ジェイZ、カニエ・ウエスト Jay-Z + Kanye West ”Watch The Throne” Tour @ 1st Mariner Arena, Baltimore 2011/11/1

 翌日、明けて11月1日は、ボルチモアに行くつもりなのだった。前日、無理してフィラデルフィアに戻ったのも、それがあったからである。ニューヨークから行くのと、フィラデルフィアから運転して行くのでは、倍以上の時間がかかる。なぜボルチモアに行くのかと言うと、この日、ジェイZとカニエ・ウエストの2人によるWatch The Throneツアーがあるからである。このように日本にまで来ない、決して見られないツアーが、時間が合えば見られるというのが、アメリカに行く楽しみの一つなのでもある。
 
 正直、このWatch The Throneツアーは、あと1日待てば、フィラデルフィアにもやってくる(会場はWells Fargo Center)。しかしそこまで休みは伸ばせないので、その前日の会場のボルチモアまで足を伸ばすのもいいかと思った次第である。行ったことのない街だし。実は、チケットの値段もフィラデルフィアの会場よりもちょっと安い。会場も小規模なので、近くで見れるだろうし。なんて賢い決断なんだろう!?
 
 フィラデルフィアからボルチモアまでは、1時間ちょっとで着いた。今回の東海岸の旅でわかったことは、ナビの最短ルートでフリーウェイを行こうとすると、ニュージャージーペンシルベニアデラウェア、メリーランドと4つも州を通過するので、そのたびに有料道路の料金を取られることだ。これが結構な具合で面倒くさい。もしこれがニューヨークから移動したり、ワシントンDCまで足を伸ばしていたら、6つも州を通過するわけだから、さらに面倒くさかったんだろうなと思う。
 
 ボルチモアという街には、特別な思い入れもなかったので、何の情報も仕入れず行ったのであるが、昔からある街のはずなのだが、インナーハーバーと呼ばれる中心部は、とにかく新しい感じ。港の風景は実に美しかった。フリーウェイから見えた、NFLボルチモア・レイヴンズのホーム、M&Tバンク・スタジアムも美しく、ここはここで行ってみたいと思った。この日のライヴの会場は、1st Mariner Arenaという中心部にあるところで、この日泊まるホテル、デイズ・インとほぼ隣接している抜群の環境。ちなみにこのボルチモアのデイズ・インは、デイズ・インのチェーンで、全米ナンバーワンになったこともある評価の高いホテルらしい。
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 ライヴに訪れる予定客に取られることもなく駐車場を確保できたので、市内観光をした後、会場へ。これまで自分が行ったヒップホップのライヴは、どちらかと言うと白人客(非黒人)の率が高かったのだが、ここはひときわ黒人率が高かった。8割は超えていたと思う。今までそんなライヴはなかったので、驚きだった。
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 会場は小さいと言っても、バスケットの会場にも余裕でなるくらいのアリーナで、自分がチケットを買ったのは2階席だったのだが、ステージとおぼしきところに結構近く、当たりだなと思った。さらにそのバンドセット的なステージとは別に、客席の真ん中に、アリーナレベルの観客の身長よりもちょっと高いくらいの二つのステージっぽい四角い空間が2つあった…。
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 アメリカのライヴらしく開演時間が来てもなかなか始まらないなと思っていたら、30分ほどたった頃、いきなり照明が変わってスタート。するといつの間にやら、真ん中のステージっぽい四角い空間に、片一方にジガ、片一方に蟹江が現れて、ラップしている。そこで客席は大歓声である。
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 すると、そのステージっぽい空間がどんどんせり上がっていき、気付いた頃には、会場の真ん中に大きな直方体の塔が二つできた状態に。高所恐怖症なら結構怖いだろうなという感じ。ジガも蟹江もあらゆる方向に向けて観客をあおる、まさに全方向ステージである。すごいと思ったのは、その直方体に、レーザー光線の照明がバキバキにあたる具合も見事だったのだが、直方体の側面がそれぞれ、鮫などの映像が次々と映し出されるスクリーンにもなっていたこと。いやー、ヒップホップのライヴなのに、結構、金かけてるなーと、ちょっと感動した。
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 ジガも蟹江も双方、黒ずくめの格好だった。ジガはTシャツとジーンズにヤンキースのキャップだが、蟹江は鎧みたいなスカートみたいなものをつけているようで、???と思ったが、これがこのツアーの決まりの格好だったようだ。
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 その直方体で、“Watch The Throne”の曲を数曲かました後、いつの間にか2人は中央のステージへ。花道などはなかったので、どうやら直方体の下でステージとつながっているような感じだった。今度は正面にも、どでかいスクリーン状態に映像が映し出される。ヒョウとか“Otis”の時は、オーティスの画像とか。“Made In America”では、キング師とマルコムXの画像が映し出されたり。アメリカの歴史をフォローし、リスペクトすることも忘れない。
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 今やJay-Zがアルバムを作ると言えば、名だたるプロデューサー達から数々のトラックが自然に集まるような状況であるわけで(その中でもジガは野心的でキャッチーで話題になるトラックを選択する抜群のセンスを持っているわけだが)、この“Watch The Throne”のアルバムに関しても同様な状況があったわけだろうが、蟹江はそもそもこのアルバムを、今回のツアーをやることを前提に考えていて、数々集まった他人作のトラックもライヴ向けに映えるように、かなり修正して作り直したらしい。
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 だから“Watch The Throne”のアルバムの曲だけで、ライヴは完結するのかと思いきや、それだけでは終わらない。ジガ、蟹江それぞれのソロパートもちゃんと用意されていて、昔の曲から最近の曲まで網羅、会場は大歓声に大合唱、もう完全にお腹一杯である。まあ、このソロパートが片一方には、引っ込んで休憩時間にもなるわけで、ステージに出ている間はどちらも全力でパフォーマンスできるわけだ。もちろんお互いのヒット曲を2人でやることもある。“Big Pimpin”とか“Gold Digger”とか。“Empire State Of Mind”って、ニューヨーク以外でもやるのね。
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 後半には、再び直方体に登場してステージングするブロックもあったり、とにかく見ていて、2人の全力投球具合がビシバシ伝わってきて、2時間を超える時間ぶっ通しでも、楽しく高揚するライヴであった(蟹江はグレードアップしヴェルサーチみたいな柄の鎧風の衣裳になって再登場!)。途中、ステージの階段に2人が座ってラップするところもあったが(多分“New Day”とかの曲だったと思う)、それはそれで味のあるいい演出だった(2人がちょっと休める時間にもなるわけで)。そして最後に“Niggas In Paris”で盛り上がりは最高潮を迎える。しかもこの“Niggas In Paris”アンコールでもパフォーマンスし。都合3回くらいやったんじゃないかな。まさにスゴイの一言である。
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 一体、何が彼らをここまでさせるのだろうか? もうそれこそ別にライヴなんか、何もしないでも遊んで暮らしていけるはずなのに、そのエンターテイメント精神、サービス精神にはほんとに脱帽であった。ヒップホップ界だけでなく、ショービズ界でも、自分達が一番であり、誰もここまでできないだろうと納得させるには十分のパフォーマンスであったように思う。
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 日本人はこのライヴを日本に呼ばなかったことを後悔しなければならないだろう。いずれDVDで映像作品はリリースされるとは思うが、ヒップホップライヴの1つの金字塔になったことは間違いないと思う。しかも、ツアー初日のアトランタでは、ビヨンセT.I.も登場するブロックがあったらしい。
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 話は変わるが、アメリカのライヴでは、こうやってデジカメで写真を撮ることは、基本自由なのである(もちろんアーティストによって禁止の場合もあるが、その場合は告知されている)。公開の場でやったパフォーマンスが、デジカメや携帯の荒い画像だったりで流出する分には、むしろ口コミや宣伝になるという考え方なのだろう。この“Watch The Throne”ツアーの評判もこういうネット情報でどんどん拡大していった部分がかなり大きい。何でもかんでも禁止にしてしまう日本のライヴは、ちょっとは考え直した方がいいんじゃないだろうか。アーティスト側の選択にして、嫌なアーティストは禁止にすればいいだけの話なんだし。
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 今回の旅、経由でのミネアポリスからの帰国便が、機材トラブルで飛ばなくなり、結局帰国が一日延びてしまうことに。だったらフィラデルフィアでライヴ見ても良かったんじゃないかという話であった。