今さらながら私の2011年ベストアルバムを記録しておく③

3位『House of BalloonsThe Weeknd
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いわゆる日本の音楽業界的には、2011年はJames Blakeの年だったようであるが、私には彼などよりはるかに興味をひかれたのが、The Weekndである。プロフィール上は、トロントに拠点を置くエチオピア系男性シンガー/プロデューサーのエイベル・テスフェイ(Abel Tesfaye)らによるプロジェクト名なのであるが、このHouse of Balloons』から始まり、THURSDAY』『ECHOES OF SILENCE』の一挙3作品をネットで無料公開し、一躍注目を集めた。しかし何せCDを発売しているわけではないので、音楽雑誌的には2011年の作品として取り上げられないような状況でもある。暗くてアンビエントな側面が強調されているような感があるが、本質は実に聞きやすい、グル―ヴ感のある音楽である。そこが、2011年に注目された他の人達(James Blakeとか Bon Iver)とは明らかに違う点であろう。音楽的にはダブステップR&Bの融合と言われているが、ブラックミュージック的側面は奥底に隠しきれないものがあり、それが心地良さを引き出している点こそ、はずせないところだと思っている。個人的には、1曲目(なぜかマイケルの“Dirty Diana”をやっている)を除いたECHOES OFSILENCE』が好きだが、やはりインパクトととっつきやすさいう点でいうならHouse of Balloons』であろう。そして今年この3作が商業作品(つまりCDなど)としてリリースされるというニュースが出てきた。そうなると、この一連の作品が音楽雑誌ではどう取り上げられるのか注目である。しかし、これらの作品が、歴史上は2012年の作品となると、何だかしっくりこないものがあるのであるが。
 
 2位How Do You Do ハウ・ドウ・ユー・ドウ』Mayer Hawthorne メイヤー・ホーソーン(ユニバーサル)
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おもしろいものだ。2009年にStones Throwから『A Strange Arrangement』でデビューした白人のマルチプレーヤーアーティスト、メイヤー・ホーソーン。田舎風のメガネの純朴そうな青年がモータウンのド直球のソウルミュージックを演っていることで、センセーションを巻き起こした彼が、2作目をメジャーのユニバーサルから発売すると、これまで彼の存在すら知らなかったかのようなロック系の評論家から絶賛されることになる。一方でこれまでのブラックミュージック系の評論家たちからはいつの間にか距離を置かれたようなのである。この状況は彼にとって、ある意味、上がりだったりするのか? しかし、彼自体の音楽は、基本路線は前作と何も変わっていない。メジャーになった分、演奏と録音はグレードアップしているような感じは受けるし、キャッチーな曲も多くなったようではあるものの。やはり、私は今作も前作同様に断固支持する。

モータウンサウンドフィラデルフィア・ソウルへの純粋な憧れが全面に出た音。そもそも私はストーンズ・スロウの新人白人アーティストというイメージからのギャップから入って聴いたのだが、もし知らずに音から入ったとすると、amazonのレビューに書いている人もいるが、黒人ミュージシャンだと思うだろうか?なんてと想像してみる。でも、彼の音楽は全くの懐古調というよりも、そこはかとなく感じられる新しさといったものがあるし、違和感は感じるのだろうなと思う。今作は前作の延長線上といったところだが、あえて望むならば(それは次作での展開で十分なのだが)、もっとベースがブリブリだったり、ホーンをバリバリ聴かせた、女声コーラスもバンバン入るような、どファンク調の楽曲なんかで彼の歌を聴いてみたいななんて思った。実際、彼が新しい面を作っていくとしたら、そんな展開だろう。彼とても全然知らないジャンルではないだろうし、むしろこれまでほぼ1人で作ってきたゆえにできなかったものであるかもしれない。そんな先駆者としては、例えばロビン・シックがいるのだが、彼はロビン・シックみたいなカッコ良さをウリにできるわけではないし、決してキャラがかぶるわけではないから、独特の味の魅力を見せてくれるのではないかと思っている。
 
1位『21』Adele アデル(XL/ホステス)
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こんなに売れてしまったアルバムを自分が1位につける意味もないのだが、実際、これほど完璧なアルバムは他にはない、まさに何年かに1枚の別格の作品だと思ったのは事実である。前作と比べてみると、それはよくわかる。前作当時の時代背景は、エイミー・ワインハウスを生み出したイギリスには、まだまだすごいシンガーがいるなという感じだった(ダフィーなどが同時期に出てきたと思う)が、フォークやジャズによったシンガーという印象だったと思うし、実際シーンではそうとらえられていたと思う。しかし、前作では3人のプロデューサーが、今作では6人になったように、サウンド面でガラリと変わった。ブルースやカントリー、ロカビリー、ゴスペルまでも取り込んだ一大アルバムが作られることとなった。あらためて前作と比較して聴いてみると、別人だと思ってもおかしくないほどである。いかに彼女の2年間の中に劇的な変化があったのかを物語っている。

つかみとして見事なのは、ブルースみたいな“Rolling With The Deep”であろう。この曲が①曲目でなければ、ファーストシングルでなければ、ここまでこのアルバムが売れることはなかったかもしれない。この曲を初めて聴いた時、ビジュアルから何からこんなにたくましい人だったっけ?と疑った。これで製作時に21歳だったというのがほんとに信じられないほどだった。40歳と言われても誰も疑わないようなその貫禄。彼女の人気が出た魅力の理由は、その歌詞にもあるはずだが、恋愛や人生に破れてもポジティブに強く生きる女性の姿が描かれているところが共感を得ているのだろうが、これとてとても21歳で書ける歌詞ではない。あまりにもすごすぎるのである。エイミー・ワインハウスがなかなか新作を出せないでいる中、完全に取って替わるほどのインパクトをもって現れた衝撃だったと思う。

アルバムでは次に“Rumour Has It”へと続く、前作と違うテイストの曲で続けた流れが実にすばらしい。通常ならば、プロデューサーとしてリック・ルービンが入っていることでも話題になるはずだが、“Rolling With The Deep”はじめ、シングルになった曲には彼が関わっていないところが、このアルバムの強さを示しているだろう。しかし私は、アルバムのベストトラックとして、彼の手がけた“Dont You Remember”を挙げたい。前作からの流れも組んだ、最も彼女の歌い上げる歌唱力が生かされた曲だと思う。他にもアルバムの中では、あえてシングルになっていない、ブラックっぽい“Take It All” “III  Be  Waiting”も名曲であることを指摘したい。なんて「何でこれをシングルにしないの?」みたいな議論が色々なところで起こるほど、このアルバムはすばらしい。捨て曲と言えるものがほんとに一切ない出来である。サウンドプロダクションに曲順、売り方など、すべてがいい方向へと作用した希有な例であろう。アルバムには、ボーナストラックとしてライヴヴァージョンも入っていたりするのだが、微妙に歌い方がちがうところがあったりして(特に“Someone Like You”とか)、本人的にはアレンジがあまり好きではないところがあるのかもしれないが…。 
 
全然関係ないところであるが、こんなにイギリスのアーティストのアルバムを繰り返し何度も聴くことになったのは、トラヴィスの『The Man Who』以来かもしれない。どちらもシングル曲が4、5曲生まれた、2年以上に渡って売れ続けた作品である。


いや、しかし疲れた…。こんな何の実にもならないことを、何でこんなに続けてしまうのだろう。とはいえ、記録しておくことに意味があるのだと自分に言い続けることで成り立っている企画である。