2018/11/16 Young Fathers @ The Showbox, Seattle, WA

 16日金曜の夜は、大したイベントはなかった中で、このライブのチケットを買っていた。ヤング・ファーザーズというスコットランドのバンドである。バンドと言っていいのかわからないが、ヒップホップであり、エレクトロであり、何よりもポップである音楽。メンバーは、リベリア移民のアロイシャス・マサコイ(Alloysious Massaquoi)、両親がナイジェリア移民のケイアス・バンコール(Kayus Bankole)、スコットランドエジンバラ出身の白人、グラハム・G・ヘイスティングス(Graham "G" Hastings)という異人種混成ユニットである。アフリカ系の2人がスコットランドで会い、スコットランド人と組んで、ヒップホップミュージックを演る。こんなおもしろいことないでしょというダンスミュージックである。
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 昨年、あの『T2トレインスポッティング』の続編映画で、彼らの楽曲が今のスコットランドの象徴として、フィーチャーされたことで有名となったが、それ以前からも注目されていたらしい。2014年のファーストアルバム『Dead』はマーキュリー・プライズを受賞、2015年のセカンド『White Men Are Black Men Too』は多人種グループならではの視点で、話題作問題作となり、マッシヴ・アタックノエル・ギャラガーらから絶賛され(こういう評価がただのヒップホップユニットではないことを示している)、昨年11月にはマッシヴ・アタックの前座で来日もしていたようだ。

 2018年は、3作目の『Cocoa Sugar』を発表し、単独のワールドツアーに出ており、そんな中、ちょうど自分がアメリカにいる時に、彼らの公演があったというわけである。せっかくアメリカにいるのに、何でアメリカのバンドを見ないのか、シアトルならではのグランジのバンドだってあるだろうというのも事実かもしれないが、そんなこと関係なしに見てみたいと思ったのが彼らである。
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 音楽的に言えば、ヒップホップというよりも、独特のダンスミュージックである。彼らがどれくらい両親のアフリカ系の音楽に影響を受けたのは定かではないが、それを決して否定できないアフリカ的な音がビシバシと感じられて、そこがたまらないのである(彼らは決してアフリカ的影響をウリにしてはいないのだが)。私が最初に感じた印象では、初期のブロック・パーティーに近いのかなと思った。ナイジェリア移民の子であるケリー・オケレケが中心となって結成したイギリスの多人種混成バンドのブロック・パーティー、彼らはロックバンドの文脈で語られることが多いが、エレクトロにアプローチしていたり、アフロ的リズムやボーカルこそ、私は親和性を感じたところである(彼らはもう活動しないのかな?)。

 もう1つは、アメリカ、ブルックリンのバンド、TV・オン・ザ・レディオである(彼らももう活動しないのかな?)。彼らも多人種混成のバンドで、音楽的にはこちらの方が近いかもしれないが、ヤング・ファーザーズは、彼らのようにサイケデリック要素はないし、難解ではない。むしろ限りなくポップであり、ヒップホップ的アプローチを重視しており、そここそが私が興味を持ったところでもある。調べてみると、ヤング・ファーザーズは、TV・オン・ザ・レディオのデヴィッド・シーテックと楽曲制作もしていたらしいというなかなかな納得の話もあった。自分の中では、最近見なくなっていた多人種混成ユニットに飢えていたところがあり、ヒップホップの未来はそこにあるのかなと思っていただけに、そんな中で注目されているヤング・ファーザーズを聴いて、これは行かなきゃならんだろうと思った次第である。

 ライブが行われるのは、The Showboxというライブハウス。歴史を辿ると、戦前からあったような劇場らしく、ライブハウスとしても、ポップミュージックの歴史に残る錚々たる人々が、シアトルでの公演をしてきた所だ。シアトルでは、それこそグランジの流行を作った歴史的ライブハウスの1つであるらしい。その場所は、実は昼にamazon goに行った帰りに、近くなので見に行っておいた。この付近はシアトルのダウンタウンで一番賑わっている場所であり、近くに大きな駐車場もないことは確認したので、夜ではあるが、シェアバイクのライムバイクでまた行こうと考えた。そして、この辺りは、泊まっているマンションの部屋からは大きな坂を登らなくても行ける、ちょうどいい所でもあった。それにしても、うちのマンションの下にはいつもライムバイクが3台以上止まっている、便利な場所だね。
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 The Showboxは、自転車で行って10分くらいの場所。開演は21時だったので、少し前に着くように出る。いくつか前座のバンドがあるのかなと思いながら、その場合は仕方ないと待つつもりで行った。現地に着いたら、人は集まっていたが、中に入ると前座のバンドはやっておらず、フロアには客がすでに集まっており、そろそろライブが行われる前の感じはあった。客はほとんど9割方、白人だった。男女比は男7女3くらいか。しかも、大学生くらいの若い奴らばかり。黒人やアジア系はちらほらくらいも見かけない。ステージには装飾の類は何もなし。楽器で見えるのは、ドラムス、パーカッションにシンセサイザーリズムマシン系とPCくらい。どんなライブになるのかわからないので、ここは最前まで行かずに、フロア中央に陣取る。
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 21時30分を過ぎた頃にメンバーが登場、歓声が上がる。フロントに3人が登場すると、すぐさまたたみかけるようにライムを繰り出す。音源とは全く違う迫力、彼らのライブは全く別物という話もあったが、確かにその通りである。3人のステージアクションも見事なもので、自分のパートになると、前に出て入れ替わり、掛け合いの妙も間をわかった動き、そこはまぎれもないヒップホップである。ていうか、普通のヒップホップユニットよりも明らかに盛り上がってるよ。
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 特に目立ったのが、奥に位置するサポートメンバーというドラムスのうまさだ。白人なのだが、迫力のあるドラミングで、アフロ的なリズムも見事に操る。ていうか、彼が正式メンバーの方が、ユニットにとってもありがたいんじゃないのという感じ。基本は、曲ごとにトラックが流されて、そこに生のドラムが合わさる動きなのだが、ライブハウスのフロアだと、トラックが聞こえないくらいにドラムスの音が大きくて、3人のラップとともに、リズムがやたらと強調されて、より音楽のアフロ的側面が目立つ。音源を聴くのと違って、とにかく高揚感が強調されて、盛り上がるのである。
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 曲間で、時折、白人のG・ヘイスティングスシンセサイザーの方に行ったりする動きがあり、彼がサウンド面を構築しているのかなという感じもしたのだが、アフリカ系の2人も曲制作に関わってないわけはないだろうと思えるので、彼らがどんな風に曲を作っていくのか、そのメカニズムが知りたくなった。
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 ライブなのであえてそうしているのだろうが、静かな曲はやらず、ビートで押しまくる曲ばかりを入れ込むので、3人が交互にフロアをあおるので、スタジオはこれでもかというぐらいにはねる、実に楽しい。客には一緒にライムを口ずさむ者までいる。そんなに聴いてるの? シアトルのファンってすごいなって思うほど。後半には『T2トレインスポッティング』に収録されていた”Only God Knows”も披露していた。この曲、こんなに盛り上がる曲だっけという具合だった。久しぶりにこんなに熱くなるライブを観たという感じ。結構、汗だくになった。会場で売っていたTシャツを買って帰る。
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 今回のライブは、まだ彼らも知名度がないので、ステージは簡素で、レーザー照明くらいしかなかったが、もう少し売れれば、もっと彼らならではのコンセプトを配した装飾や演出が見られるならば、もっとおもしろいのにと思ったほど。しかし、彼らの「ヤング・ファーザーズ」というユニット名ほど、印象に残らないものはないなと思ってしまった。何でこの名前にしたんだろう。本当に彼らが父親ならば仕方のない話だが、単純すぎるというか、なんか忘れてしまう名前だ。昔、ヤング・ブラック・ティーンエイジャーズというグループがあったが、彼らにちなんでいるわけでもなさそうだし、せめて間に何か1語でも入れればよかったのにと思う、3文字の略語にしても覚えられるし。

 部屋から乗ってきてライブハウスの近くに止めていたライムバイクは、そのままそこに残っていたので、乗って帰ることに。幸いにも近くにホテルがあって、そのフリーWIFIが生きていたので使って、自転車をアンロックすることができた。部屋に帰ったのは、23時を回っていた。翌日は、部屋をチェックアウトして、様々な場所を移動しなければならない忙しい日となるので、体力を蓄えようと早めに床についた。