2012/10/28 moe. @ Ryman Auditorium

 ヴァンダービルト大学を出た頃は、もう夜の9時半だった。 何だかんだと3時間以上もかかった試合であった。この日は、 もう一つ予定を入れていたので、 そのままダウンタウンへと向かう。車をパーキングに止めて、 ナッシュビルのメインストリート的な通り、ミュージック・ ロウを歩く。ここへ来て、初めてかつてこの街に来た記憶が甦る。 確かに20年近く前にもここに来たはずだという思いが沸いてくる 。でっかいギターのオブジェがある通りで、 道の両側はとにかくカラフルなネオンばかりで、 音楽が聞こえてくる。 カントリーのライブハウスがいくつもあって、 外にも人があふれ出している。道にも観光客がすき間もないほど、 行きかっている。 この光景はもう何十年もずっと変わっていないものだろう。
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  そんな通り沿いに人もいない場所があった、ブリヂストン・ アリーナである。NHLアイスホッケー、ナッシュビルプレデターズの本拠地。この日は何もなかっただけなのだろうが、試合も行われず放置されているようで、どこか 悲しい感じだった。仮にNHLのロックアウトがなくて、 通常のシーズンが始まっていたとしても、今回の滞在中には、 プレデターズのホームゲームはなかったわけだが、 ここに再びゲームが行われて、 観客が集まる日が来るのだろうかという思いにはせてしまった(当時はまだシーズンが行われるかどうか懐疑的だった)。
 
 ミュージック・ロウを通り越して向かった目的地は、ライマン・ オーディトリアム(ライマン公会堂)である。 この建物は、周りとは明らかに違う古さと壮大さが感じられる建築で ある。1892年に礼拝堂として建てられた建物で、 ナッシュビルはおろか、 アメリカの歴史的建築として知られているのだが、実は アメリカだけでなく世界の名だたるミュージシャンたちがライヴを 行ってきたナッシュビルの音楽の殿堂とも言える場所でもあるのだ 。ナッシュビルにツアーに来るときは、 必ずここでライヴをしようする箱なのである。
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  今日、このライマンでライヴを行うのはmoe.(モーと読む) である。89年結成のバッファロー出身の5人組ロックバンド。 すでにアルバムを10枚以上出していて、 フジロックに出たこともあるらしい(が、自分は見ていない)。 確かに名前はなんとなく聞いたことがあったので、今回ライマン・ オーディトリアムの中に入ってみたいということもあって、 チケットマスターで買った(でも、CDは聞いたことがなく、 代表的な曲も知らない)。チケットは、 もろもろ手数料など込みで40ドル程度。実は、次の日はボニー・ レイットのライヴで、 こちらの方が当然知っている曲もあったりするのだが、 何せチケットの値段が倍以上ちがうので、やめにした 。 それならまだ知らないバンドの方が発見があるかもしれないと思ったのである。
 
 ライマンの中に入ってみると、 これまた歴史を感じる趣きのある作りで、 いっぺんで好きになった。当然、 建物の補修や修理はしているのだろうが、そんなことを感じさせない雰囲気を残している。扉を開けて、客席の方へ入ると、これまた古い映画でしか見ないようないわゆる劇場であった。思いのほか、すり鉢状の形状で、高い位置に客席が作られていて、ステージが見やすくなっている。客席の椅子も、木の古い長椅子で、出来た当時からあるものなのかどうかわからないが、教会でしか見ない感じの味のあるもの。オペラや演劇が行われてもおかしくない場所だが、ここでロックやポップミュージックが演奏されるのである。
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 時間はちょうど前座が終わった頃のようで、客が出たり入ったりしていた。やはり、アメリカのライヴでは、メインどころは22時を過ぎないと現れないのだ。ステージの方も明かりがついていて、会場全体がよくわかった。客は当たり前だが、9割以上が白人である。まだ時間がかかりそうなので、再びロビーに出て観察してみる。ロビーの通路の壁には、これまでここでライヴを行ったミュージシャンやバンドたちの公演のポスター(チラシ?)がずらりと飾られていた。まさに錚々たるラインナップである。そのポスターは、劇場のスタッフが作ったのだろうオリジナルテイストあふれるもので、決してミュージシャンの写真や似顔絵を使わず、タイポグラフィーのみで作られているところが、古い劇場らしくて実におしゃれでいい。文字だけでも、そのバンドやミュージシャンなりの特徴がうまい具合に表現されているのを感じることができる。1000人も入るかどうかという会場だが、名だたるミュージシャンたちが、あえてここでライヴをやりたがる意味がわかる気がした。数だけ入れたいならスタジアムやアリーナ級の会場だってナッシュビルにはある。でもこの箱でやること自体がステイタスとなることがよくわかった。
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 moe.のライヴが始まった。日本ではおそらく全くといっていいほど知名度のないバンドだろうが、地元アメリカでは、けっこうな歓声で迎えられる独特の人気を持つバンドがまだまだ多数あるのだ。コアなファンたちが集まっていることもあるだろうが、客席はほぼ満席だった。ステージには、ひまわりらしき花(リアルな花かどうか不明)が多数あしらわれていて、いい感じだった(最新アルバムのコンセプトなのかどうか、その辺はよくわからない)。バンドの音的には、ルーツロックというか、カントリーの要素もある感じだが、時折変則的な展開も入れたりしてきたりして、ウィルコに近い感じだろうか。おそらくそれぞれのメンバー自身が、スタジオミュージシャンとしても十分やっていけるくらいの実力を持った超絶技巧バンドと言っていいだろう(その辺もウィルコっぽい)。ただ、あまりにもルックスやたたずまいが地味すぎる。演出なのかどうか知らないが、メンバーは皆、同じようなツナギみたいな衣裳を着ているし。バンドだから、そういうことは必要ないのかもしれないが、やたらとカラフルに展開させてくる照明が、余計にバンドの地味さを際立たせてしまう。
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  あと気になったのは、やたらと一曲の長さが長いということだ。それぞれの曲ごとに必ずメンバーそれぞれの見せ場ソロ的なものがあったりして、最初は注目して見るのものの、だんだんと飽きてくる。これがライヴだけの演出なのか、実際の音源もそういう構成になっているのかわからないが、個々人のうまさはわかるのだが、そこら辺も必ず見せたいみたいなプログレバンド的思考はなんとかならんもんかと思った。曲ごとのバリエーションとか展開の豊富さなどは十分に感じられるバンドなので、本当にこれから世界的なブレイクするためには、3,4分台でピタリと終わらせるようなシングルヒットをねらったような曲も作るべきじゃないの?と感じたのだが…。バンドのうまさは、そういう曲でも絶対見えてくるもんだと思うし。まさにそこがウィルコとの違いといえば、違いなのか。
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  ということで、ライマン・オーディトリアムにまた訪れる日はやってくるのだろうか。まあ、でもボニー・レイットを見るよりは、色々な意味で収穫があったんじゃないかとは思っている。