、この雑誌の偏りにはほんとに憂いを感じる。ていうか聴いてないならまだしも、ヒップホップ好きがこれを聴いても何も思わないのかなと思うと、正直悲しい。


 第7位 『Santogold サントゴールド』(ヴィレッジ アゲイン VSO-0043)

 これもまた今作がデビュー作のアーティストだ。フィラデルフィア出身のアフリカ系アメリカ人、スティッフドというパンクロックバンドのボーカルとして活動の後、ソロデビュー。父親がJBフェラ・クティを聴き、姉はバッド・ブレインズやスミスを聴き、黒人は学年で自分一人だけという学校で、友人達がU2トーキング・ヘッズを聴く中で育った彼女に付けられたコピーは「ネクストM.I.A.」だった。

 確かにダンスホールからパンク、アフロ、中近東、ヒップホップ、R&Bなどあらゆるものをぶちこんだ無国籍サウンドはほんとに痛快で、M.I.A.と通じるべきところはあるが、ただM.I.A.と違うところは、彼女には根底にポップミュージックを土壌に育ってきた、ツボをわきまえた展開を心がけているように感じられることだ。わかりやすいと言えばわかりやすい。M.I.A.の音楽でたまに感じられた、完全に突き放されたような異国の音楽的感覚はそこにはない(M.I.A.も2作目はずいぶんわかりやすくなったと思うが)。破綻がないといえばないのでそこが少しさびしいといえばさびしいのだが、私はそこに逆にM.I.A.よりも可能性を感じることができる。事実、アーティストはリリー・アレンからビヨーク、プロデューサーはマーク・ロンソンからネプチューンズとその交友関係や活動範囲は幅広くつながっているし。

 しかし、かつてM.I.A.をさんざん持ち上げた音楽雑誌は、このサントゴールドに関してはとりわけスルーを決め込んでいる。実際これを聴いているのかいないのかもよくわからんが…(ちなみにCDのライナーはロッキング・オンのライターが書いているのだが)。わずかにSNOOZERが2008年のベストの51位に入れているくらいだった(要するに次点である、入れているだけマシか)。その音楽性からか、ロック雑誌でもブラックミュージック誌でも、隙間がないと取り上げられないような彼女であるが、それこそM.I.A.のように突然火がつくビッグヒットを飛ばす予感も少なからずする。そんな時、彼らがどう言うか見てみたいものだ。ちなみにサントゴールドという名前は訴えられて、今年サンティゴールド(Santigold)に改名したらしい。


 第6位 『The Renaissance ザ・ルネッサンスQ-Tip Qティップ(ユニバーサルUICT1041)

 この作品については、これまでも幾度となく記してきたので、できればサラッといきたい。雑誌bmrがなんと年間の39位!?につけた理由は、「シーンの関連性や時代の表現に甘さがあること。それと、過去作でボブ・パワーやJ・ディラと生み出してきた他者との交わりによる魔法、といったものは聴かれない」といったものだった。

 しかし、それは様々な紆余曲折があって9年たってようやく2作目を出すことができたQ・ティップにとっての、ほぼすべて一人で作ったもので固めて出す(ゲストラッパーやゲストプロデューサーはナシ)ということは、現行のヒップホップの製作状況へのアンチテーゼであり、自分はここまでできるんだという自信の表明であると、解釈すべきものではないだろうか。たとえ古いと言われようとも、あえて今出すにはこの形でしかありえなかったととらえるべきものではないだろうか。もう一度シーンに名刺を突きつけるかのような感じに。

 逆に言うと、「この次は何をやるかわからんよ、予想するならしてみろ」という意味であるのかもしれない。それがソロ第3弾かトライブの復活作になるのかどうかはわからんが、期待を高めてくれたことは確かだ。

 他の雑誌やライターのランキングでは、この作品は軒並みランクされており、やはり彼の影響力は未だ健在だということが認識できた。正直このアルバムの音をいつ作ったものかと言えば、ずいぶん前のものかもしれないけれど、みんなこの音をほしがっていたのだ! 私は1曲目“Johnny Is Dead”を聴いた時に涙が出そうになった。私のベストトラックはぁOfficial”である。トライブのまんまと言われれば、その通りな曲なのだが。ちなみに来日した時は、普通にバンド形式でした(発売されなかったアルバム『カマール・ジ・アブストラクト』の製作時は、バンド形式を指向して作っていたそうだが、その時の形態と変わっているのかいないのか)。

 何で6位なんだと言われれば答えに困るが、それ以上にインパクトのあるものがたくさんあったからである。


 第5位 『ディア・サイエンス Dear Science』 TVオン・ザ・レイディオ TV On The Radio(ベガーズジャパン/ワーナー WPCB-10090)

 バンドがどんどんメジャーになっていくのを体感しているかのような感じだ。メンバーのデヴィッド・シーテックが、フォールズやスカーレット・ヨハンソンなどのプロデュースで頭角を表し注目が集まる中、最高のタイミングでリリースされた3作目の本作は、各所で言われているように最高傑作と呼ぶにふさわしい作品だと思う。

 一曲一曲の長さは短くなっているし、変則的なビートはほぼ影を潜め、初めての人でも取っつきやすい感じになっている。今あらためて彼らのファーストを聴いてみると、まるで民族音楽のようだ(時代の変化を感じるとともに、この時の路線はこれはこれで大好きな自分もいる…)。しかし、独特の攻撃性や空気感は未だ健在だし、リリックに見られる唯一無二の世界観はそのままで、決して売れ線を狙っているわけではない。くそおもしろくないジャケットもそんな一因であり、中身に対する自信なのか。例えば、“Dancing Choose”とΑFamily Tree”どちらも素晴らしい曲だが、これを同じバンドがやっていることが、彼らの魅力であり、懐の深さなのだと思う。

 そこにあるのは純粋なロックミュージックでは決してない。根ざしているのはまぎれもなくソウルミュージックに裏打ちされたファンクであり、ダンスミュージックである。もちろん純粋なブラックミュージックではないだろうが、このバンドが評価される場が、ロック雑誌であり、ロック畑ばかりであることが悲しい。雑誌bmrでは、ランキングには入らないし、インタビューはおろかレビューも掲載されない(ライターには年間ランキングにこれを挙げる人がいたのがまだ救いか)。このバンドが、ブラックミュージックのカテゴリーの枠内で語られることはこれからもないのだろうか?(実際アメリカでも、ブラックミュージックとしてかかることも少ないのだろうが)そんなメディアへはかない期待をするよりも、彼らバンドメンバー自身がこれまで以上に様々なアーティストとのボーダーレスな交流をはかることで、進んで壁を破ってくれることだろう。そう考える方がはるかに現実的だ。

 彼らは今年夏までワールドツアーを行うが、残念ながら日本に来る予定はない。これだけ完成した音を構築しているバンドでありながら、ライヴのおもしろさも定評があるのが彼らだ。即興的な要素もけっこうあったり、何を仕掛けてくるかわからない、まさに惹き付けられるライヴのようだ(実際、生で見たことがないので何とも言えないが)。今回のツアーもそんな感じなのかどうかはわからないが、これだけの曲を演るのだから一筋縄ではいかないものであることは確かだろう。ちなみに今回のアルバムのサポートメンバーには、Chin Chinにも参加していた、日本人らしき人物Yoshi Takemasa(Percussion)の名前があった。ツアーにも一緒に出ているんでしょうかね?