音楽雑誌が総括した「2006年のベストアルバム」を自分なりに総括してみる! その⑥「SNOOZER スヌーザー」

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 まだやるのか? まだやります。少なくとも個人的には2月中には片付けるつもりだったのですが、あまりにも忙しかったのです。引き続き各音楽雑誌が総括した「2006年のベストアルバム」を総括してみます。

 「SNOOZER(スヌーザー)」(リトル・モア
 50 BEST ALBUMS OF THE YEAR 2006
 第1位 『ホワットエヴァー・ピープル・セイ・アイ・アム、ザッツ・ホワット・アイム・ノット』                       Whatever People Say I Am, That’s What I’m Not 
      アークティック・モンキーズ Arctic Monkeys
 第2位 『モダン・タイムズ』 Modern Times ボブ・ディラン Bob Dylan

 この雑誌は一般的にはロック雑誌として知られているはずだ。ただこの雑誌のランキングの注目すべきところは、ジャンルを一切分けずに、洋楽邦楽も関係なしに、すべて一緒くたにしてランキングをつけてしまうところだ。かつてOUTKAST(アウトキャスト)の『Speakerboxxx/The Love Below(スピーカーボックス/ザ・ラヴ・ビロウ)』を年間第1位に挙げていたことに大変驚き、私も注目するに至ったものだ。一般的にロック雑誌に見られる雑誌でありながらのこの姿勢は、他の雑誌には見られないものだろう。

 ただそのランキングの選定基準については、決して明確にはされていない。「本誌選定による2006年度のベスト・ディスク」とあるのみ。それぞれのランキングに登場した作品に対するコメントは記名付きのライター一人のみであるから、その人間が推薦したということではあるのだろうが、中には他のライターが聴いてもいないという作品が上位にあがっていたりする!?ので、結局はライターの意見を参照しながらも、編集人の田中宗一郎が独断で決めているものなのだ。

 とは言いながらこの雑誌は、ランキングページよりも遙かに長い、それぞれのライター達と田中宗一郎!による特別対談がこれでもかというほど記載されているので(これ全部読む人ってどれくらいいるんだろう?)、シーンの総括やランキングの選定理由についての一応言い訳にはなっているようだ。

 ランキング1位は、アークティック・モンキーズ。これに関しては、もう仕方ないのかという感じだ。前述したように、個人的にはどうでもいい。むしろ次の作品にこそ注目したいと思っている。2位はボブ・ディランスヌーザーですらそうなのか?ということに愕然としたが、よくよく読んでみると田中宗一郎が独断で選んだということがわかった。ライターの野田努氏は聴いてすらいなかったようだ。前述もしたが個人的には、63歳だからってことは大目に見るとしても、それでもそれほどのアルバムか?とは思う。

 「過去のブルーズから拝借したメロディやリフが、愛と信念は失われ、世界全体が死にゆく運命を進んで受け入れつつある21世紀という時代の空気を反映させた新たなヴァージョンに甦っている」「ジャンプ・ブルーズを演奏するバンドが叩き出すビートは、迫り来る死の足音を蹴散らかすかのようにスウィングし」「甘いメロディを持ったバラッドでは、すべてを包み込むような優しさを見せ、やはり時折、怒りを露わにし、時には冗談を言い、悪戯っぽい笑顔さえ浮かべて見せる」なんてことを言ってはいるが、結局意味がよくわからない。他のバンドには一切そういうものがないのかね? 「世界のネガティブな状況を写実的に描き出し」「昔ながらの厳しい言葉がそこにはあり」「ストーンズにはない現役感がある」としても、それが音楽的には新しいものなのかよ???

 年寄り世代と若者世代の間が離れすぎているということなのだろう。マーケットを左右するのは金を持っている年寄り世代で、彼らはボブ・ディランを買うから一応は売れるわけだ。でも若者がボブ・ディランを聴くかと言えば、聴かない。かといって若者が聴くバンドに、年寄り世代を満足させるもの(音楽的な新しさだけでなく、そのバンドの姿勢や思想などすべてを満足させるもの)が、今のバンドにはないということなのだろう。結局過去のバンドを振り返るしかない。アークティック・モンキーズやクラクソンズなど新しいバンドを取り上げてはいるものの、今はなんとか年寄り世代の意向に即してはいるものの、その地位はかなり危ういものなのだろう。
 
 1位がアークティック・モンキーズで2位がボブ・ディランなんて、なんて幅の広いランキングだなんて思うかもしれないが、ロックという音楽はそれだけ断絶と閉塞の状況にある。もう同じロックとして一括りにすることにもう意味があるのだろうか??? かといってその隙間に入り込むことのできていないブラックミュージックやヒップホップも情けないのかもしれないが。

 ちなみにブラックミュージック系でランキングに入ったのは、14位のSPANK ROCK(スパンク・ロック)の『YO YO YO YO YO』が最高で、18位にGNARLS BARKLEY(ナールズ・バークレイ)の『ST.ELSEWHERE』が入っていた。まあ普通のヒップホップが受け入れられる余地はなかったわけだ。今年は普通のヒップホップでないものもたくさんあったんだけど、田中宗一郎が聴いていなかったのだろうね。

 この雑誌で注目すべきは、レッチリの『ステイディアム・アーケイディアム Stadium Arcadium』が46位!だったということだろう。46位にするくらいなら入れなきゃいいのにとも思うのだが、そこはスヌーザー読者のレッチリファンにも気を使ったってことなのか(全然気を使ってないともとれるけど)?まあこれは普通の音楽雑誌での合議制や集計制でのベストアルバム選定ではありえないことなので、気持ちがいいものだ。田中宗一郎によるレッチリ評は特別対談によると、「(今作は)あんま聴かないね。長いし。俺、一番好きなのは『バイ・ザ・ウェイ』なんですよ。で、あれジョン・フルシャンテ色が一番強いアルバムでしょ」「今作のね、スカスカの空気感、所謂ファンク・バンドのレコードの作り方とか、とにかくジョン・フルシャンテのあのブルーズソロが好きじゃない」

 ファンク・バンドをまんま否定されてもねー。この人はそもそもレッチリが好きじゃなかったってことか。こういう感じで好き勝手にランキングを作れてしまうんだから、怖いというか、どうしようもないというか、逆にうらやましいというか、そういう雑誌ですね。ついて行けないよな、普通。