今年こそチベタン・フリーダム・コンサート(Tibetan Freedom Concert)を!②

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 ライヴコンサートの歴史に残る伝説のイベント『チベタン・フリーダム・コンサート』。3月の暴動から北京五輪での聖火リレーの事件など、チベットが世界的に注目された今年こそ、もう一度行われるのにふさわしいイベントであるはず。ビースティ・ボーイズのアダム・ヤウクが提唱してはじまったこのイベントは2003年を最後に行われていないのだが、もう行われることはないのだろうか?

 今でこそ意味があるように見えるチベタン・フリーダム・コンサートだが、実は当時ヨーロッパではコソボ紛争、さらにアフガン問題、米軍イラク侵攻などの様々な国際情勢のからむ中で、「なぜチベットなんだ?」「他にもっと目を向けるべきところがあるだろう」などと常に存在が疑問視されるイベントであった。さらにアメリカはこの当時、中国に関税で最恵国待遇を与えるなどずっと接近した状態であった。そんな状況の中、中国批判のイベントをまともにメディアが取り上げてくれるわけがない(アメリカでさえそうなのだから、日本なんてどうなんだという感じである)。そんな当時の疎外感を思えば、時代は変わったとはいえ、現在果たしてアダム・ヤウクがこのコンサートを再開催しようと思うかと考えると、確かに疑問を感じる。

 さらにこのライブイベントの当初の目的は、チベットの現状を世界に知らせることにより、北京オリンピックを中止させることにあった。コンサート中に署名を求める文面にも、必ず書かれていたことが「北京五輪を中止させよう」という文言だったらしい。それがその後圧倒的多数の支持により、北京オリンピックが決まるに至り、彼の中ではそこで終わってしまった感があるのかもしれない。そんな北京オリンピックに反対することが目的(の一つ)だったはずのイベントをもう一度、北京五輪にぶつけることに意味があるのかと考えるだろうし、そこにはもう敗北感しかないかもしれない。

 そしてこれが一番大きなことだと思うが、スポンサーや金銭的な問題だろう。ただでさえスポンサーのつきにくい政治的主張のあるイベントである。しかもチャリティイベントでは、アーティストやスタッフに利益を十分に与えることができないし、収益を交渉の道具に使うことができない。実はこのチベタン・フリーダム・コンサート、史上最大規模となった4カ国同時開催の第4回が終わった後、2001年にイギリスで開催しようという計画があったようなのだが、金銭的問題が主たる理由らしく、中止になってしまったのだ。大多数の人員が動くライブイベント。中止になった時の痛手はハンパなものではないだろう。よく見るとそもそも4カ国同時開催の第4回の収益は、誤植じゃなければ、第3回と比べ明らかに少ない。イベントとしては成功だったとしても、収益的に成り立たなかったのかもしれない。そこに来てのイギリス開催中止となると、当時すでに八方塞がりの状態だったのかもしれない。

 その後、第5回と第6回と東京(と台湾?)の比較的小規模なイベントで終わったのもそういう側面があったのかもしれない。何とかお金が集まる東京でしかできなかったということなのか…? そういう経緯をふまえた上で、これだけリスクのあるイベントをまたやろうとなるには、相当の覚悟が必要になる。しかもこのイベントの場合、通常のライブと違い政治的側面もあるため、ノウハウをわかっている当時のスタッフを少なくとも何人か呼び戻さなければならないだろうし、毎回参加してくれていたチベット人の方々にも協力を仰がないと成り立たないだろうし。現在アダム・ヤウクにはそこまでのモチベーションはもうないと判断するのが正しいかもしれない。

 ましてや今年2008年、ビースティ・ボーイズはアルバムも出しておらず、ツアーも行っていない。ツアーをやっていればそのスタッフを使って、別イベントを立ち上げることもやりやすいだろうが、そんな状況にはない。そして2008年はアメリカ大統領選挙の年でもある。アメリカ人にとって、今年再び共和党政権が続くのか、民主党政権にとって変わるのかは自らの生活において最大の問題になる(アダム・ヤウクはオバマ支持を早くから表明していた)。さらに対外問題、チベットに対してどう動くかも、結局はその政権次第ということにもなるわけで、それからでも遅くないと言えば遅くないかもしれないが…でもねぇ。

 という風に考えると、『チベタン・フリーダム・コンサート』が今年開催されることはほぼありえないわけだが、それでも私は何かを期待したい。結局私はじめリスナー側が何かしようとしても、レコーディング・アーティスト側が動かなければ始まらないのだし、最終的に『チベタン・フリーダム・コンサート』という名前にするには、アダム・ヤウクが動かなければ仕方ないのだが、そのために何かできることがあるならば、こちらとしては喜んで手伝いをするつもりである。悲しいかな、私の仕事の現場ではチベットの話題を取り上げたり、支持を表明したりするわけにはいかない現状だが、それ以外の場面では積極的に話題にしていきたいし、活動もしていきたい。

 チベットに行ったことがあるかないかなんてどうでもいい。私自身チベットの方の話を実際に聞いて、これはなんとか応援しないと…、と思った。それで十分だろう。96年の『チベタン・フリーダム・コンサート』の映像を見れば、最初は何もわからなくても問題意識の輪が、音楽の圧倒的な力で広がる感動的な場面がそこにはある。バンドエイドから続く、音楽が世界を変えていく力を信じる者にとって、チベットにもその可能性があるなら、私はそれを支援していきたいし、この問題で意見を表明するアーティストを支持していきたい。残念ながら、過去の出演メンバーでは今年ツアーを行っている人達すらほぼいないのではあるが。

 日本では今年夏フェスにおいて、フジロックでは忌野清志郎ウォールフラワーズのジェイコブ・ディラン、元ペイヴメントスティーヴ・マルクマスが、サマーソニックではブンブンサテライツという、かつて『チベタン・フリーダム・コンサート』に参加したアーティスト達が出演する。彼らが以前参加したコンサート当時の状況と現在を比較して、チベットのことについて何かコメントをするのかどうか期待したい。これまでチベット問題に関してコメントしてきた、バッファロー・ドーターや元ハイ・スタンダードの面々(難波章浩横山健)はどちらにも出ないが、『ライジング・サン・ロック・フェスティバル(北海道で行われるやつです)』には横山健バッファロー・ドーター、さらに忌野清志郎ブンブンサテライツとかつてチベタン東京に出演した人々が集結する。そしてこれまたチベット問題に関心がありダライ・ラマにも会ったという佐藤タイジも、ミャンマーの軍事政権に抗議する声明と同時にフリー・チベットも叫んだいとうせいこうも出演する予定。ここでは何か起こりそうな気がするがどうか? 少なくとも清志郎は何かやってくれると思う。ちなみに元ハイスタのナンバは、観客としてフジロックには来るらしい。そこら辺でアコギを弾きまくっているかもということなので、こちらも期待できるかもしれない。

 ただのコンサートとはいえ、『チベタン・フリーダム・コンサート』に参加したアーティスト達は、中国当局に目を付けられ、現在も中国ではCDが売れないし放送もできないし、入国もできないはずである。それだけのリスクを背負って参加した彼らが、まだチベットに対して動くというのであれば、それをリスペクトしないわけにはいかないだろう。ていうかこの状況で何も言わない人達こそ何なんだと思うわけである。

 かつてフジロックにおいては、ミラレパ基金の日本支部が毎年?ブースを出していたらしい。この日本支部は、田原さんという人がほぼ一人でやっており、東京でのコンサートも自ら仕切ってビースティ・ボーイズを呼んだらしい。しかし、現在すでに団体は存在しているのか、いないのかもわからないような状態で、田原さんも基本的に日本にはもういないらしい。今年このような状況で彼らがフジロックに出席できるかも疑問ではあるが、存続しているようであれば色々なことを聞いてみたいと思っている。

 北京五輪そしてその後に、チベットがどれだけ世界的な関心を惹くことができるかが、ほんとにチベットの将来を左右することになるのはまちがいないと思う。そこに『チベタン・フリーダム・コンサート』があることは決して無駄ではないはずだ。あらためてビースティ・ボーイズのオフィシャルホームページのBBSに何かコメント一つでも入れてみようか。