あえて言う! 私の「2006年のベストアルバム」はこれだ!!(前編)

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 なんというか、やっとここまできたと言うか。もう音楽雑誌の話はここで終わって、私自身がいいなと思った2006年のアルバムを出します。ここまで引っ張ってきて何を出す?というところだが・・・。ちなみに私の2005年のランキングはこうでした。

   1.ABDEL WRIGHT 「Abdel Wright」
   2.カニエ・ウエスト 「レイト・レジストレーション
   3.リトル・ブラザー 「ザ・ミンストレル・ショウ」
   4.コモン 「Be」
   5.ジョン・レジェンド 「ゲット・リフテッド」
   6.ゴリラズ 「デーモン・デイズ」
   7.m-flo 「BEAT SPACE NINE」
   8.ブラック・アイド・ピーズ 「モンキー・ビジネス」
   9.ベック 「グエロ」
   10.ナイン・インチ・ネイルズ 「ウィズ・ティース」

 今思うとかなり懐かしいというか、一年でここまで変わるのねという感じだ。1位にしたABDEL WRIGHTは今どうしてるんでしょう? 結局2作目も出せずに消えてしまったのでしょうか? もうホームページすらなくなったようで、それを思うとさびしい。 

 まあこの1位はフックでしかない。去年の実質上の1位は間違いなく蟹江だった。『レイト・レジストレーション』は、多分HIPHOPがたどりついた一つの金字塔と言えるアルバムであり、他の人間にこれほどのアルバムは作れないだろうと思っていい。評論家たちに絶賛されなかったのは、すでにこのアルバムがHIPHOPのカテゴリーに入るのか?ということが疑問視されたからだろう。大ネタ使いは確かに指摘されるべきところではあるが、このアルバムのすごいところはそれぞれの曲にフックを必ずつけて、単調にならないようにしているところだ。そこは決してブラック・ミュージックだけでなく、それ以外の多様な音楽を聴いて彼が育ってきたことがわかる。むしろ特筆すべきはそのリリックのバリエーションだ。ドラッグや女の話から黒人の歴史、さらにはアフリカの問題にまで、かと思えば「ヘイ・ママ」のような自分の母親に対する感謝の気持ちを語る。これだけの多面的な話を語れるラッパーが他にどれだけいるだろうか。しかも彼は自らトラックも作る。こんな奴にかなう人間はいないですよ。それくらいの完璧なアルバムだった。

 私の2002年のベストアルバムであり、今でも大好きなコモンの『エレクトリック・サーカス』もHIPHOPではないというカテゴリーからはじかれ、今では完全になかったことにさせられているアルバムであるが(コモンはもう一度この路線に戻ってくると信じている)、それでもコモンに比べれば、蟹江のこれはHIPHOPであることには違いない。そこら辺が蟹江のソツの無さであり、うまさなのだろうと思う。そんなところが嫌いだという人には仕方がないけど、それは事実だ。彼が嫌いだという奴は、結局は負け惜しみでしかないわけですよ。

 そんなアルバムを生んだ2005年をうけての2006年であるが、バリエーション的には2005年よりもはるかにおもしろかった年だった。ハイフィーやグライム、さらにヴェテラン勢の復権など(ボブ・ディランとかね?)、色々雑誌を彩るムーブメントは豊富だったように思う。そんな中で私のランキングを見てみよう。


 第10位 『Ink Is My Drink インク・イズ・マイ・ドリンク』 PANACEA パナシア
 (Pヴァイン PCD-23774)

 これは掘り出し物でしょう。今や古き良き時代になってしまったジャジーなヒップホップ、トライブ的なディガブル・プラネッツ的な世界を体現している。確かにカッコイイ。「ア・トライブ・コールド・クエストとファイナルファンタジーとの出会い」なんて称されているらしい。言い得て妙だ。サンプル表記がないのでわからないが、このトラックすべてを自作しているならばすごいと思う。やっぱり私はこういうヒップホップが好きなんだと納得。そう言えばこんな感じのものって今ないよねって実感する。

 ワシントンDC出身のトラックメイカー、K-Murdockとフィラデルフィア出身のMC、Raw Poeticの二人組がPANACEA。パナシアは「万能薬」という意味らしい。これがデビューアルバムである。実はHIPHOPユニットTime Machineの一派であり、彼らのレーベル、Glow-in-the-Dark Recordsから出されたものである。まだまだアングラ・ヒップホップは捨てたもんじゃない。ストーンズ・スロウにタイム・マシーン、オセロも良かったし、いいものはたくさんある。やっぱり聴いてて、「こいつら本当に音楽好きなんやな」っていうのがわかる奴らのアルバムは楽しい。

 悲しいのは日本人の雑誌ライターでこのPANACEAを挙げていた人物が全くいなかったことである。確かにサウスやウェッサイやハイフィーにグライムと、HIPHOPはありすぎて、全部フォローできないとは思うけど、こういう東海岸の古き良きHIPHOPもいいでしょう(決して音は古くはないんだけど)。彼らは聴いていないのかな? 聴いていたとしたら、何がダメだったんだろう。もうトライブ好きの奴なんていないのかなぁ?


 第9位 『Kingdom Come キングダム・カム』 JAY-Z ジェイ・Z 
 (ユニバーサル UICD-9023)

 偉大なる!?キングの復活作だが、以前も言ったがこれを復活作にするほどのものなの?と思ったのが事実だ。ただこれは全作品に言えることだが、彼がNASとは違うのは、作品を通してのトラック選びにすごく気を使っているのがわかることである。特徴のある声だが、そのラップの魅力がうすれたとしても、トラックのバリエーションや特異さにこだわっているのだろう。一瞬だけ聴いても、あれ?これ何?と思わせるトラックをわざわざ選んで採用している。その姿勢はこのアルバムに関しても同じだ。

 NASの場合は、結局自分のラップが最優先であり、その魅力を軽減させてしまうトラックはあえて選ばないんだろうと思うのだ。トラックの特異さにばかり耳がいって、自分のリリックを聞かなくさせてしまうような事態を認めたくないのだろう。二人の違いはそこにあるように思うが、当たってないだろうか?

 特に今回の『HIPHOP IS DEAD』に関しては、ふかすだけふかしといて、やってることは、全く普通のHIPHOPでしかないことに腹が立った。リリックの内容にしても、「別に自分は、HIPHOPは死んだとは言っていない」みたいな言い方をするある意味逃げのような姿勢にも嫌気がさした。確かに言ってはないけど、そこまで突っ込まれることを意識してリリックを書いたのかよ?って感じだ。表題作の「HIPHOP IS DEAD」はウィル・アイ・アムのプロデュースなのだが、そのタイトルを聞いていればウィル・アイ・アムも別のトラックを用意したんじゃないか?なんて思ったのだが、そんなことはなかったようだ。そんだけおもしろみがない曲だっただけにそう思ったわけだが。

 ほとんどNASの話になってしまったが、JAY-Zのアルバムは通して聴いても飽きさせない点で、やはりうまいと思ったということだ。とは言いながら今回のアルバムに関して言えば、これだけ?と思ったのが事実。コールドプレイのクリス・マーティンの曲はおもしろかっただけに、こういうのがもっとないの???と思ったわけである。


 第8位 『Return To Cookie Mountain リターン・トゥ・クッキー・マウンテン』 TV ON THE RADIO ティーヴィー・オン・ザ・レディオ (ホステス HSE-20013)

 偉大なるノンジャンル。ロック、R&B、ジャズ、アヴァンギャルド、パンクなどあらゆるものを飲み込む雑食性、アートとポップの境界線上を決してどちらかに振り切ることなく立ち回るうまさ。それはナイン・インチ・ネイルズマッシヴ・アタックザ・ルーツなどジャンルを超えて支持される人気ぶりからも明らかだろう(このアルバムでは、デヴィッド・ボウイまで参加)。

 レディオヘッドを全くおもしろい思わない私だが、それはこのティーヴィー・オン・ザ・レディオ(TVOTR)を知れば納得してくれるというものだろう。凝ったサウンドでありながら、決して理屈っぽいだけでなく、グルーヴ感は忘れていない。次に一体何が来るのかと思わせるわくわく感はこれこそ、本来の意味でのミクスチャーであろう。その人種構成の多様さも驚きだが、ソングライティングや担当パートも決して一人に限定しているものでもない。彼らが同じ一つのバンドを形成していることこそが驚きだったりするわけだ。

 個人的にはファーストアルバムの方がよかった気がするけど、そのおもしろさは全く失せていない。なんと自作はインタースコープと契約し、出されるという。実はTVOTRに関して言うと、アルバム以上におもしろいのが、その多様な人種構成から生み出されるエモーショナルなオゾマトリばりのライヴパフォーマンスだという。YouTubeを見ただけでも、その一端はわかる(アンコールなんだと思うが、全員パーカッション叩きまくっている曲があったりするわけです)。ぜひともそれを体験してみたいと思う私であった。


 予想通り長くて入らなくなってしまったので、続きのランキングは次回で。