今さらながら音楽雑誌の2011年ベストアルバムを検証する⑤
さて2011年は、私にとってなじみだった雑誌もなくなってしまった。『bmr(旧:ブラック・ミュージック・レビュー)』である。そもそも日本語でブラックミュージックに関する情報を得られることはなかなかに少ないので(もっぱら英語のサイトでである)、貴重なものだったわけだが、それでも『bmr』は、webで引き続き情報を発信し続ける体制をとり(この情報がなかなかに速い)、逆に雑誌があった時の状態がもう想像できないくらいである。その中で、かつての名物企画であった年間ベストアルバム50も、webにて行われることとなった。なので、音楽雑誌というカテゴリーとは微妙に異なるのではあるが、そのランキングの一部を見てもらいたい。
『bmr』 BEST 50 2011
1位 『tha Carter IV』 Lil Wayne
4位 『Take Care』 Drake
7位 『King of Hearts』 Lloyd
まあ、こういうランキングこそ、他の音楽雑誌では決して見ることのできないものであろう。ゆえに貴重ではあるのだが、当然ながらこれはwebでしか見ることはできない。どうでもいいけど、このランキングを公開した当初ならまだ許せるのだが、だいぶ経った今、せめてランキングの一覧が見られるページを作るべきではないだろうか。一つ一つ順位をクリックしていかないと見れないのがうざくて仕方ない。別に一覧のページがあったからって、中の記事を見ないなんてことはないだろうに。またせっかくbmrとして、こういうランキングを作ったのに、トップページに行ってもそこに飛べないので、完全になかったことになってしまっているのももったいない。せめて飛べるリンクくらい残しておいてもいいのではないだろうか? ということで、一応URLを下に記しておく。あと、これも雑誌時代にやっていたものなのだが、読者からベスト作品の投票を求めるリーダーズ・ポール的なbmr awardsという企画も募集はしていたはずなのだが、その結果発表はどうなったのか? 結局、募集しただけで終わり? 雑誌のように発行したら終わりというだけではなく、webだからこそ色々訂正などしながら、改善が見込まれるべきものなのに、そこがなされていないのが、残念でならない。
何気にこのランキングがすごいのは、他の音楽雑誌ではありえなかった、CD以外でのリリース作品、いわゆるミックステープものも順位に入っていることだ。(28位 『House of Balloons』 The Weekndや15位 『Nostalgia, Ultra.』 Frank Oceanなど) 今の音楽業界の流通形態からすれば、当然のことなのであるが、こういうことも通常の雑誌ならば、レコード会社への配慮でできないのだろうか? ちなみに15位の 『Nostalgia, Ultra.』 Frank Oceanは、ただでダウンロードできる音源素材でありながら、イーグルス”ホテル・カリフォルニア”の無許可使用で配布禁止みたいな措置になったらしい。誰が儲かるわけでもないのに。
今回のこのランキングもそうなのだが、実は私は正直に言うと、純粋なR&Bがヒップホップと同じカテゴリーでランキングに入れることには違和感がある。両者がクロスオーバーして共演することは珍しくないし、どっちのジャンルとも言えない曲だって、今や多数あるが、それでも純粋なR&Bの曲というのは存在するからだ。そもそもブラックミュージックというマイナーなカテゴリーでランキングが作られることが重要であることはわかる。そこをさらに細分化すると、ブラックミュージックを知らない人がさらに入って来れなくなるだろう。しかし、その分、評価の仕方もあいまいになってくるのである。今回のこのランキングを見てもわかる。一体何を元にこのアルバムがこのアルバムより上なのか? そこの違いが、歌ものとラップであればなおさらである。音楽に一貫したものがあるからなのか、バリエーション的多様性があるからなのか、アルバムを通してのコンセプトがしっかりしているからなのか、実際にヒットして受け入れられたからなのか、その辺がイマイチはっきりしないことになっているわけだ。
そもそもブラックミュージックというのは、既存の音楽雑誌を読んでいるロック系のリスナーからは軽視されていると思う。彼らはよっぽど世間で流行ったものしか聴かないし、普段は耳に入れようともしない。所詮は、人を踊らせるためのパーティー・ミュージックであり、歌詞は色恋沙汰ばかりみたいに思われているはずだ。そしてブラックミュージックは、ジャケットには大抵凝らないところがある。それは一部真実ではあるが、だからこそ、そこにあるのは、勝負できるのは音であるという実際であり、聴いてみないとその良さはわからないし、いわゆるイメージや先入観を簡単に裏切られるものなのである。ほんとはブラックミュージックにこそ、評論が必要なのだ。今の若い人達には、そういう偏見はないというかもしれないが、だからこそ雑誌のようなメディアがないという状況が惜しく感じられる。こういうランキングの情報などは、より一般的にするものとして、ほんとに重要なのである。
個人的に今回のランキングを見て思ったことは、1位のリル・ウェイン(私はこの人をどうも素直に受け入れられないのだが)についての「ミニマムでミニマルなトラック類を主戦場として変幻自在に遊び、しかし自分の芸風からブレない。その様子を敢えて喩えるなら、98年頃のバスタ・ライムズの活躍か」という表現であった。同じく5位のクリス・ブラウン『F.A.M.E.』の④"Look At Me Now"でも超高速フロウで、クリス本人より存在感を見せつけたのが、バスタ・ライムズであった。未だ数あるラッパーの中でも、トップと言えるほどの技術を持ちながら、かつての栄光はどこに、不遇な時代を過ごさざるを得なかったバスタという人物。自分のチームを率いるほどのリーダーでありながら、リル・ウェインと違い、その栄華が長く続かなかったのはなぜなのだろうか? マジメすぎた人物なのだろうか? プロデュースの才能がなかったのだろうか? 才能に溺れてしまったのか? そんなバスタの波乱万丈な人生を研究してみるのもおもしろいだろうなと思った次第である。
毎年、毎回、やっている意味もわからなくなって、最後はどうでもよくなってくるこの企画であるが、一応これで振り返ったということで終了。今度は、自分なりの2011年のランキングをここに記録してみようかなとも思っている。仕事が忙しくならなければ…ではあるが。