今さらながら音楽雑誌の2011年ベストアルバムを検証する④
正直、自分としてもまだやるか?的感覚が強いのであるが、今回は『ele-kingエレキング』である。年4回の季刊ペースで出しているということだが、中身は、よく見ると作りからして、かつての『remix』に似ている。そもそも編集長が、野田努氏ということからそうなのだが…。ライター陣にも、かつて『remix』で書いていたことのある人がいるのかどうかわからない。今回の「2011年ランキング100」の特集号だけなのかどうかわからないが、かつて『snoozer』を出していた田中宗一郎氏の名前もあり、さながらまだ生き残っています的な音楽ライターの集会所のような雑誌である。一般的な知名度はまずないであろうが、音楽雑誌業界的には、はずせない雑誌なのであろうということで、取り上げてみた。しかし、この雑誌、なんと値段が1400円である。そこまで価格を上げないとペイしないのかと思うと、音楽雑誌界の現状が見えてつらい。
この号はとにかくほとんどすべてが2011年を振り返る的記事であふれており、実際読むのにも苦労した。わざわざ取り上げなかった方が良かったのではないかと思ったほどだ。肝心のランキングは「2011エレキングランキング100」と題されて、本当に100位まで紹介されている。クレジットされているライターjは15人で、それぞれ何位か分ずつを担当して書いているようだ。全くの交代交代というわけでなく、書いている部分は結構偏っていたりもする。そのランキングの記事とは別に、座談会みたいなものがあり(参加者は6人)、順位自体はそのような話し合いの結果を元に決められたものではないかと想像できる(あくまで想像であり、公式の発表ではない)。では、そのランキングの一部を見てみよう。
1位 『James Blake』 James Blake (Universal)
2位 『Goblin』 Tyler, The Creator (XL Recordings)
3位 『Homely』 Orge You Asshole (Vap)
5位 『Bon Iver』 Bon Iver (Jagjaguwa)
6位 『Dedication』 Zomby (4AD)
7位 『Biophilia』 Bjork (One Little Indian)
8位 『Within & Without』 Washed Out (Sub Pop)
10位 『Glass Swords』 Rustie (Warp Records)
※ランキング上は、すべてアルファベット表記なので、準じた(記事ではカタカナ表記になるのだが…)
まあ、元々『remix』からしてフロア向けというかクラブ向けの音楽を紹介するものであったわけだし、この『ele-king』にしても目指すところは同じものであるのだろう、しかし見るだけで爽快なランキングではある。これまでのロック系雑誌では当たり前だったものが、これでもかというぐらい入っていない。私自身もフロア向けの音楽には、決して詳しいわけではないので、この雑誌のランキングを見て初めて知ったバンド(グループ)もいて…わけもわからず一応聴いてはみたわけで…。3位のOrge You Asshole(「オウガ・ユー・アスホール」と読む)は日本のバンドで、ロックと言ってもいいぐらいのバンドサウンド、8位のWashed Out(ウォッシュト・アウト)はチルウェイヴと呼ばれるジャンルで、その他のアーティストの曲とかも聴いてみたが、なぜこれをプッシュするのかはわからなかった。要するにUKでのブームを記録としてフォローしておくみたいな意味合いがあったのではないかと想像する。一応初めて知ったものがあったということで、感謝しなければいけないものかもしれない。
日本では、とかく3・11以降の震災後の鬱屈した状況ばかりが語られがちではあるが、世界を見てみれば、それこそ2011年は、エジプト革命からはじまり、アメリカではウォール街占拠デモ、イギリスでも大学学費値上げ反対に端を発するデモが頻発するなど、まさに激動の年だったのである。そういう中で、世界的に支持された音楽が、ジェイムス・ブレイクであり、ボン・イヴェールであるという事実は、考慮するべき事実であろう。とかく日本では、気分的に近いものがあるかもしれないが、決してそうではないのだ。そもそも私は、ポスト・ダブステップという言い方に、違和感を感じるのであるが。
この『ele-king』という雑誌のランキングに一つ疑問点を抱いたのは、2011年という年であるにもかかわらず、The Weeknd(ザ・ウィーケンド)に関する記述や言及がなかったことだ。ミックステープでしか流通していない作品だからかということはあると思うのだが、元々フロア向けの音楽を標榜している雑誌に、CDアルバムという形態に意味を持たせている意味がわからない。それこそ、ジェイムス・ブレイクやボン・イヴェールを持ちあげるこの雑誌に、同じく内省的であり、独特の世界観を持った音楽性、圧倒的に語りかけるヴォーカル、ただ黒人音楽のルーツを決して否定することのない、消すことのできないグル―ヴ感を持った音楽をどう評価するのか、ぜひ聞いてみたいところである。まさか、無視してるわけじゃないと思うが…。少なくとも私は、音楽性を決して並列にはできないと思うが、ジェイムス・ブレイクよりは、ボン・イヴェール、ボン・イヴェールよりははるかに、ザ・ウィ―ケンドを支持する者だからである。