2017/11/5 Pathway To Paris @ Stern Auditorium Carnegie Hall, NY

いよいよニューヨークだ。フィラデルフィアフットボールのゲームから急いで移動したのには理由があった。それはこの日行われる、Pathway To Parisというイベントのチケットを買っていたからである。これは地球温暖化への警鐘を鳴らすためというのが目的としてあるのだが、主たるものは音楽コンサートである。この出演者がまたすごい。パティ・スミスジョーン・バエズマイケル・スタイプ、フリー、タリブ・クウェリ、キャット・パワーなど、ジャンルも多岐に渡る人達で、彼らがどんなパフォーマンスをするのか、共演をするのかということを含めて予想のできないもので、たまたまこのチケットが売られているのを見て、これは見ておくべきものだと思って買った次第である。こんなイベントこそ、まさにニューヨークでないと出くわさないものであり、しかも行われるのがあのカーネギー・ホールである。まあ、一生入ることもないかと思っていたカーネギー・ホールに入れるというだけでも儲けものかもしれないからね。
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Stubhubで情報を知って、値段は変わらなかったので、チケットはオフィシャルサイトで買った。カーネギー・ホールのスターン・オーディトリアムというホールだが、クラシックの仕様では当たり前なのか、なぜか2階席とか3階席とかの方が値段が高くてよくわからない。1階席の方が安かったので、後方ではあったが迷わずそこを買う。80ドルだから妥当な値段か。寄付すればカーネギーホールのメンバーになれるというので、数ドルだけ上乗せして買った。またここに来ることがあるかと言えば、ほぼないだろうと思ったのだが。

ニューヨークへの移動は毎回、道が混んでいて、ちょっとした曲がり角とかを間違ったりして、いつも迷う。翌日は帰国する予定で、飛行機はJFK出発だったので、今回初めての試みだが、マンハッタンには泊まらず、ブルックリンにホテルを取ることにした。その方が移動も近くて楽だろうし、マンハッタンの渋滞に巻き込まれるのが嫌だった。ブルックリンといえども、ホテルの値段はマンハッタンより少し安いくらいで、やはり高い。聞いたこともない名前のホテルが、すごく老舗の一流ホテルだったり、ただのなんでもないクソホテルだったりもするから、きちんと下調べをしないといけない。そして、ニューヨークのホテルだけは、各旅行会社やサイトに強いところやパイプのあるところが全く違ったりするので、それぞれのサイトの値段をきっちりと確認した方がいい。トリバゴなどの比較サイトをただ信用してはいけないのだ。

今回選んだのはCtripというサイトで、ブルックリンのシェラトンが15000円くらいで取れたので決めた。調べたらCtripは、中国の旅行サイトで、信用できるかどうか不安ではあったが、微妙にエクスペディアより安い値段とかを提示している。Ctripは今でこそトリバゴとかにも入っているようだが、この当時は入っていなかった。安くおさえなければという背に腹は変えられず、ここで決定する。自分の場合は、駐車場がすぐ近くにあるとか、地下鉄の駅がすぐ近くにあるとかの条件も必要だったのだが。結果、Ctripには何の問題もなかったが、このシェラトンブルックリンが、なかなかの安っぽいホテルで、後でエライ目に合うことになるのである。マンハッタンじゃないと、ここまで待遇が変わるかというものであった。ホテルはブランドだけでは信用してはいけないという一つの教訓を得た。

Pathway To Paris のイベント開始は19時からになっていた。こういうイベントだから、通常のライブのような前座はないはずだ。ほぼ定刻に始まると思っていい。結局、リンカーン・フィナンシャル・フィールドからホテルに戻って、車で出発した時には17時を回っていて、ブルックリンには問題なく18時過ぎには着けたのだが、ホテルがちょっと奥まった場所にあってわかりにくく、迷いながら着き、さらに車をヴァレット・パーキングに預けるまで待たされて時間がかかり(思えばこれが悪夢の始まりだった)、部屋にチェックインして(これがシェラトン?と思う普通のビジネスホテルな部屋だった)、マンハッタンへは車では面倒くさいので、地下鉄で移動しようと決めていたので、近くのバークレイ・センター駅で乗り込む時には、すでにほぼ19時前になっていた。

今回、ブルックリンに泊まったのには、一度バークレイ・センターを見てみたかったというのもあった。NBAのブルックリン・ネッツのホームアリーナである。いつもなかなかタイミングが合わず、ニュージャージー・ネッツの時代から、このネッツのホームゲームだけはこれまで見れないでいた。ご存知のように、JAY-Zがオーナーの1人となって、ニュージャージー・ネッツはブルックリンに移転した。そのホームアリーナとしてバークレイ・センターが作られたのだ。この日はNHLアイスホッケーのニューヨーク・アイランダーズのゲームが行われる日で、もう人が出入りしていた。実は、ネッツがブルックリンに移転してから、ニューヨーク・アイランダーズのホームアリーナも、ロングアイランドのクソ遠いナッソー・コロシアムから、このバークレイ・センターに変わったのであった。あれ、ニュージャージー・デビルスはどうなったのと思う人がいるかもしれないが、デビルスのホームアリーナはかつてのコンチネンタル・エアラインズ・アリーナ、現在はプルーデンシャル・センターと名前は変わってはいるが、場所はそのまま変わっていないのだ。どちらかと言えば、ネッツはニュージャージーに移転する前のニューヨーク・ネッツの時代から、ニューヨーク・アイランダーズとはホームアリーナを共有していたような近い間柄らしく、本来の姿に戻ったとも言えるようだ。
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Pathway To Paris のイベント自体がなかったら、間違いなくこの日はニューヨーク・アイランダーズのゲームをここで見る予定だったので、バークレイ・センターの中に入ってみたかったな、売店くらい行っておけばよかったなと思いつつ、後ろ髪をひかれる思いで、地下鉄に乗り込みマンハッタンへ。日本の携帯は電波がつながらないので、GPS表示はちゃんとは出ないが、今回借りたレンタカー用のスマートフォンのナビを持って出かけた。これはなかなか使えるなと思いながらも、やはり車の移動用のものを徒歩の移動に合わせるのは無理があるようで、通りをいくつか間違えながらカーネギー・ホールに着く。やっぱり格式が高い建物だ。なんだろう、ここで本当に音楽イベントが行われるのか、なんか違うイベントじゃないかとも思うようになり、選択を間違ったかもしれないと不安になってきた。すでに20時前だったので、途中で入場する奴なんて自分しかいないし、はずかしい。イベントは当然始まっていた。
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入ってみると、いきなり得体の知れない叫び声のようなものが聞こえた。いよいよ会場を間違ったかと思ったが、当然ながら間違ってはいなかった。後でわかったのだが、このイベントに出演するチベット人楽家、Tenzin Chogyalの歌だった。さらにおばあさんのチベット人のコーラス隊が入場しての演奏が始まった。あっ、こういう感じのイベントだったのね、という印象。ちなみに周りの客は白人ばかり。しかもかなり年を召したおじさまおばさまが多い。そして、この日もやはり写真は、デジカメがないので携帯で撮っている。画質はやはりうまいこといっていない。

この日のPathway To Parisのイベントだが、Facebookライブストリーミングがあって、なんと全編が公開されていた。これだったらわざわざ見に行かなくてもよかったとすら思うが、そこは仕方ない。むしろ、このライブストリーミングを見てから、このイベントの全容がようやく見えてきた。

わかったのは、自分が入場した時はすでにイベントが始まって1時間半くらいたった頃だったこと。そして、イベントの最初の方に、パティ・スミスマイケル・スタイプ、そしてレッド・ホット・チリ・ペッパーズのフリーのパフォーマンスがあり、すでに終わっていたことに後で気付いた。マイケル・スタイプは、ナット・キング・コールリンゴ・スター、ヴェルベット・アンダーグラウンドの曲などを歌い(他人の曲でも自分の曲のように聞こえるのはさすがだが、自分の曲は歌わないのねという感じ)、フリーはベースのシュールな独奏で、なんとパティ・スミスが詩の朗読で加わるというおもしろいものだった、これは生で見ておくべきだった。

そういう環境のイベントだからなのか何なのか、ステージは楽器を置いているだけの簡素なもので、何の装飾もない。ミュージシャンは最低限の数しかいなく、音が特別いいように聞こえるほど凝った作りでもない、ミュージシャンにしても、自身のコンサートのように真剣に歌うわけでもない、わざわざカーネギーホールでやる意味があるのかと思うくらいよくわからないものだった。 
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全体を通して見ると、チベット人楽家 Tenzin Chogyalのブロックはかなり異質なもので、いきなり自分はそこで合流したわけだった。でも地球温暖化の問題を取り上げるならば、結局はアメリカ、中国という大国が対策をしないとどうにもならないわけで、彼らの音楽自体は関係ないのだが、そこでチベットを取り上げるというだけで別の意味に取られてしまうならば、もったいないなと思った。

チベット人楽家の後は、Vandana Sivaというインド人環境活動家が登場。おおむねミュージシャンの後に、このような環境や気候の問題を語る人物が登場して話をする構成のようなもののようだ。ただ、話だけなので、特に写真や図を使ったり、冊子が配られているわけでもないので、何となく言っていることはわかるが、自分のように英語が完璧にわからない人間には、あまり意味のあるものではなかったことは確か。

マイケル・スタイプは司会者役をも兼ねているようで、度々登場した。しかし、自分は前にパフォーマンスをやっていることを知らないので、あれ歌ってくれないのか?という感じであった。その後、Olafur Eliassonという芸術家が登場し、自らが作ったというソーラーランプを灯そうと呼びかける。そのソーラーランプは座席の下に置いてあって、それを会場の客みんなが灯すという仕掛けだった。その模様がこのイベントを象徴する写真に使われる形になった。このソーラー・ランプ、太陽電池が付いていて、半永久的に使えるという環境にもやさしいエコなものだが、客みんなにくれるものなのかと思いきや、後で回収されるというオチがあった。いや、くれるんじゃないの? 客がそれぞれ持って帰って使うことで、環境の意識を広げる意味があるんじゃないの?と思いつつ、だったら売れば何人かは買うんじゃないの? などとよくわからない思いを噛み締めることに。個人的に恐れたのは、このライトのくだりがイベントのクライマックスなのではないかと思ったこと。これで終わりだったら、もっと早くに来るべきだったと思うところだった。
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その後もパフォーマンスは続き、1人でピアノの弾き語りで歌うキャット・パワー(彼女は自分の曲を歌っているようだった?)、そしてジョーン・バエズが登場。髪はきれいな銀色で、しっかりしたおばちゃんという印象(76歳という感じには見えなかった)。写真でしか見たことのなかった人で、生で歌うのを初めて見た。やけに短くしたストラップでギター1本で立って歌う。「アナザー・ワールド」という曲などのほか、ジョン・レノンの「イマジン」も歌う。シングアウトを求めるところがフォークの人らしい。
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そして、タリブ・クウェリが登場。彼はこういう場所にこそ似つかわしいコンシャス・ラッパーだからね。これまでアコースティックだったり前衛的な曲ばかり流れた会場が、ヒップホップになるというさらに異質なことに。バンドのウイスキー・ボーイズ?と登場し、曲は「Get By」1曲のみだったが、なんとベースを弾いているのはフリーだ。後で映像を見たが、フリーが一番楽しそうに見えたのは、この時だった。驚いたのは、先ほどの出番だったジョーン・バエズがステージの端で踊りまくっていたことだ。そして、一緒にステージに出てきて踊る始末。なんてかわいいおばちゃんなんだろう。お客はおじさまおばさまばかりとはいえ、せっかくバンドも連れてきているのに1曲で終わるのはもったいないなと痛烈に思った。
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続いて、パティ・スミスが登場。自分は先に登場していたのを知らなかったが、これが最後のブロックで、彼女がもう一回登場するという演出だった。ニール・ヤングの「アフター・ザ・ゴールド・ラッシュ」を歌い(この辺りの選曲の理由はわからず。しかもずっと歌詞を見ながら歌うというのがよくわからない)。その後、ステージにほぼ全員が再登場し、「ピープル・ハヴ・ザ・パワー」を歌う。ここで初めて自身の曲を歌う。この曲がこのイベントの決まりみたいなものなのかと思った。このPathway To Parisのイベントは2014年から色々な場所で何度か行われているもので、パティ・スミスは積極的に参加し支援しているようだ(おそらくマイケル・スタイプも)。ここで最後に客も立ち上がり合唱というクライマックスだった。
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トータルとしては、音楽イベントとしてのクオリティーが高いわけでもなく、かといって環境問題啓蒙のイベントとしてもどうなのかというものだった。結局、環境問題を訴えていくならば、若い人々や、さらにはアジア諸国にも訴えていかなくてはいけないわけで、進歩的な白人の客相手にだけやっていてもしょうがないのにと思ったが、そんなイベントすら行われようともしない、アーティストは関心もないし支援もしないような日本に比べれば、よっぱどすごいものである。

驚いたのは、Facebookライブストリーミングを載せていて、イベントを協賛しているのがアイスクリームのベン&ジェリーズだということだった。そもそもこのような政治的ともいえるイベントに金を出すなど、日本企業だと考えられないことだ。実はこのベン&ジェリーズという会社、訳もわからず協賛しているんじゃないかと思って調べてみたら、ものすごい進歩的な会社だとわかった。遺伝子組み換えや人工ホルモンに昔から反対していて、北極の野生生物保護、若者を選挙に行かせるキャンペーン、自然エネルギーで作った電気を店で使用しようとするなど、一般的なアメリカの大企業のイメージとは真逆の会社だということ知る。何しろ、グレイトフル・デッドにインスパイアされたフレーバー、「チェリー・ガルシア」なんてものがあるのが、普通の会社じゃないことを証明している。私自身としては、これまでオリジナルフレーバーしかなくて、味がわからないから買うのを躊躇していたベン&ジェリーズのアイスクリーム(あまり安売りもしていない)を、ちょっと買ってみようと思ったくらいだ。

カーネギー・ホールからブルックリンに戻って、翌日に帰国、今回の旅行は終了のはずだった。わざわざJFKにちょっとでも近いところと思って泊まったブルックリンのシェラトンだったが、翌日エライ目に遭うことになった。その辺りを最後に。