2016/11/12 Georgia Bulldogs vs. Auburn Tigers @ Sanford Stadium (NCAA football)

 明けて11月12日土曜日、今日はジョージア大学フットボールチームのホームゲーム日だ。さすがに昨日は疲れて昼前に起きた。部屋からリビングに出ると、ダイニングテーブルに手紙が置いてあって、ホストさんは今日は仕事で早くに出かけないといけないので、テーブルのマフィンなどとコーヒーを好きなだけどうぞということだった。手作りのブルーベリーマフィンなどでおいしかった。犬とネコは在宅中だったので相手をしてやる。しばらくすると別の部屋に住んでいる女の子がやってきて、あいさつをしてコーヒーをくんで出て行った。彼女はジョージア大学に通う学生のようで、Airbnbとは関係なく長期に間借りしている下宿生だった。ホストさんも昨日そんな話をしてたなと思い出す。アメリカも広いからね。大学街なら普通に下宿生を受け入れた方がいいんだろうなと思った。

 フットボールのキックオフは15:30という中途半端な時間でもあったので、昼間は、昨日ホストさんにおしえてもらったおいしいと言われたカフェに出かけた。明らかに地元の人しか来ない住宅街の中にあるカフェだが、ものすごく混んでいて中の駐車場が一杯で置けず、一つ離れた道に路駐して入った。普通に今日のスープとパンを頼む。これが一番ハズレがなく、うまい。その後、ジョージア大の方まで行って、駐車場がいくらで止められるか確認しようと思ったら、さすがにフットボールゲームの開催日で、すでに一部の道路は封鎖されていて、パスがない車だと入れないようになっていた。ダウンタウン中心部の一時預かりの場所に車を止めて、街を探索してみる。すでにアセンズは大盛り上がりだ。グッズショップもいくつかオープンしていて、学内も歩いてみたが、余計な体力を使って疲れるだけと確信。

 面倒くさいなと思いながら、節約節約ともう一度家まで帰って車を置いて、そこからスタジアムへ出かけることに。ホストさんにはフットボールゲームから戻って来るまで、車を置かせてくれとメールしておいた。昨日歩いてわかったように、山道を下って、川を越えて、歩いて行く。まだダウンタウンよりはスタジアムへ行く方がちょっとは近いのだが、それでも道のりは遠い。この道をもう一辺帰るのかと思うとブルーになる、帰りは上りだからね。川を越えて、街に入ったところで、かなりのスタジアムへ向かう人たちに出くわす。すでにテールゲートパーティーも盛り上がっている。15ドルくらいの駐車場を見つかり、空きもありそうだったが、まだスタジアムまでだいぶある所で、お金がもったいないとやめる。

 ジョージア大学のフットボールスタジアムはサンフォード・スタジアムという。サンフォードというのは大学の創立に関わった人物の名前でスポーツ選手ではないようだ。大学内の通路からちょっと見えるようにくぼんだ場所に作られていて、人が集まってきているのが外からでもわかる、実に壮観なスタジアムである。収容人数は92000人以上というとてつもなくでかいのだが、それほどのバカでかさは感じない。スタジアムの入口の反対側の建物には大きなブックストアがあって、グッズが売られていて、実に便利である。ブックストアは帰りにまた寄ろうと思って、スタジアムに入場する。他のカレッジのスタジアムと同じく、昔あったNCAA footballというゲームでスタジアムの雰囲気は見たことがあるのだが、実物はそれとそっくりでこれまた格別である。このスタジアムのいいところは、入口から入る通路が、グラウンドレベルにあって、そこから階段を上がって行って自分の席まで行くところである。通路とフィールドの間には一般の人間の身長よりも少し低い樹木が植えられている垣根のようなものがあり、そこの間から目線で選手が練習したり、ミーティングをしたりしているのが、それこそ声が聞こえそうなレベルで感じながら歩いていける、実に距離感が近く、興奮できるところだろう。今回のチケットはStubhubで奮発して買ったフィールドに近い実に見やすい席である。
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 ジョージア大学フットボールチームの愛称は同じくブルドッグスであり、名門の一つであろう。最近の選手ではデトロイト・ライオンズのQB、マシュー・スタッフォード(ドラフト全体1位指名)や、シンシナティ・ベンガルズのWR、A.J.グリーン、ロサンゼルス・ラムズのRBトッド・ガーリーなどを輩出している。かつては、RBのハーシェル・ウォーカー、WRのハインツ・ウォードやCBチャンプ・ベイリーなども出身のスター選手から地味な選手まで実に様々な人材がいる。そして、今日は特別な試合ということで、彼らがゲストで来ていて、試合の合間に紹介もされていたのがうれしい。
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 今日の対戦相手はジョージア大のライバル校、オーバーン大学タイガースである。アラバマ州のオーバーンは遠いように思えて、実は車で2時間もかからないところで距離的にも近く、お互い歴史的にも古い名門だ。オーバーン大学は何といってもバスケットのチャールズ・バークレーの出身校として有名であるが、フットボールでも、最近ではカロライナ・パンサーズのQBキャム・ニュートン(ドラフト全体1位指名)の出身校であり、古くはRBのボー・ジャクソン、LBのタケオ・スパイクス、レイダースのQBにもなったジェイソン・キャンベル、ライオンズにいたDTニック・フェアリーなど、こちらも実に多彩な人材を生んでいる。

 両チームは共にSEC(サウス・イースタン・カンファレンス)という現在フットボールでは最もレベルが高いカンファレンスに所属しており、アラバマ大学フロリダ大学テネシー大学など毎年どこが勝ってもおかしくない激戦区の中で、ライバルチームとして毎年対戦カードが組まれるゲームなのだ。なんとその最初の試合は1892年からというから恐れ入る。ちなみにジョージア大学は、他にもフロリダ大学と、同じジョージア州ジョージア工科大学とも毎年対戦カードが組まれて盛り上がるライバル関係にある。

 そんなジョージア大学とオーバーン大学にはつい最近もおもしろい因縁があった。ニック・マーシャル(1992年生)というジョージア州出身のアスリートは、バスケットボールとフットボールと陸上という何でもできる運動能力に優れた選手で、バスケットとフットボールの両方をするためにジョージア大学に入学した。ジョージア大学のフットボールチームでは、コーナーバック(CB)として起用されたのだが、彼は結果を残せずに首を斬られる。しかし、彼はそこから短大に入り直して、クォーターバックとして再起を図る。そして、オーバーン大学に転校し、なんとQBのスターターに昇格したのだ。2013-14シーズンには、彼を斬ったジョージア大学に勝利、シーズンでわずか1敗しかせず、全米チャンピオン決定戦のBCSナショナルチャンピオンシップに出場、あのジェイミス・ウィンストン率いるフロリダ州立大学に惜敗するほどの躍進を見せ、一躍注目の人物となったのだ。彼をクォーターバックとして起用せずに辞めさせたジョージア大学は、まさかの人物に苦杯をなめさせられたのである。そんなニック・マーシャルも、プロのNFLではコーナーバックとして出場するが、成功には至っていないから、フットボールの世界はわからない。

 話がだいぶ逸れたが、今季のジョージア大学ブルドッグスの注目は、何といっても1年生QBであるジェイコブ・イーソン(Jacob Eason)だろう。彼は前年の高校生のQBランキングで1位となった注目の人物で、全プレーヤーの中でも7位にランクされた期待のルーキーである。彼の父親もカレッジでは有名なQBであったサラブレッドなのだが、ワシントン州の出身で、ジョージアとは特別縁もゆかりもない。元々は地元のワシントン大学に行きたかったらしいのだが、ワシントン大には一学年上に強烈なQBがおり(調べてみると確かにJake Browningという選手がいた)、自分がすぐには先発することができないかもしれないということで、他の数ある大学のリクルートの中で、ジョージア大学を選んだらしい。こういうところもフットボールのおもしろさの一つである。有名な選手がどこに入るかで、全く勢力図が変わるかもしれないのだ。
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 そして、一方のオーバーン大学タイガースは2年生であるが、こちらも1年生から先発経験のあるQBショーン・ホワイトがいる(スノーボードの選手にも同名の選手がいたが、ほんとによくある名前だ)。彼も高校時代からスーパースターではあった存在だが、これまた高校時代からスーパースターで知られた運動能力の高いジェレミー・ジョンソンというQBが、インターセプトが多くて先発から降格したのに代わって、浮上した人物である。本当に何が起こるかわからないというのが、フットボールの世界なのである。

 始まってみるまで、この試合が完全にディフェンス主導で進められることになるとは思わなかった。オフェンスの人材は申し分ないほど揃ってはいるから、いかに両チームのディフェンスが優れているかということだろう。結果としては、ホームのジョージアが勝ったのだが、そのスコアはなんと13-7。1クォーターの得点であってもおかしくはないロースコアゲームだった。ジョージア大はパスのヤード獲得が208、ランの獲得ヤードが135で、トータル343ヤードなのに対して、オーバーン大はパスの獲得ヤードがわずか37ヤード、ランの獲得が127ヤードで、トータル164ヤードと完全にショーン・ホワイトとオーバーンのオフェンスを抑え込んだ。コーチにとって、笑いが止まらないというのはこのような試合のことを言うのだろう。
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 第1クォーター、最初はジョージアの攻撃から始まった。ジョージアランニングバックは、Nick Chubb。あのトッド・ガーリーよりも才能があるとも言われたアスリートで、昨年はケガでシーズンを棒にふったが、今シーズンは十分に復調しているようだ。ジョージアは彼とSony Michelの2人でランを形作っており、そこにJacob Easonのパスが加わるわけだが、最初の攻撃でいきなり40ヤードのパスを決めて、さすがと思わせたが結局ペナルティーがあってノーカウント。ジョージアの攻撃はパントで終わった。ジョージアパンターはBrice Ramsy、彼はそれこそ数年前はQBだった人間である(QBをやめたわけじゃないようだが)。人材が豊富というか、何というか。パンターがQBだと、いつフェイクをかけてくるか、ディフェンスはこわいね。
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 続くオーバーン大の攻撃。タイガースのRBはKerryon Johnson。2年生だが、1年生から試合で起用され、高校時代はアラバマ州のミスター・フットボールだったというすごい人材だ。こういう選手がゴロゴロいるからカレッジフットボールはすごい。オーバーン大は基本、彼が走ってゲームをリードしていくようだ。ジョージアのディフェンスも最初彼の様子を見ていたのだろう。そして、QBのショーン・ホワイトが自ら走ろうとした時に、ファンブルを誘発させた。ファンブルはタイガースがカバーしたのだが、これでショーン・ホワイトは、結構焦ったかもしれないと、後を振り返れば思えた。オーバーンの最初の攻撃もパントで終わる。

 変わったジョージアの攻撃でJacob Easonは大器の片鱗を見せる。WRのTerry Godwinへのショートパスに続いて、WR、Riley Ridleyに57ヤードのパスを決めた。敵陣内15ヤードまで進むが、その後のトリックプレイには失敗。Terry Godwinの投げたパスがインターセプトされて攻守交替してしまう。こうなると流れはオーバーン大に変わり、次の攻撃でKerryon Johnsonの小刻みのランで進み続け、ついにタッチダウンランを許してしまう。ジョージア大は自ら作ったペースを見事にすくわれ、0-7と先制を許してしまう。ただ、QBショーン・ホワイトにロングパスをさせなかったのは、望みがあった。
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 ジョージアの攻撃に変わって第1クォーターが終了。するとそこからジョージアの攻撃はリズムが狂ったようになり、敵陣内にも進めない状況になる。サックやペナルティで阻まれ、得点など望めるべくもない。一方、ジョージアのディフェンスは、オーバーン大を完全に抑え込んだようだ。結局、第2クォーターが終了して0-7のまま。
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 ハーフタイムが終わって、第3クォーターが始まると、いきなり流れが変わる。オーバーンの攻撃はパスから入ったが、そこを読んでいたかのように、ジョージアのディフェンス、コーナーバックのモーリス・スミスは、ショーン・ホワイトのパスをインターセプト、敵陣25ヤードの位置だったので、そのまま走りこんでタッチダウンまで行ってしまった。アッという間に7-7の同点。このモーリス・スミスという選手はアラバマ大からの転入生という苦労人だと知ってさらに驚いた。
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 こうなるとジョージア大のディフェンスはリズムに乗ってくる。DEのReggie Carterがショーン・ホワイトをサックし、すぐにパントに追い込んだ。しかし、オフェンスまでをも波に乗らせないところが、オーバーン大タイガースのすごさであろう。両チームともそれから2回の攻撃は敵陣まで進めず、パントで終わり、膠着状態に。そんな中で流れを変えたのはやはりJacob Easonだった。3人のレシーバーにパスを投げ分け、ついに敵陣に入ったところで第3クォーターが終了。第4クォーターに入り、さらにJacob Easonは、2本のパスを決めて敵陣28ヤードまで進むと、ジョージアフィールドゴールに成功し、ついに10-7と均衡が破れた。
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 そして、ブルドッグスのディフェンスは相変わらず、オーバーンのオフェンスに全く仕事をさせない。次の攻撃でもパントに追い込むと、続くジョージアの攻撃は4人のランナーを駆使して、敵陣フィールドゴール圏内に入り、さらにJacob EasonのパスとNick Chubb、Sony Michelのランでついに敵陣4ヤードまで迫る。しかし、この後のフェイクを見破られて、タッチダウンは取れず、ジョージアはまたもフィールドゴールを選択。13-7とリードを広げるも、タッチダウンを一つ許せば逆転されてしまう微妙な点差である。試合時間は残り2分半。
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 ここでもブルドッグスのディフェンスは健在だった。オーバーン大はこの攻撃では全くランを使わずパスで押してくる。しかし、見事ショーン・ホワイトにはファーストダウンも許さず、敵陣22ヤードの位置から進ませず攻撃終了。ジョージアは時間を使い切って、スコアは13-7のまま試合終了。勝利を確信した頃には、ブルドックスファンは携帯のライトを付けて照らすパフォーマンスを行った。こういうのはいい感じだ。オーバーン大タイガースが有利と見られていた試合を、ジョージアブルドッグスがディフェンスで勝利したゲームだった。ジョージアブルドッグスはタッチダウンの時のパフォーマンスで。マスコットのHairyという犬の着ぐるみを着たキャラクターをタッチダウンを取った選手が散歩するかのような動きをするはずなのだが、このようなロースコアゲームではそれを見れるはずもなく…。そこは残念だったなと思った。
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 しかし、このシーズン、ジョージアブルドッグスは、ライバルのテネシー大やフロリダ大などに破れて、すでに4敗をしており、ランキングに絡むこともなく終了。トータル8勝5敗、中でも同じSECカンファレンスの対戦が4勝4敗というのが辛いところだった。期待の人材、Jacob Easonの1年目はほろ苦い形で終わった。一方のオーバーン・タイガースはこの日ジョージアに破れて3敗目、しかもQBショーン・ホワイトはこの試合で負傷したらしく、その後の試合は欠場というおまけもついた。結局、シーズン成績は、奇しくもトータルでジョージアと同じ8勝5敗となったが、同じSECカンファレンス内の対戦成績が5勝3敗なので、やはり地力はあるチームだということはわかる。

 ライバルゲームの勝利だけに会場は相当な盛り上がりだった。スコアはほとんど入らなかったゲームだったが、試合が終わったのは、ほぼ午後7時という長丁場だった。この日はこれからアトランタまで移動して、別のイベントがあるのに、結局ブックストアで買い物に迷ってしまい、さらに時間がかかる羽目に。ほんとにバカだと思う。
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 車に戻ったのは8時を過ぎていたように思う。ホストさんはもう帰っているらしく、家は電気が点いていた。あいさつした方がいいかと思ったところにメールが入る。部屋は空いているから泊まっていてもいいよというありがたいお誘い。ただ、このままアセンズにいても大したイベントはないし、すでに今日はアトランタのホテルを取っていた。まさかこんな時間になると思っていなかったので、もう行かなければいけないので、ごめんなさいとメールしてすぐに車を出した。会って話をすると、話込んでしまいそうで、躊躇したのだ。たった2泊でちょっとしか話もできなかったけど、ホストさんの心遣いには感動した。今までの旅で、こんなことはそんなになかったなぁーと思うと、アトランタに向かう車中で涙が出てきそうになった。