今さらながら私の2011年ベストアルバムを記録しておく②

6位Watch The Throne ウォッチ・ザ・スローン』Jay-Z + KanyeWest ジェイ・Z&カニエ・ウエス(ユニバーサル)
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 言わずと知れた最強タッグのこの作品を、やはりベスト10に入れないわけにはいかない。今やひとたびアルバムを作るとなれば、名だたるトラックメイカー達からこれでもかという作品が寄せられてくるジガさんであり、それも納得の多彩な楽曲群であるが、それらを蟹江は一度自分で修正して作り直したりもしたという。それもこれもこのアルバムでのツアーを想定していたからだそうで、すべては計算づくだったということだ。幸運にも、私はたまたま休みが取れて、ボルチモアでの公演を見ることができたわけだが、まさにヒップホップの金字塔というのにふさわしいものだった(そんなライヴを日本に呼ばないというバカさ加減にはあきれる)。その曲の構成や盛り上げ方のうまさには文句の付けようがないのだが、それにしても“Niggas in Paris”に代表されるようなくだらないリリックは何とかならんのか。金持ち自慢というかセレブぶりを披露したがる感じ。わざわざそんなこと言わなくてもいいのに…。これはあえてそんなことを言って、人が自分たちをバカにできる要素も見せようみたいな逆説的な意味合いなのか? まあヒップホップにはこういうリリックは昔からあるし、Kendrick Lamarもヒップホップだし、これもヒップホップだ。まあ、今をときめくフランク・オーシャンをこの時から大々的にフィーチャーしていたのも彼らだから(当時はこれ誰?という印象しかなかったのだが)、そのセンスはほんとにすばらしいとしか言いようがないのは事実なので。
 
 5位The Wonder Year9th Wonder
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2011年作品で最も忘れられてしまっていると言っていいのが、これではないだろうか? まあジャケットからしてあまりにも地味なのであるが、聞いてみれば、間違いなく名作だということに納得するであろう1枚である。ゲストは、Erykah BaduWarren GTalib KweliPharoah MonchSaigonRaekwonMursPhonteBluJeanGraeMarsha Ambrosius(Floetry)Kendrick Lamar, SkyzooRapsodyTanyaMorganKhrysisなど、総勢30人以上。そして9thのサンプリングとビートの融合である芸術作品がここにある。今や主流ではないサンプリングの手法であるが、ここまでバリエーションあふれるものが作れるんだと驚嘆させてくれる一つの到達点であり、今、現役の人間でここまでできる人間はいないと言ってもいいだろう。元々は4年前にメジャーから出るはずだった作品であり、諸事情で結局自分のレーベルから出すことになった作品であるので、当時の制作状況を考えると余裕があった作りができたのかもしれないし、つもりにつもったストックからセレクトしたものであると考えれば、出来はある程度いいものであるということは予想できるのかもしれない。また、9th wonderのソロアルバムということで考えれば、多すぎるゲストの数もあり、アルバムとしてのカラーがよくわからないものになっている(おまけにタイトルは『Wonder Years』)ということが、評価を下げる要因となっているかもしれないが、その注目度の低さはちょっと異常と言ってもいい。それこそシングルとしてラジオでかかればヒットしてもおかしくない曲もいっぱいある。なんと、デューク大学などで、ヒップホップの講義をする先生も経験し(ヒップホップの歴史やサンプリングの仕組みを解説するものらしい、Nasの『Illmaticなどを分析!)、ハーバード大学でフェローとして研究活動もしているという9th Wonder。そんな活動のドキュメンタリーフィルムも作られたようだが(タイトルはその名も“The Wonder Year”)、それとてなかなか話題になっていないところが、つらいところだ。DVDは出るのかね?
 
4位『Lasers レイザーズ』Lupe Fiasco ルーペ・フィアスコ(ワーナー)
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2006年の『Food & Liquor』で鮮烈なデビューを飾ったものの、2007年の『The Cool』で彼のやりたいようにやった音楽は、難解とされセールス的にもコケ、しばらく音沙汰を聞かなかったルーペ・フィアスコ。この3枚目で彼が目指したのはもちろんシーンへの復権であり、それは見事に成功したと言える。最初は、自分が消える存在(LOSERS)ではないという意味をこめて、ジャケットではそれを否定する意味でLASERSにしてのではないかと思ってしまったほどだ。実際は全然違う意味だったのだが、それと想像するのもおかしくないほどのことがあったようだ。当初は2008年から3枚の連作を作るつもりだったようだが、レーベルの反対にあって頓挫し、『Food& Liquor 2』といえるような1枚物を出すと言いながらそれも延期され、ついにはファンの署名運動が起こり、ようやくリリースという運びになったといういきさつがあったのである。ルーペ本人もレーベル側の要望を受け入れたため、この作品にはかなり不本意な部分があるとコメントしたようだが、実際1作目からの勢いをそのまま持ち続けたような、実にキャッチーで大仰であるが、そのねらいも見えてくるおもしろさは健在である。不本意でここまでできたのなら大したものとしか言いようがない、やはりただものではない。まさにそれはヒップホップ自体に決してこだわっているわけではない、彼の雑食性ゆえであろう。そんな苦労して出したアルバムが、ビルボートのチャート1位も獲得し、彼のキャリア最大のヒットとなるのだから、世の中わからない。そんな彼の次の新作こそ、Food and Liquor II: The Great American Rap Album だそうである。再びコアなヒップホップ路線に戻るらしいが、この次作こそ彼の将来の評価を決定づける作品になることだろう。

 
次点『Undun The Roots ザ・ルーツ(ユニバーサル)
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ここで、10位以下の次点にしても、取り上げたかった作品を。このアルバムは、音楽雑誌や評論家からは2011年の作品としてほぼ顧みられることがなかったものである。なので、あえてここで記録しておくのだが、彼らのバンドの歴史の中で、完全に忘れられてしまう作品かと言えば、そんなことはないだろうとは思うものである。レッドフォード・スティーヴンスという人物の25年の生涯を描いたコンセプト・アルバムということだが、ドラッグディーラーであるが市井の一市民という人物像なのに、やたらとインストゥルメンタルの曲が多かったり、トータルで40分台という非常に短い作品ということが、評価を下げている要因だったりするのだろうが、楽曲自体は決して悪くない。ただ、そういうコンセプトアルバムであるなら、スヌープ•ドッグの『マーダー・ワズ・ザ・ケース』みたいなムービーを作るか、全曲のPVを作るかぐらいしないと、やっぱり話題にはなりにくいわなと…。多分、そうはしたかったんだろうが、そこまで予算がなかったんだろうということも予想がつくのだが…。何か別の要素が働いて、当初の意図とちがうことになってしまったような気がする作品で、惜しいのである。
 
次点PAGE1 : ANATOMY OF INSANE SIMILAB  (Independent Label Council Japan)
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日本語ヒップホップは、淡々とMCがヴァースを語るスタイルが合っているかのように言われるが、やはりこういうのを聴くと、集団MCのスタイルこそヒップホップの魅力だと思うのだ。彼らのプロフィールが詳しく見えてくるものがなかなかないのだが、ハーフだったりクォーターだったりするバイリンガルな環境で育ってきた人達のようで、そもそも日本のヒップホップ自体が、帰国子女だったり留学経験のある人間が作ってきたようなものでもあるし、これからの新しい日本のヒップホップを作っていくのは、結局のところ彼らのような連中なのかもしれないなと思った次第である。惜しむべきは、彼らの集団MCのスタイルはすばらしいのだが、それと比較されてしまう形で、トラックがつまらなく聴こえてしまうことだろうか。これまでのヒップホップの楽曲のセオリーからしたら間違ってはないのだが、彼らのようにMCが次々と替わっていく流れでは、トラックもただループしたものではなく、色々と変化していってほしいなと期待してしまう。音源をさらに足していくとか、要素を変換するとかそれくらいの変化でもいいのであるが、今の2曲分のトラックを1曲に詰め込むぐらいのつもりで、曲の中でMCの転換に合わせるように展開していくぐらいに作り込めば、楽曲の幅はもっと広がるし、評価も一気に高まるだろうにと思った。音源選びにはかなり凝っているようなので、そこがさらにもったいないなと感じたところである。