2017/11/1 Arcade Fire Infinite Content Tour 2017 @ WFCU Centre Windsor, ON Canada

2017年の休みは、初めての11月の第1週に取ることになった。文化の日などの祝日で連休が重なるところは混むだろうし、チケット代も高くなるだろうと思ってあえて避けてきたのだが、今年のこの時期にしたのには理由があった。

何しろ今一番好きなバンドと言っていいアーケイド・ファイアがちょうどツアーを行っていて、そこに入り込めるかもと思ったからだ。数年前にサマソニで初めて見てから、これほど大層で大袈裟でわくわくする、ライブがおもしろいバンドは他にないと夢中になった。過去の作品を全て聴いて、オフィシャルからYouTubeに上がっているものから、ライブの映像もことごとく見た。彼らは今年『Everything Now』というニューアルバムを発売したのだが、ちょうどフジロックに行っている日が配信日で、ライブを見ていない間は、常にspotifyで彼らのニューアルバムを聴いていたくらいだった。誰かが「アーケイド・ファイアはアバになった」ようなことを言っていたが、まさにその言葉がぴったりの秀作である。しかし、なぜかフジロックもそうだが、そんな彼らを日本はこのツアーで呼ばないことが判明した。今年はロラパルーザでもヘッドライナーを務めたというのに、世界的な評価がどんどん上がる中で、日本人の熱狂ぶりはあまりにも低い。だったら自分が見に行くしかないと思った次第である。

アーケイド・ファイアのツアーはちょうど11月の頭に母国カナダに凱旋する形になっていた。1日はウィンザー、そして3,4日はトロントのエア・カナダ・センターだった。これまでデトロイトには何度も行っていたので、デトロイトからカナダに入るのは橋などでつながっているためにすぐで、カナダに入った先がウインザーという街だということもわかっていた。他の予定とすり合わせた結果、1日のウインザー公演のチケットを取ることにした。エア・カナダセンターの方がアリーナは大きいから、より演出も豪華であるだろうということはわかっていたが、トロントだとさすがに飛行機で移動しないときびしいし、NBAトロント・ラプターズもNHLのメープルリーフスもその間はロードで、他にトロントに泊まって楽しめるようなイベントが前後になかったということもあった。

1日のウインザーの公演はWFCUセンターというアリーナでそんなに大きいところではなかった。スタンドではなく、フロアーの立見のチケット、いわゆるアリーナのチケットがStubhubで買えた。約90ドルだから高いといえば高い。驚いたのはブロック指定のようなものがなかったことだ。現地に行った後で指定されるのかよくわからない、チケットには整理番号のようなものもなかった。デトロイトから車ですぐにカナダに入れることはわかっていたが、実際にカナダに入るのは初めてで、調べてみると入国の手続きが結構、面倒くさいようで、どれだけ時間がかかるのか予想できなくて、不安になる。ましてやこちらはカナダに泊まるわけでもなく、コンサートを見て数時間で帰ってくるわけだから説明を求められたら大変だなと思いつつ、なおかつ自分の休みの都合で、今回の旅行の初日が、カナダへ行く日となってしまったから、さらに不安になった。

11月第1週の連休のところでも、飛行機のチケットの値段は大して変わらなかった。今回はデルタで取ったのだが、諸費用込みで10万円しなかったから安く買えた。しかし、今回は休みがいつもより数週間早くなったこともあり、仕事にはギリギリまで追い詰められて、出発日を変更しなければならないかもという最悪の状況まで考えていた。出発日を遅らせたら、何せ格安運賃なので、変更できるチケットじゃないから取り直さなければならなくなる。そして、何より自分が一番行きたかったアーケイド・ファイアーが見れなくなってしまうわけで、そうなると旅行に行く意味があるのかとも思いつつ、でも他にも取ったあらゆるチケットがすべて紙くずになってしまうことを考えれば行かざるを得ないかなと悩んだ。幸いにも1日までには何とか仕事を片付けることができた。これでアーケイド・ファイアーは見られる。だが、ギリギリまで仕事に追い詰められて、直前で出発することになったので、準備も満足にできず、移動までの記憶がほぼないという状態だった。

今回はデトロイトへ直行便で、空港でレンタカーを借りて、ダウンタウンのホテルにチェックインして、そこからウインザーに移動し、ライブを観て、帰ってくる算段である。ちなみに11月2日、3日はデトロイト郊外に滞在し、4日にフィラデルフィアに飛行機で移動、5日に車でニューヨークに移動して、6日にニューヨークから帰るという旅程である。

デルタでの移動は可もなく不可もなく。いつもと違って、「菊の会?」という日本舞踊のオバサマ方の集団が周りにあふれていて異様な感じ。アメリカ公演みたいなことをするようで大したもんだなと思いながらも、それほど関心はなく、本当に疲れていたので、機内では一本も映画を最後まで見られなったくらい。ハーツレンタカーはいつもと同じくゴールドメンバーで予約したのだが、初めてカウンターで自分の名前を見つけた。しかし、車が決まっていたわけではなくて、結局カウンターに行って手続きをし直すという具合でドッと疲れる。デトロイトでの愛車はグレーのカムリだった。今回から、ハーツのネバーロストというナビが、以前は車に備え付けだったものが、スマートフォン方式に変更になり持ち歩きができるようになった。便利になったのかと思いきや、当たる機種にもよるのだろうが、バッテリーがすぐに減るし、スマートフォンになっても渋滞や通行止めの箇所の情報がリアルタイムに反映されるわけでもないようで、苦労する度合いはさほど変わらなかった。
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ホテルはよく泊まるクラウンプラザが高かったので、今回はダブルツリーにした。デトロイトダウンタウンは一流ホテルでも値段はそれほど高くはないが、逆に安いホテルもないという奇妙さは相変わらずで、でもちょっとずつ街が復興して値段も高くなっているのかなという印象である。チェックインして、いよいよカナダへの移動を試みる。行きはナビに従って、トンネルからの移動を選択。しかし、いきなり入国管理所のところで、通るレーンがちがうと言って怒られる。でも外国人はここのレーンを通れとか、何も書いてないんだから仕方ない。結局オフィスみたいなところで、パスポートを見せたりして質問に答える。アーケイド・ファイアのコンサートを見て帰ってくると言ったら驚かれた。だって、しょうがないでしょ。彼らは日本に来ないんだからさ。

トンネルを通れば、すぐにカナダだ。何だろうね、街の表示も雰囲気も何も変わらないし、ウエルカム・トウ・カナダとか書かれているわけでもないので、ここがカナダと言われてもわからないだろうという感じ。WFCUセンターはさらにウィンザーの郊外にある場所で、こんな道で合ってるのと思うくらい田舎道を20分くらい進んだところで開けた場所になってようやく着いた。WFCUセンターとは、ウィンザー・ファミリー・クレジット・ユニオンセンターの略で、何ともこぢんまりとしたアリーナだった。NHLのゲームをやっていれば知っているSpitfiresというホッケーチームのホームアリーナにもなっているところだった。駐車場に車を止めても料金は取られない。ウィンザーっていいなと思った。

中に入るとさらにこぢんまりした感は強く、逆にこんなところでアーケイド・ファイアが公演やるの?と思うほどのアリーナだった。スタンド席を入れても1万人入るかどうかというレベルだと思う。奥にステージがあって、フロア席はどこに居座ろうと自由。ブロック指定がないのも納得だった。トロントのエア・カナダセンターならこんなことはなかっただろう。アリーナ内の雰囲気を確認したところで、ネットショップで買おうかどうか迷っていたTシャツ2枚を売店で買う。トイレで着替えて本番に備える。楽しすぎるぞ。
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センターステージはボクシングのリングを模したようになっていて、アーケイド・ファイアのメンバーは、ボクシングのチャンピオンの登場になぞらえたアナウンスが入り、ステージ上方のビジョンが、通路のカメラに切り替わり、彼らがそばの客にハイタッチしながら入場してくる演出だった。メンバーはロープをくぐってステージに入り歓声を受ける仕組みだ。結論から言うと、無茶苦茶近いところで見られて大満足である。フジロックの時よりも全然近い。ウィン・バトラーの迫力に比べて、レジーナ・ファサーニュの小さくてかわいらしいこと。なんべんも言うが、エア・カナダセンターならこんな見方はできなかっただろう。
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1曲目はアルバムのタイトルトラック「Everything Now」から。歌う者、踊り出す者、叫ぶもの、その反応が実に様々であるのがおもしろい。まあ、でも客層は白人ばかりであった。アジア人らしき者も見かけなかったな。曲は昔のアルバム『Reflektor』『Suburbs』『Neon Bible』から実にまんべんなく夢のような2時間超えのステージであった。中でも最新作から「Electric Blue」「Creature Comfort」の盛り上がりがすごい。これも地元カナダだからか。そして、レジーナがリードボーカルの曲「Sprawl」などは、ひときわ歓声が上がる。
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ボクシングのリングのステージは、中の部分が円形になっていて回転し、10人のバンドメンバーがどこかで必ず正面に来るようになっており、ステージは照明の効果でボックスのようになり、さらに光のカーテンのようにもなり、檻のようにも見える効果もあるという素晴らしさ。それぞれのコーナーとおぼしきところにお立ち台みたいな場所があり、曲によってウィンやレジーナがそこに上がって観客を煽る。ビジョンの映像も彼らのビデオクリップのように凝ったセンスで見せてくれる。10人いる彼らは、ホーンもいて、バイオリンもいて、大袈裟に大層に見せてくれる演奏は厚くて圧巻である。彼らは曲によって、楽器の担当がコロコロ変わることだ。レジーナはショルダーキーボードからドラムも叩くし、ワインボトルを楽器にしたパーカッション?までこなす。ドラムセットは2つあって、2人が同時に叩くこともある。これが彼らの多様性であり、強みである。間髪入れず、アンコールブロックもすぐに登場。ボーカルは客席通路から歌いながらやってくる。ラスト曲はおなじみの「Wake Up」。最後はメンバーが客席に降りても、演奏が延々続いているというおもしろさは、ライブが一番おもしろいバンドの面目躍如だろう。
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満足しきりの2時間超え。他会場に比べると小さいので、できなかった曲もあるのは仕方のないこと。しかし、とても初めて来た場所とは思えない。途中、デジカメのバッテリーが切れて、携帯に切り替えて、写真を撮らなければならないような個人的なトラブルはあったものの、終わってからも売店は行列ができていたので、さらにステッカーセットとマフラーも買ってしまった。現金のカナダドルで払っている客を見て、ここはカナダだということにあらためて納得。自分はクレジットカードで買ったんだけど、普通にアメリカドルでも買えるんやね。

会場を出たのは22時前くらいだったと思う。しかし、ここからまたアメリカに戻らなければならないのだ。面倒なことに雨も降り出していた。そしてこの戻り移動の時に、重要なことが発覚する。行きに通ったトンネルへの戻り方がよくわからないのだ。何度か周りをグルグル回った後で、もう夜も遅くなったということなのか、トンネルが閉まっていたことに気付く。ナビもスマートフォンになったことだし、時間によって通れないルートとか教えてくれるような進化はできないものなのか。さらに使い慣れないナビのため、別ルートを探すのにもとまどり、ようやく橋からアメリカに渡るルートに入る。しかし、この橋、トンネルが閉鎖されていたこともあって、混みに混んでいる。入国管理の場所に着くまでに1時間近くかかったように思う。そして、また事務所で降ろされ、入国の説明をさせられ、指紋を見せて(特にアメリカへ再入国する時は厳しかった)、数十分後にやっと解放される。結局、ホテルに戻った頃には24時前だったという大移動であった。アメリカ人にとってはカナダへの移動は簡単なことかもしれないが、外国人にとっては一苦労である。楽しかったライブの高揚感はアッという間にしぼんだ。
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アーケイド・ファイアは、カナダで凱旋公演を行った後、さらに中米南米、そしてヨーロッパツアーを行っているが、日本に来るという予定はやはりないようだ。今年ここで彼らのライブを観たというのは、大きな収穫だったにはちがいない。去年のアデルのツアーを見たほどではないにしても。