2017/11/4 THE HOOTERS Give The Music Back Tour 2017 @ Keswick Theatre Glenside, PA

ラトガース大のゲームを途中で抜けてフィラデルフィアに戻る。それはフーターズのライブを観るためであった。フーターズと言っても、アメリカの健康的な女性がいるレストランの名前ではない。ロックバンドのザ・フーターズである。

80年代の洋楽全盛時代。決してヒットチャートでナンバーワンを取る曲を生み出すバンドではなかったけれど、独特の個性的なキャラクターが大好きなグループだった。フーターとはピアニカのことで、その馴染み深い楽器の甲高い音と、クラシックの楽器というイメージしかなかったマンドリンの、エレキギターにも劣らない空間を切り裂くような音にとりこになった。彼らはフィラデルフィアの出身で、キーボード(フーターも弾く)担当のロブ・ハイマンと、ギターやマンドリンなどあらゆる楽器を担当するエリック・バジリアンの2人の中心人物とプロデューサーのリック・チャートフがペンシルベニア大学で出会って音楽活動を始めたのが最初だ。ロブ・ハイマンはシンディ・ローパーの「タイム・アフター・タイム」の作者で、リック・チャートフがプロデューサーとなり、彼女のデビューを支えた人物でもある。

フーターズのメジャーデビューアルバム『Nervous Night(眠れぬ夜)』は、まだ中学生だった私が最初に買ったCDであり、”And We Danced(朝までダンス)”、”Day By Day(デイ・バイ・デイ)”は、今でもビデオクリップのシーンとともにくっきりと思い出すことができる。マイケル・ジャクソンやマドンナなどももちろん聴いてはいたけれど、CDまで買って、歌詞までちゃんと聴こうとして、ずっと持っておきたいと思ったのは、フーターズであった。ピアニカとかマンドリンの馴染みはあるが、ポップスでは他に決して聴かない音が鳴っていたことと、ギターが全てを主張しない(ギターソロの間奏が長くない)ところが何より好感を持ったバンドだ。

セカンドアルバム『One Way Home(ワン・ウェイ・ホーム)』は、よりトラッド色が強くなった最も好きなアルバムだった。その後、それほど売れなくはなったが、3枚目の『Zig Zag』4枚目の『Out of Body』にも必ず好きな曲があって、ずっと追いかけていた。いつの間にかアルバムは出なくなり、いつしか彼らが拠点をドイツに移して、演奏活動を続けていることを知った。ドイツは彼らに縁もゆかりもないところだが、かつてシングル”Johnny B”がヒットチャート1位になったことがある国で、彼らをこころよく受け入れた国だったらしく、定期的にライブを行っており、ドイツ語の曲も歌っているらしい。

彼らの単独来日公演は2回ほどあったはずだが、自分はどうしても行けなかったことだけはおぼえている。そんな彼らが地元であるフィラデルフィアに帰って凱旋公演を行うのだ。そして、たまたま自分がアメリカにいる間に公演があるとなれば、見ないわけにはいかないだろう。自分の多感だった青春時代を体感するためにも見なくてはいけない。これは運命だと思うようになった。

ライブは、フィラデルフィアと言っても、ダウンタウンではなく郊外の、車で行けば30分くらいかかる、厳密に言うとフィラデルフィア市ではない、グレンサイドという町のKeswick Thetreというライブハウスで行われる。彼らの地元でありながら、彼らをドイツへと追いやってしまったフィラデルフィアという街であるが、再び彼らを20数年ぶりに呼び寄せたということである。そこは大いに評価されるべきである。実は2015年の、彼らの35周年の年からフーターズの公演はここで行われたらしく、今年は3年目ということらしい。日本でもフーターズは人気ではあったが、現在、彼らを呼べる力のある会社はないし、彼らの公演がビジネスになる保証もない。だからこそ、アメリカで彼らのライブを観ることには意味があるのだ。

チケットはStubHubで取った。会場は、ホールで、スタンディングではないので、席が決まっており、やはり最前列付近は相当な値段になっていた。だが、ここで引き下がるわけにはいかない。少しでも前の列をと17列目のセンターブロックのチケットを買った。チケットを取ってからというもの、数週間ずっと、spotifyフーターズの昔の曲を聴いていた。それほど自分の中では楽しみになっていたライブだったのだ。80年代の音楽でも、トラッド志向だった彼らは、シンセドラムなどの音が入っていなく、古さを感じさせない音楽なところがあらためてすごいなと思わせるところである。

ラトガース大からフィラデルフィアには7時半には戻ることができた。グレンサイドは古い街のようだ。Keswick theatreはすぐにわかったのだが、駐車場が周りにはなく、ライブハウス用の駐車場もないらしく、道も決して広くはないので、車を一時的に止める場所もなく、数百メートルほど先に住宅街の一軒家が並んだ地区がいくつもあって、そこの道沿いに路駐している車にまぎれて、止めさせてもらおうともらった、すでに夜だし、こんな場所で駐車違反もないだろうという判断であった。また雨が降り出していた。よくこの時間まで降らずにスムーズに来れたなと思う。

新しく買ったデジカメも使いこなしてきて、会場に入る。建物自体も相当古いようで、後で調べてみたら1928年に建てられた昔の劇場で、ライブハウスの運営会社が買い取って、1988年にリニューアルしたようだ。イスも古くて趣きがある。客層は、自分よりも明らかに年上の白人男女ばかり。日本人はおろか、アジア人らしき人物もいない。17列目のセンターブロックという席はこの上なく見やすい席で写真を撮る分にも申し分なかった。いつ始まるのかなと思ったら、開演予定時間の5分後くらいにはメンバーが登場。前座もナシである。さすがに年はくってはいるが、あれだけ紆余曲折があったグループなのに、メンバーはほとんど変わらない。本当にすばらしいバンドだ。歓声もそこそこに演奏が始まる。時間通りに戻れて本当に良かった。しかし、客は立ち上がるわけでもない。まあ、そこは年齢層だから仕方がない。

1曲目は"You Never Know Who Your Friends Are"。メジャー3枚目のアルバム『ZIG ZAG』の4曲目。このアルバムで一番好きだった曲だ。もうこれで上がった。そもそも1曲目にこの曲を持ってきたことに意味があるのだろう。観客をずっと友達だったという意味と、ここに集まったみんなが友達だったという意味にかけているとみた。そして、5枚目のアルバム『Time Stand Still』に入っている”I'm Alive”をはさんで、1枚目『Nervous Night』収録の名曲、”Hangin' On A Heartbeat” が来た。もう会場は大合唱である。いまだに歌詞はほとんど全部おぼえている。さらに、2枚目『One Way Home』の”Johnny B”、5曲目に大好きな 『Nervous Night』の”Day By Day”のイントロが鳴って、ずっと自分はここに来たかったんだと思うと、涙が出てきた。これが20年以上前ならもっと良かったのになと思った。
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6曲目にドン・ヘンリーの”ボーイズ・オブ・サマー”のカバーを演り始めたところから、今日はどこまでの曲をやってくれるんだろうという思いに変わった。 5枚目の『Time Stand Still』に入っている曲だが、フーターズとしてはそれほど有名な曲ではない。さらに 『One Way Home』の”Graveyard Wartz”をはさみ、”500 Miles”、"Lucy In The Sky With The Diamonds"とカバーが続くと、もっと他にやってほしい曲があるのに、それをやらなくてもいいのになという思いになっていく。そして『Nervous Night』の名曲として知る人ぞ知る、”Where Do The Children Go?” まで来ると、そこまでやってくれるんだという感動に。でも、この曲はアルバムでは、パティ・スマイスと一緒に歌っている曲で、こういう年に1回の場なんだから、パティ・スマイスを呼んでほしかったなと思うことしきり。
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そこから1枚目 『Nervous Night』 と、2枚目 『One Way Home』の名曲が続く山場に入る。”All You Zombies”、"Karla With A K"、"Satellite"、そして"And We Danced"。ロブ・ハイマンはフーターを高々に響き渡らせる。観客の中には立ち上がっている者もちらほらいて、自分も我慢できず、ずっと立ち上がっていた。  "Karla With A K" の長いイントロ、これを生で聴けただけで自分は幸せだった。この曲だけはデジカメで動画も撮ったはずだった。そして、メンバーはステージから一旦ひける。もう満足しすぎて、あと何曲聴けるのだろうかなと嘆息していた。しかし、すぐに再びメンバーが登場。アンコール数曲だけかと思っていたのに、これは単なる休憩だったかのようで、まだまだライブは続いたのだ。トラッド色強い曲が続き、5作目の 『Time Stand Still』の曲もフォロー、そして3作目 『ZIG ZAG』のそう言えばこんな曲もあったなと思い出した”Mr. Big Baboon”も演奏。また懐かしさがこみあげてきた。
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さらに、ここ数年のツアータイトルにもなっている”Give The Music Back”を経て、1枚目 『Nervous Night』の名曲 ”South Ferry Road”、彼らのメジャーデビュー前のアルバムタイトル曲である ”Amore”、2枚目 『One Way Home』の”Fightin' On The Same Side”と、またまた時代を遡っていく設定。気が付いたら、もう2時間をとうに越していて、3時間コースになろうとしていた。なんと、ジョーン・オズボーンに提供した”ワン・オブ・アス”、シンディ・ローパーに提供した名曲”タイム・アフター・タイム”まで披露。本当にここまでやってくれるなら、誰かゲストでこの場にいてほしかったなと思ったのが正直なところ。
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満足しきったところで、印象的なイントロとともに流れたのは3枚目の『ZIG ZAG』に収録されている”Beat Up Guitar”。この曲には、Philadelphia, PAというフィラデルフィアの街と地名が色々と歌詞に出てくる。彼らがバンドを始めた時のことを歌った曲で、いつか有名になってやると誓った頃の歌。時は流れ、彼らは数十年を経て、地元に戻ってきた。そんなフィラデルフィアだからこそ、聞いてみたいと思っていた曲であった。彼らはどんな思いでこの曲をここで演奏し、ファンはこの曲をどういう思いで聴くのか。実は、この日のライブ、最後の曲がこれだった。大合唱とともに終了し、メンバー全員が手を取り合って、頭を下げて終わった。

まさにフィラデルフィアを満喫した日だった。”Brother, Don't Walk Away”とか、”Engine 999”とか、"She Comes In Colors"とか聴きたかったけど聴けなかった曲もあったが、それはまたいつか聴ける、これが最後ではないと思いたい。ここまで来てわかったと思うが、この日撮ったはずの写真は、結局、新しいデジカメを失くしてしまったことにより、データも失ってしまって、あげることができなかった。写真があれば思い出すはずの記憶も出て来ず、色んなところから画像や映像を検索しながら、手探りと想像で書くはめになった。新しいデジカメの扱いに慣れてきたので、この日は携帯では一切写真を撮らなかったのだ。本当に最悪の展開である。でも、だからこそ、また必ずフーターズを見たいという思いが沸々と湧き上がっている。この日は雨も降っていて疲れたから、朝ごはんだけ買って、ホテルに帰ったのは0時過ぎで、すぐに寝てしまった。思えばこの時、写真のデータをチェックして、PCに移すくらいのことをしておかばよかったと、つくづく後悔している。