今さらながら音楽雑誌の2011年ベストアルバムを検証する①

昔、何年か続けてやっていたネタを、今回久しぶりにやってみようと思う。毎年、音楽雑誌のベストアルバム企画の号だけは必ず購入し、そこに載っている未聴のアルバムがあればそれもチェックして、自分なりの記録を残しているのであるが、一昨年、昨年はそれをブログにアップする余裕もなかった。実際そこまでしようと思うと、ちゃんと記録をまとめコメントも残してという作業はかなり骨のいるものなのだ。
 
ここ2、3年で音楽雑誌における状況はずいぶん様変わりした。もう『remix』もないし、『SNOOZER』もなくなった。そして『bmr』も紙媒体の雑誌はなくなり、webのみの展開しかなくなった。いかに厳しい時代かというのがわかると思う。そういう背景もあって、今回またこのネタをやろうと思ったわけである。結局残ったのは、昔からある大手の雑誌ばかりという感じだ。『ミュージック・マガジン』『ロッキング・オン』『クロスビート』というところ。今回はその他に、不定期刊行の『ele-king』と、webで展開していた『bmr』のランキングを取り上げたいと思う。基本的に邦楽しか扱わない雑誌はここでは取り上げない。ていうか、そもそも邦楽のみを扱う雑誌は、こういうベストアルバムランキングというものをほとんどやらないのだ。いろんなしがらみなどあって、ランキングをつけると問題が出てくるというような事情なのだろう。相変わらず腐った世界である。
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ミュージック・マガジン』特集ベスト・アルバム2011(20121月号)
まずは、おなじみ『ミュージック・マガジン』である。なかむらとうよう氏が亡くなっても、『ミュージック・マガジン』は続く。ベスト・アルバムの特集は毎年の恒例で、それぞれのジャンルに分かれた2,3人の音楽評論家、ライターが集まって、合議制でのベストテン(またはベスト5)を決めるというものである。このブログでも何度も指摘したことだが、元々年齢層の高いリスナー層に向けられた音楽雑誌であり、評論家陣もかなり年輩の人が多く、一般の音楽シーンを見ている人間からすると、信じられないものがランキング上位に入ってきたりする、実に不思議な雑誌なのである。そういう年輩の弊害というものは所々に見られるのだが、誰も文句をはさむことはないのか、一向に状況は変わらない。結局、根強い年輩リスナー層に支えられているこういう音楽雑誌こそが、安定して生き残るのだということを証明したと言える。そんなこの雑誌の今年のランキングはどうなっているのだろうか? 主要なものを見てみよう。
 
【ロック アメリカ/カナダ】
1位『ボン・イヴェールボン・イヴェール(ジャグジャグウォー/ホステス)
 2位『メタルズ』ファイスト(パチンコ/ユニバーサル)
 3位『バッド・アズ・ミー』トム・ウェイツ(アンタイ/ソニー)
 
【ロック イギリス/オーストラリア】
1位『21』アデル(XL/ホステス)
 2位『ジェイムス・ブレイクジェイムス・ブレイク(アトラス/A&M/ユニバーサル)
 3位『マイロ・ザイロト(MX)』コールドプレイ(パーロフォン/EMI
 
【R&B/ソウル/ブルース】
1位『ラヴ・レター』R・ケリー(ジャイヴ/ソニー)
 2位『ラヴ・ハズ・ノー・リセッション』キンドレッド・ザ・ファミリー・ソウル
(パーパス/ウルトラヴァイヴ)
 3位『My Life The Journey Continues (Act1)Mary J. BligeGeffen
 
【ラップ/ヒップホップ】
1位『テイク・ケア』ドレイク(ユニバーサル・リパブリック)
 2位『AmbitionWaleMaybachWarner
 3位『ゴブリン』タイラー・ザ・クリエイター(XL/ホステス)
 
 ちなみに少し他のジャンルも1位だけ挙げてみると、こんな感じ。
【ロック 日本】
1位『幻とのつきあい方』坂本慎太郎Zelone
【歌謡曲/Jポップ】
1位『11のとても悲しい歌』PIZZICATO ONE(ユニバーサル)
【ハウス/テクノ/ブレイクビーツ
1位『スーパー・バト』レボレド(コメメ/オクターヴ・ラヴ/ウルトラ・ヴァイヴ)
【ワールド・ミュージック】
1位『タッシリ』ティナリウェン(ライス)
【ロック ヨーロッパほか】
1位『タンデム』マンヴィエル+シュアレズ(オルターポップ)
【レゲエ】
1位『Rasta GovernmentTakana ZionSoulbeats
【ラップ/ヒップホップ 日本】
1位『我時想う愛』S.L.A.C.K.(高田音楽制作事務所)
【レゲエ 日本】
1位『FREEDOM_BLUESHIBIKILLA.I-Note
 
例年と比べると、他の音楽誌でも扱うようなものが並び、意外と普通な感じではなかろうか。しかし実際に雑誌を見てもらって、ベストテンにまで目を向けてもらうと、そこには、ここで見て初めて、こんなの出してたんだと気付くものが随所に見かけられるから、おもしろいというか何と言うか…。音楽の評価が、セールスやエアプレイで決められるものではないとは思うが、結局、選者の数だけ、ひねくれた、こだわりのものを入れ込んでいるだけのように見える。それを年間ベストのランキングの場でやられてもなーというのが、正直な感想である。
 
ここに挙がっているものであれば、例えば「トム・ウェイツって、新作出してたんだ?」というくらいの印象である。かといって、その作品がそれまでのその人の過去の作品と劇的に変わっているものなのかと言えば、聴いてみたら、「正直どこがちがうの?」っていうくらいの感じがほとんどである。毎年、こういうランキングの場であらたに見かけたものを聴いてみるが、心を動かされるものが少なく、後悔している。
 
今回のランキングで、特に違和感を感じたのは、【ロック アメリカ/カナダ】のカテゴリーの9位にランクしているメイヤー・ホーソーンの『ハウ・ドウ・ユー・ドウ』の扱い方だろう。古き良きモータウンミュージックへのリスペクトにあふれたレトロだが新しいソウルミュージックな作品のはずだが、なぜだがカテゴリーは【ロック】になっている。本人が白人の青年ということでそうなったんだろうが、かつてブルー・アイド・ソウルみたいに呼ばれた、ホール&オーツスタイル・カウンシルが【ロック】のカテゴリーに入るのはまだわかるとしても、メイヤー・ホーソーンの音楽は明らかにちがうだろうという印象しか感じない
 
それは実際【ロック アメリカ/カナダ】の選者の間でも議論されたようであるが、そもそも【ロック】のカテゴリー自体の意味がもうわからなくなっている。【ロック アメリカ/カナダ】の選者が、ジャンルを越境するものとして、メイヤー・ホーソーンをランキングに入れた行為は評価できるものかもしれないけれど、【R&B/ソウル/ブルース】のカテゴリーのランキングには、メイヤー・ホーソーンは入っておらず。その選者たち(結構、保守的な人達という印象)が、メイヤー・ホーソーンをランキングに入る対象のものとして、議論の題材にしたような状況すら見えてこない。「結局、肌の色で全部決めてんじゃないの?」と思われても仕方ない感じである。
 
それを言うなら、そもそもアデルだって、【ロック イギリス/オーストラリア】のカテゴリーに入っていることだっておかしいと言えばおかしい。音楽的には【R&B/ソウル/ブルース】の方が近いと言った方がいいものだろうし。
 
もう【ロック】というカテゴリーは、いわゆるクラシックなロックを指すジャンルに細分化してしまった方がいいだろう。その方がスッキリくる作品がランキングにいっぱい入っている。代わりに【ポップ】みたいな呼称でカテゴリーを作る方がいいんじゃないの? 多くの海外雑誌とかはそうしてるんだし。でも評論家陣の個人的ランキングを見ると、本当に偏っている人が多いのよね。結局、彼らがついていけないんだろうなと実感した。