今さらだが、私の「2007年のベストアルバム」はこれだ!(完結編1)

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 一応これで最後です・・・、引き続きランキング。

 第3位 『MIRRORED ミラード』 BATTLES バトルス(Beat Records BRC-174)

 2007年、一番のニュースはこのバンドを知ったことかもしれない。このバトルスの音楽を表現するのに、ライター達はどうも難しい表現を使いたがるようだ。「稠密な入れ子細工を四方八方から眺めているような、眩暈を誘う規則性と、構築された総体を内側から食い破るようなエレメントの多様性」「ハイビジョンの超高性能なモニターで、フォーカスのびっしり合った超細密映像を見ているような正確無比なピンポイント攻撃の連続の脅威」「アシンメトリーなビートの彫刻と加速するジャムのカタルシス」全く何が何だかわからないが、要するにここにあるのは音楽の圧倒的なグルーヴ感なのだ。

 ロックやハードコア、テクノ、フリージャズ、アフロミュージック、アヴァンギャルドなどあらゆるジャンルを超越した、最高に気持ちいいダンスミュージックのみがここにはある。難しいことなど何も言う必要がないのだ。感じるだけでいい。フジロックでの圧倒的なパフォーマンスから単独公演全てソールドアウトという人気がそれを証明しているはずだ。

 私が最初に◆Atlas」を聴いた時、その正確なリズムに祭囃子のようなグルーヴ感、さらに途中から入ってくるヴォーカルエフェクトと、一体これは何なんだと思った? この音楽が、バンドという形態として存在していることに驚き、とにかくダンスミュージックとしてしか表現できないような感覚に、他の曲が聴きたい、アルバムが聴きたいと思ったものだ。そしてアルバムを聴き、そこには歌はないけれども、全体を通すグルーヴ感にこういう音楽をやること自体に、バンドとしての存在意義を感じた。

 メンバーは元ドン・キャバレロの、イアン・ウイリアムス(Guitar,Keyboard,Mac,Mixer)、元ヘルメットの、ジョン・スタニアー(Drums)、元リンクスのデイヴ・コノプカ(Bass,Guitar)、そしてジャズミュージシャン、アンソニー・ブラクストンを父に持つタイヨンダイ・ブラクストン(Guitar,Keyboards,Humanbeatbox)の4人。みなロック畑の人たちだ。彼らのような人たちがこのような音楽をやること自体が驚きなのだが、特にフェラ・クティなどのアフロミュージックに多大な影響を受けていることをメンバーが公言するなど、とにかくあらゆるジャンルの音楽を吸収しているようだ。ポリリズム変拍子が注目されているが、それもそういう結果なのだろう。さらに驚くことは、この手の音楽ならば打ち込みであっても十分鑑賞に耐えうるものになるだろうに、彼らはバンドマンらしくライヴでこそ、自分たちのグルーヴを実感してもらえるものというスタンスを持っていることだ。

 どうもライター達は、彼らのロックバンド出身の超絶テクニックから生み出される新しい音楽ということで、キング・クリムゾン的なかつてのプログレッシヴ・ロック解釈をしたがるようだ。冒頭のような小難しい表現は、そんな過去のプログレ的表現に通じようとする意図があるのだろう。しかしバトルスの音楽は純粋なダンスミュージックに過ぎないことは、彼らに対する圧倒的人気が証明している。

 惜しむべきは彼らを支持し交流しようとするヒップホップからのアプローチがいまだないように見えることだ。彼らのグルーヴ感あふれる音楽こそ、ヒップホップが最も取り込んでしかるべきものであるはずなのに。実は彼らバトルスをワープ・レコーズというレーベルに売り込んだのは、Prefuse73ことスコット・ヘレンなのだ。スコット・ヘレンの幅の広さに関心するものの、その他の純粋なヒップホップの人たちは、まだまだ狭い世界の中にいるだけなのかということを嘆いた次第である。


 第2位 『DESIRE デザイア』 Pharoahe Monch ファロア・モンチ(ユニバーサル UICU-1137)

 実に7年以上のブランクが空いたアルバムリリースだ。7年もかかれば傑作だって作れるだろうと思うかもしれないが、彼の場合は不運が重なりシーンから消えるかもしれない危機すらあった人物だった。かつてオーガナイズド・コンフュージョンというデュオでカルト的人気を博しながらも決して爆発的セールスがあったわけではなく活動休止、その後ソロとなりロウカスレーベルと契約、『ゴジラ』のテーマをサンプリングした「Simon Says」がヒットし、シーンに強烈なインパクトを与えたものの、今度はロウカスレーベルが消滅。その後、新たな所属先ゲフィンと関係悪化し、ニューアルバムはお蔵入り。完全な浪人生活に入っていた。しかし彼の才能を認める元ラウドCEOのスティーヴ・リフキンドが主宰するSRCと契約、ようやくソロセカンドアルバムを出せる経緯となったのだ。なんと今回の彼のアルバム、初めて日本盤が出たということにも驚いた。

 ヒップホップのアルバムというのは、リリックにどれだけ幅の広いストーリーテリング性があろうと、フロウにどれだけの変化をつけようと、トラックにバリエーションがないと飽きてしまうし、トラック自体もいかに予想できないビートやサンプルを持ってくるか、ゲストに誰をもってくるかなど、単調になりがちなラップをいかにそうさせないかが勝負になってくる。このアルバム『デザイア』はまさにそれを完璧に体現させた傑作と言っていい。これだけバリエーションに富んだアルバムはそうそうない。

  Intro」はいきなりゴスペル調からはじまる。そのゴスペルのfreedomという歌に呼応するかのようにfree!というミリー・ジャクソンのサンプルが突っ込んで来る◆Free」。これまでの自らの不遇ぶりに決別宣言するかのような快作だ。そしてショウタイムの歌声でさらにソウルフルになる「Desire」。今度はタワー・オブ・パワーを起用してさらに重厚になるモンチ自作曲ぁPush」。そして次はパブリック・エネミーをカヴァーしたァWelcome To The Terrordome」。モンチはまるでチャックDのモノマネをするかのようにラップしているのがちょっとおかしい。思えばPEのように、言葉遊びのような単語ごとで韻を踏む、たたみかけるリリックってほんとに今ないな~って痛感した。リリックに関して言えば、最近ストーリーテリングのうまさしか注目されないが、ことごとく韻を踏みまくるという手法こそ、頭が良さそうには見えないかもしれないが、いかに難しくてなかなかできないことかというのは、もっと評価されていいことだと思った。実はモンチは他の曲でも、できるだけ単語でも韻を踏もうとしていることに、聴き直してあらためて気付いた。

 その後はオーガナイズド・コンフュージョンを思い出させる奇怪なトラックのΑWhat It Is」。そしてなんと銃規制をうたった、ホラー調だけどどこか変なАWhen The Gun Draws」。一転してフロアうけしそうな盛り上がる曲─Let's Go」。さらにアルバム最大の盛り上がりとなる、PVも話題となったモンチ自作の「Body Baby」。さらに続くはこれまたリリック下ネタ系の「Bar Tap」。続いてエリカ・バドゥ参加のメロウだが、リリックは黒人差別をうたった力強い曲「Hold On」(この曲をこの位置に入れたのだけが疑問であるが)。その後、これもモンチ自作のスムーズ系の下ネタ曲「So Good」。クライマックスはモンチのストーリーテラーぶりがいかんなく発揮された、妻を失った男の3部構成の物語「Trilogy」とまさにできることはすべてやったかのような、決して退屈することのないバラエティ感にあふれているのだ。おまけにシークレットトラックに入っているのは、お蔵入りになったアルバムの先行シングルと出された、サー・ラーを起用した「Agent Orange」まで入っている。このアルバムが音楽誌でなぜ顧みて評価されていないのか不思議である(このアルバムに対するコメントは一切なかったが、ミュージック・マガジンのヒップホップ部門ではなぜか年間2位になっていた)。

 ブラック・ミュージック・リヴュー(bmr)では、時流のサウンドを取り入れていないとか、メインストリームのテイストを導入していないとか、どこか前時代的とかなどと言っている。それがサウス系のサウンドを意味するのか?、トレンドのプロデューサー陣を起用していないということを意味するのかはわからないが、私は2007年度の作品でこれだけ充実しているものをなかなか聴いていない。逆にbmrが最大限に持ち上げていたUGKの『Undergound Kingz』の方が、私的には2枚組ということもあってたるいと思ったし、サウスということを考えると、アウトキャストを聴いた時の衝撃に比べると弱いと思ったし、アウトキャストほどバリエーションがあるかと思っていたら、ずいぶん期待感がそがれたのだが…。こんな私も前時代的なのだろうか? ピンプ・Cが亡くなったことにはRIPだが、そのことでライター陣の評価が変わったのだとしたら、ずいぶん日本的な感覚だなと思ってしまった次第である。


 なんかまたもや5000文字という制限を超えてしまって入らないようなので、続きは次項で。今までこんな制限ってあったっけ?