今年こそチベタン・フリーダム・コンサート(Tibetan Freedom Concert)を!①

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 今年3月の暴動から北京五輪聖火リレーにおいて、ようやく世界的な注目を浴びたかに見えたチベット情勢であるが、四川大地震とそれに伴う報道から関心は徐々に薄れていき、今やチベット関連のニュースを耳にすることもほとんどなくなった。「チベット暴動、そんなのあったっけ?」と思っている人すら多いと思う。

 某女優は失言によって糾弾されたが、チベット問題はこれからさらに国際世論に働きかけていこうという矢先に起こってしまった四川大地震によって、不幸にもその機会がくじかれてしまったのは事実だ。実はこの四川大地震、ラサの方までは被害がなかったようだが、アバなどのチベット自治州(要するにここも元はチベットの国土だったわけだ)も多大な被害を受けているのだという。ちゃんと報道されない(実際メディアが入れない)ため、実情は本当にわからないのだ。すでに復興がなされている成都の中心部しか見せられないが、実際にはまだまだ被害が続いている地域があり、さらにチベット人居住区には救助や物資も十分に回されなかったりするらしい。

 だがチベット人地震という不幸があった後も闘い続けている。相変わらず人民や僧侶が不当に拘束され投獄されている。地震があろうとなかろうと彼らは1949年の中国の侵攻以来、50年以上も変わらず非暴力を貫いて闘っているのだ。結局、大国の政治の論理が絡むこの問題には、国際的世論の後押しがなくてはどうにもならないことは、50年以上の歴史がそれを証明している(中国のチベット侵攻は、当時の中国とソ連の対立の状況の中で、アメリカは戦略的に黙認してきたとされている)。このような問題は、国際的な世論に注目されなければ、忘れられてしまえば、それで終わりになってしまう。北朝鮮拉致問題だってそうだ。北京五輪が終わるまではどうにもできないかもしれないが、それでもチベット問題には国際世論を喚起できるべき可能性がまだまだ残っている。

 かつて「チベタン・フリーダム・コンサート」というライヴイベントが行われた。ビースティ・ボーイズのアダム・ヤウク(MCA)が、ネパールを訪れた際に出会った亡命チベット人達の話に感銘を受け、チベットの自由と独立を支援するべく、企画したベネフィットコンサートだ。96年に行われたこのイベントは大成功、その後もこのコンサートは2003年まで6回続いた。自ら設立したミネレパ基金という財団を通して、毎回数千万円、億単位の収益を上げ、フリー・チベットの運動を支援し続けた。音楽雑誌以外のメディアはほとんど報道しなかったが、東京でも3回行われていたコンサートなのである。

 過去の出演者は以下の通り(チベタン・フリーダム・コンサートまとめサイトからの引用)。まさにそうそうたるメンバーである。96年に行われた第1回の模様はドキュメンタリーDVDになっているが、残念ながらそれ以降のものは一部を除き映像作品にはなっていない(映像素材自体は存在するんだと思う)。ちなみにウィキペディアでは第5回と第6回の東京でのコンサートはチベタン・フリーダム・コンサートとしてカウントされていない(国際的には認められていないのか)。

 第1回 1996年6月13日・14日 ゴールデンゲートパーク@サンフランシスコ 参加者:10万人以上 収益:80万ドル 出演者:BEASTIE BOYS, THE SMASHING PUMPUKINS, FOO FIGHTERS, A TRIBE CALLED QUEST, PAVEMENT, CIBO MATT, BIZ MARKIE, RICHIE HAVENS, JOHN LEE HOOKER, RED HOT CHILI PEPPERS, RAGE AGAINST THE MACHINE, SONIC YOUTH, BECK, BJORK, DE LA SOUL, FUGEES, BUDDY GUY, SKATALITES, YOKO ONO

 第2回 1997年6月7日・8日 ドーニング・スタジアム@ランドール・アイランド(ニューヨーク) 参加者:5万人以上 収益金:25万ドル 出演者:FOO FIGHTERS, U2, SONIC YOUTH, BIZ MARKIE, ALANIS MORISETTE, PATTI SMITH, THE JOHN SPENCER BLUES EXPLOSION, BEN HARPER, A TRIBE CALLED QUEST, BEASTIE BOYS, RANCID, BJORK, PAVEMENT, BLUR, MICHAEL STIPE&MIKE MILLS, TAJ MAHAL, DE LA SOUL, DADON, CHAKSAM-PA, NAWAGNG KECHOG

 第3回 1998年6月13日・14日 RFKスタジアム@ワシントンD.C. 参加者:約12万人 50万通以上のハガキがクリントン大統領の元に届けられた。収益120万ドル 出演者:RADIOHEAD, SEAN LENNON, MUTABARUKA, MONEY MARK, A TRIBE CALLED QUEST, DAVE MATTHEWS, SONIC YOUTH, NAWANG KECHOG, WYCLEF JEAN, BUFFALO DAUGHTER, HERBIE HANCOCK AND THE HEADHUNTERS, R.E.M, KRS-ONE, THE WALLFLOWERS, BLUES TRAVELER, LIVE, PEARL JAM, LUCIOUS JACKSON, PULP

 第4回 1999年6月13日 世界4ヶ国(シカゴ、アムステルダムシドニー、東京)同時開催 4コンサートでの収益金15万ドル

 アメリカ イースト・トロイ@ウィスコンシン 参加者:31000人 出演者:BEASTIE BOYS, RUN DMC, RAGE AGAINST THE MACHINE, TRACY CHAPMAN, CHAKSAM-PA, BLONDIE, LIVE, THE ROOTS, EDDIE VEDDER, THE CULT, OTIS RUSH, CIBO MATTO

 アムステルダム RAI国際見本市会場内屋内ホール 参加者:15,000人 出演者:BLUR, ALANIS MORISSETTE, GARBAGE, URBAN DANCE SQUAD, THOM YORK, NAMGYAL LHAMO, BEN HARPER AND THE INNOCENT CRIMINALS, JOE STRUMMER AND THE MESCALEROS, NRA, TIPA, LUSCIOUS JACKSON, CHANTING TIBETAN MONKS

 シドニー オリンピック・パーク 参加者:約8,000人 出演者:REGURGITATOR, SPIDERBAIT, BLACKALICIOUS, NEIL FINN, YOU AM I, BIS, THE LIVING END, TRANS AM, THE AVALANCHES, GERLING, JEBEDIAH, ESKIMO JOE

 東京 ベイNKホール 参加者:約5,000人。そのうち4,000人が署名 出演者:BUFFALO DAUGHTER, Hi-STANDARD, 忌野清志郎, NAWANG KHECHOG, SCHA DARA PARR, AUDIO ACTIVE, BRAHMAN, 高木完

 (第5回) 2001年5月13日 ベイNKホール@東京 参加者:約7,000人 1万を超える署名 出演者:BRAHMAN, UA, Buffalo Daughter, Chaksam-pa, BOOM BOOM SATELLITES, THEE MICHELLE GUN ELEPHANT

 (第6回) 2003年4月19日 ベイNKホール@東京 翌日には台湾でも行われた(参加アーティスト不明) 出演者:BEASTIE BOYS, 忌野清志郎, NAWANG KHECHOG, MO'SOME TONEBENDER, RIZE

 ロックファンにとっては、チベット問題の中身を詳しくは知らなくても、チベタン・フリーダム・コンサートというライブは知っている。不当に弾圧されたチベットの人民を助けるためのベネフィットコンサートであり、そこに参加した者やその映像を見た者は、その実情を知って愕然としたはずだ。それほど有名なイベントだった。チベット問題には、アーティストやロックファンを通じて、国際的世論を盛り上げられてきた土壌があったのだ。それは今でも有効なはずである。

 これまでのチベットの状況を見ると、今年こそ「チベタン・フリーダム・コンサート」を開催するふさわしい年はないだろう。しかし残念ながらその可能性はいまだない。創始者のアダム・ヤウクは、ビースティ・ボーイズの公式サイトにて、3月の暴動の状況を案じ、ファンに向けてそれぞれ各国の政府にこの現状を訴えかけ行動しようというコメントを直後に載せているが、それ以降チベットに関するコメントは一切なく、チベタン・フリーダム・コンサートの言葉も一切出てこない。それどころか彼の設立したミネレパ基金のホームページは現在機能すらしていない状態である。解散してしまったのか、それとも3月の暴動以降それどころじゃない状態になってしまったのか? 

 一方コンサートに参加していたアーティストにしても、チベットの状況を憂うコメントはしていたとしても、チベットを支援する活動まで起こしているアーティストとなるとほぼいないといっていい。ビョークのように上海のコンサートで「フリー・チベット」と叫んだなんてことの方がめずらしい。たとえあるアーティストが動こうとしても、結局この類のベネフィットコンサートは創始者本人が動かなければ始まらないのは事実だ。ライブ・エイドボブ・ゲルドフしかりである。アダム・ヤウクが、チベタン・フリーダム・コンサートに関して抱く思いはどうなのか? 再びやるつもりがあるのかどうか? 現在彼が考えていることは想像するしかないが、もう彼を当時の熱狂の状態に戻すことはできないのだろうか?