今さらだが、私の「2007年のベストアルバム」はこれだ!(完結編2)

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 今度こそこれで最後です・・・、引き続きランキング。しかし長かった。かといってこれらを短くする気力ももうなかった・・・

 第1位 『EARDRUM イヤードラム』 Talib Kweli タリブ・クウェリ(ワーナー WPCR-12698)

 ここまでずいぶん長かったが、記念すべき第1位に選んだのはこれだ。主宰するレーベルblacksmithからの最初の自身のアルバムとなったこの作品は、R&Bラップチャートで初登場2位にランクされるなど、自己最高のセールスとなるヒットとなった。20人になろうかというほど書ききれないゲスト&プロデューサー陣、そしてめまぐるしく変わるトラックの多彩さ。そのセールス結果も納得できる彼の最高傑作だ。メジャーのワーナー傘下とはいえ、新しくレーベルを立ち上げるには彼個人の努力がないとつとまらないし、彼自身に対する信頼がなければ、これだけ大勢の人々は参加しないであろう。

 今回彼がアルバム作りに関して志したのは、これまでのコンシャスなフューチャリスティック・リリシストという音楽第一主義を捨て、レーベルの顔として自分自身をも売り込むということ。その結果今回のアルバムでは、これまでのイメージでは考えられなかった組合せも実現する運びとなったのだという。

 きっかけはアンダーグラウンドの鬼才、マッドリブと組んだ『Liberation』だろう。マッドリブの所属するストーンズ・スロウのウェブサイトで一週間限定の無料配信されたこの作品は、後にタリブのレーベルblacksmithからCD化された。この作品は実際すばらしかったのだが、タリブ自身も相性の良さを感じたのか、この『Eardrum』でもマッドリブは Everything Man」、АEat To Live」、「Soon The New Day」の3曲という最多のプロデュースを担当している。中には生楽器というかミュージシャンを使った曲だったり、はノラ・ジョーンズが参加している曲だったりしたのに、マッドリブはまともにプロデュースできたのか?と正直思ったが、できた曲を聴けば大丈夫だったのだろうと思うしかない(まあ彼は後で音だけもらって作業したかもしれんし)。その後のマッドリブは今年エリカ・バドゥのアルバムにもフィーチャーされて大活躍。もうアンダーグラウンドでもなんでもなくなった。

 その他にもこのアルバムには無駄な曲がないというか、どの曲もピックアップできるだけの話題を持っていることがすごい。カット・ケミストとジャジー・ジェフが参加した◆NY Weather Report」、そしてこのアルバムの一つのテーマでもある、これまでの自身を語った、「敵意あるゴスペル」なんてタイトルからして興味深い「Hostile Gospel(Pt.1)」はジャスト・ブレイズ作。さらにぁSay Something」と「Hot Thing」はブラック・アイド・ピーズのウィル・アイ・アム作。どちらもライヴ受けする曲で、中でもはこのアルバムベストトラックだろうと思うほどのデキだ。そしてUGKとまで組んだ驚きのァCountry Cousin」。さらにカニエ・ウエスト作の─In The Mood」、盟友Hi-Tek作の「More Or Less」も十分シングルになり得る作品。「Stay Around」はピート・ロックがクール・アンド・ザ・ギャングネタをかますこれまた最高の作品だ。そしてタリブの尊敬するKRSワンとの競作「The Perfect Beat」。Musiq Soulchildが参加した亜Oh My Stars」、ジャスティン・ティンバーレイク参加の魁The Nature」と音楽雑誌ならどの部分を取り上げたらいいのか迷うほど盛りだくさんなのだ。

 しかも話題だけにとどまらず、タリブが心がけたと思われることは、どの曲のフックもすごく耳に残るような、耳を留めるようなものにしていることだ。タリブ自身も積極的にフックに参加し、しかもフックとヴァースを明確に分けず、途中から入ったりなど入りのタイミングや、ヴァースに入ってからもフックを残すやり方とかかなり考えているように思えたことだ。

 タリブはこのアルバムのプロモーションにも積極的で事前宣伝はおろか、すぐにワールドツアーも行った。以前もここで書いたが日本でもライヴが行われたわけで、そこで初めて彼のライヴを観たわけだが、そのステージングのうまさもそうだが、ライヴでは決して一曲フルコーラスをライムするわけではなく、ほぼワンコーラスといういいところで次の曲にスライドするという展開の仕方にも驚いた。もちろんあのもう懐かしいブラックスターの曲もいいところでかましてくれた。彼の以前のライヴを観ていないのだが、このライヴの方式も自分のレーベルを立ち上げてから変えてきた、自身のプロモーションのやり方だったのだろうかとも思えてきた。

 というわけで、2007年が決してヒップホップ不作ではなく、むしろ豊作の年だったということがわかってもらえただろうか。この1位タリブと2位モンチの順位は自分の中でもほとんど差がない、逆でも構わない。それだけ両方ともよく聴いた、よくできたアルバムだと思っている。2007年がヒップホップ不作の年だとのたまわったロック系洋楽雑誌の方々は、おそらくこのアルバムを聴いていなかったのだろうと思いたい。決してブラック・ミュージック一辺倒ではなく、元々洋楽ロックリスナーだった自分が、これだけ熱狂できてバリエーションに富んでいると思うヒップホップアルバムを、彼らだって多分聴かれてくれたとしたら、おそらく顧みてくれたはずだと思いたいから。エミネム、JAY-Z、NaS、蟹江だけでヒップホップすべてを語ってほしくないわけである。

 最後にローリングストーン誌日本版?のタリブのアルバム評をサイトで見つけたので載せておこう。「どうしてもキメ手に欠ける。数いるラッパーの中で、スキルと中身の深さに関しては最高峰の1人であるタリブ・クウェリの新作。これまで今ひとつ華に欠けるところがあったせいか、今作ではカニエ・ウエスト、UGKなどの豪華ゲストが参加。でも、やっぱりキメ手に欠ける」 

 ていうか、これだけで済ますレコード評って何? キメ手っていいながらそのキメ手の説明がないのはなぜ? これだけのメンツが参加して、聴きやすく展開の多いトラックにメロウな歌もあるこのアルバムにあと何のキメ手が必要なの? それだけのキメ手があったヒップホップのアルバムって今まで何があったわけ? とまあ数多くの疑問が湧き出てくるわけだが、まだこのアルバムを聴いてくれて、誌面?を割いてくれただけでもありがたいと思うべきなのだろう。


 そして、あえて次点を挙げるならコレか。

 『LOST & FOUND ロスト・アンド・ファウンド』 Ledisi レディシ(ユニバーサル UCCB-1027)

 恥ずかしながらずいぶん後から聴いたのだが、知っていたら来日公演見に行きたかったくらい。これも聴けば聴くほどカッコイイ。クリセット・ミッシェルの方は行ったんやけど。まだまだ色々とチェックすべきものはたくさんあるということですな。


 ということでまた来年。一体どうなることでしょう?