あえて言う! 私の「2006年のベストアルバム」はこれだ!(後編)

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 いやー、長かった・・・。やりかけてしまったこととは言え、ここまでかかるとは正直思ってなかった。これで最後です。引っ張った割にはこんなもんか?と思われるかもしれないけど、勘弁して下さい。


 第3位 『Game Theory ゲーム・セオリー』 THE ROOTS ザ・ルーツ (ユニバーサルUICD-6120)

 今作からデフジャムに移った(きっかけは言うまでもなくJAY-Zとのアンプラグド共演)ルーツである。基本的な路線は変わっていないが、このアルバムはかつての『イラデルフ・ハーフライフ』や『シングス・フォール・アパート』のようなソウルフルさがある。何せ2曲目の「フォールス・メディア」から3曲目「ゲーム・セオリー」、4曲目「ドント・フィール・ライト」、5曲目「イン・ザ・ミュージック」への、ルーツらしいノンストップの流れはすばらしいの一言だ。特に「ドント・フィール・ライト」は、これこそルーツというべきベストソングだろう。

 それだけにいわゆる原点に戻ったかのようなアルバムで、各方面から好評価されている作品でありながら、ライナーのクエストラヴのインタビューには、このアルバムはやりたいことが何もできなくて仕方なく作ったかのように語っているのだ!

 当初プロデューサーとして組む予定だったジョン・ブライオンが、蟹江のアルバムのため参加できなくなったこと。ニューオリンズブラスバンド「To Be Continued」と一緒にアルバムを作る話をしていたが、ハリケーンカトリーナのために先方と全く連絡がとれなくなったこと。ゲフィンレコードとまだあと一枚制作する契約が残っていたのだが、デフジャムに移るために契約を解除したため、海外にレコーディングに行って新しいものを吸収しにいくというプロジェクトも予算がなくてできなかったこと。それらすべてが重なったため何も新しいことができず、かといって移籍第1弾でそれなりのものを作らないといけないという中、結局自分達の持ち駒で勝負するしかなかった。それがこの『ゲーム・セオリー』だったというわけだ。もちろんクエストのこのインタビューはリリース前のものなので、まさかこのアルバムがこんなに評価されるものとは知らなかった時点だから、真実はおもしろいというものだ。
 
 このアルバムでまずやられたと思ったのは、その告知PVだった。今ではmy spaceでもYou Tubeでも残念ながら見られなくなっているが、"Don't Feel right"を使った映像は、警察の容疑者連行をイメージさせるシーンで、容疑者役のブラックソートの名前ボードに書かれている文字がCGで動いて変わり、「逮捕される人間の65%(?)以上はマイノリティーだ」というメッセージに変わる。さらにまた文字が動いてアルバム『ゲーム・セオリー』の告知に変わる。"In The Music"を使った映像は、シルエットを多用したもので、追いかけ追いかけられるイメージや、ブリキのゴミ箱をドラムのように叩くクエストラヴのシルエットがとにかくカッコよかった。そして最後の告知、ジャケットにも使われている絞首刑のイラストがアニメで動く感じが印象的だった。この絞首刑のイメージは、黒人奴隷の処刑をイメージしたものだと思っていたのだが、クエストラヴが言うには、ハングマンというアメリカの子供達が遊ぶ言葉遊びのゲームらしい。実際はそれだけではないはずなのだが、サウンド面だけに限らず、そういう色々な連想や含みを持たせるのがとにかくうまいなと思ったのが、今回のルーツであった。


 第2位 『Food & Liquor フード&リカー』 LUPE FIASCO ルーペ・フィアスコ
(ワーナー WPCR-12403)

 もはやここで何かを言うべきものでもない、ルーペ・フィアスコのデビュー作。超大型新人という割には意外に苦労人だったり、スケーターでオタクだったりするところにも好感が持てる。そんな誰もが評価するアルバムを、私もあえて推すのは、その独特な何者とも比較できない世界観からである。今年の実質ナンバーワンはこのアルバムであり、去年蟹江の『レイト・レジストレーション』をHIPHOPの金字塔と言ったが、実際それに勝るとも劣らない傑作だと思う。

 『キック・プッシュ』の単なるスケーター話にも驚いたが、『アイ・ガッチャ』では、車や時計を見せびらかすピンプ気取りの黒人を思い切りバカにしている、『デイドリーミン』ではロボットから見た視点で語ってしまう。そんな独特の世界観はPVにも表れている。(『アイ・ガッチャ』で鉄人28号が出てきたのには驚いた。許可取ったのか?)

 トラックもおもしろいものが多い。ルーペ自身はビートを作らないようだが、結局どのビートでライムするかを決めるのは、やはりMCなのである。彼の独特の音楽的好み(ジャズを常に聴いていて、ジョニー・キャッシュやコールドプレイ、MF・ドゥームなんかも聴くらしい)が反映されているのだろう。ネプチューンズや蟹江、マイク・シノダの曲が注目されているが、身内である1st&15thのサウンドトラック(人名)の作った曲が意外によかったりする。

 そんな中でも聴いてて驚いたのは、そのようなトラックを踏まえての、彼のフロウだろう。独特の間というか、そこでこう来るかみたいな意外な裏切り方があったりと、まさにその時々で変わる異質さ感が、こちらの耳を止めてしまうのである。そこをハッキリ説明できないのがもどかしいが、ヒップホップを聴いていた者にはわかってもらえる感覚だと思う。彼自身のHIPHOPだけがすべてではなかったバックグラウンドが見えてくる。これからも彼がそんな部分を失わずに持ち続けていけるのか、そこら辺が注目のところだと思う。


 第1位 『Pick A Bigger Weapon』 THE COUP (EPITAPH 86720-2)

 やっときた。記念すべき2006年の私のベストアルバムは、これをおいて他にはない。ここまでのばしにのばして来たのも、これについて話をしたかったからである。なぜなら近頃のアルバムで、こんなバリバリのファンクを聴いたのは、実に久しぶりだったからだ。ちなみにこれも某海外のサイトで見て、HMVのインターネットで取り寄せて買ったものだ(その当時棚にはCOUPのブックエンドすらなかった)。

 そんなダンサブルなファンクながら、さらにおもしろいと思ったのは曲のタイトルだった。「Laugh, Love, Fuck(笑い、愛、ファック)」に、「ShoYoAss(ケツ見せろ)」とか、「Ijuswannalayaroundalldayinbedwithyou(一日中ずっと君とベッドにいたい)」だったり(文字をつなげるのがいかにもファンクですね)、極めつけは「BabyLet'sHaveaBabyBeforeBushDoSomethin'Crazy(ブッシュがクレイジーなことをする前に子供を持とう)」 これだけでもこいつらタダ者じゃないと思うでしょ。

 グループ名は「ザ・クープ」と読む。MCながら歌もうたい曲も書きすべてのコンセプトを作るアフロ頭のブーツ・ライリーと、スクラッチを担当するDJパム・ザ・ファンクストレス。表には出ていないがその他の仲間たちもメンバーらしい。「ザ・クープ」の意味はもちろんクーデターのこと。そうなのだ、このブーツ・ライリー、最近ではほんとにめずらしいが、政治的発言やそんなリリックを書く過激派として知られている人物なのである(中には共産主義者マルクス主義者と書かれているところもある)。出身は意外だがオークランドベイエリアである。

 実際リリックを調べてみると、確かにそうだわという感じだ。ただそこにあるのは痛烈な政府批判(ブッシュ批判)と警察権力への批判であり、マルクス主義者や共産主義者というほどのものなのかとは思ったが・・・。当然反体制の過激グループとしてパブリック・エネミー(PE)と比較されるところであるが、彼らとちがうところは、リリックがただ政府批判一辺倒ではなくて、表向き愛や享楽を歌っていたりする曲がむしろ目立っていたりするし、曲自体はPEに比べてずっと軽くファンキーだから、耳触りとしてはこちらの方がずっと受け入れやすかったりするところだ。何せ曲だけで引っ張っていける圧倒的ファンキーさは、PEのようにこちらも真剣に聴かなきゃと構えなければいけない感覚は一切ない。

 しかし実際アメリカではそんな共産主義者というレッテルが貼られている人物だから、いかにファンキーな曲であろうと絶対メインストリームではかからない音楽になってしまっているのだろう。このアルバムを出しているレーベルはエピタフ。パンクで知られている老舗だ。らしいといえばらしいのか!? アメリカのパンクはまだまだ反体制だ! ただヒップホップで契約しているのは彼ら以外にはいない(ブラッカリシャスも以前ここから出していたはずだがもう名前はない)。

 ザ・クープ、意外と歴史は古いのだ。結成は91年、この『Pick A Bigger Weapon』は5枚目のアルバムになる。10年以上やっていて5枚というのは少ないと思うかもしれない。実はそこには彼らなりの苦労があったわけだ。2001年リリースした4枚目のアルバム『Party Music』は、一度プレスした盤を回収せざるを得なくなった。そのジャケットがツインタワーのビルを爆破するスイッチを押すかのようなものであったからだ! なんとタイミングが悪く2001年9月11日にあの悲劇が起こってしまったわけだ。実際そのジャケットが完成したのは2001年6月で、彼らが9・11に関わっているはずもないわけだが、彼らのこれまでの言動や曲の内容もあって(このアルバムの中には『5 Million Ways to Kill a CEO』なんて曲もあった)、かなりの非難にさらされ仕方なく回収することになったらしい(アメリカ人の気持ちとして、そこは素直に従うのね?)。そのリリースするはずだったジャケット写真も貼りましたが、確かにこの写真はまずいよね。でもビルをツインタワーにした偶然は何なのでしょうね? ほんと世界貿易センタービルに見えてしまうもんね。しかしそんな事件があったこともあったのか、このアルバムは各方面から絶賛され知名度を上げることになった。

 さらにその後、グループに加わることになっていたメンバーが射殺されたり、ツアーバスが焼かれたりなど、彼らは様々な不幸に見舞われている。彼らの言動や発言が影響を与えたものかもしれない。そんなザ・クープが5年ぶりに発売したアルバムが今作『Pick A Bigger Weapon』というわけだ。前作のプレッシャーもなく、ただただファンキーで前向きな快作になっている。

 確かにヒップホップというのは、昔こうだったなと思った。自分たちの政治的主張とそれに反対する勢力。それでも自分の言いたいことを言う。PEの時代にはこういう空気があった。久々にそんなヒップホップの原点すら感じさせてくれたアルバムだ。何よりめちゃくちゃファンキーでカッコイイ。そしてあらためて彼らの主張であるリリックもちゃんと見てみようという気にさせてくれる。ヒップホップの楽しみってそんなものだったと再認識させてくれた。これを1位にしないでどうする、そんなアルバムだ。

 ちなみに雑誌『bmr(ブラック・ミュージック・リビュー)』の年間ランキングでは14位。そこまでランクインさせた事実に評価をしたい。何せライター陣でこのアルバムを挙げていたのはわずか2人だからね。ちなみに『blast』でこのアルバムを挙げていたライターはわずか1人だった。どうなっているんでしょうかねー? これこそHIPHOPですよ。最近ようやくHMVの店頭でも祭事コーナーに置かれるほどちゃんと売られるようになっていて、ちょっとうれしかったね。