音楽雑誌が総括した「2006年のベストアルバム」を自分なりに総括してみる! その⑤「bmr ブラック・ミュージック・リヴュー」

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 ずいぶん更新しなかった上に、まだやるのか?という印象もあるだろうが、一応個人的に決めたことなのでやらせていただきます。引き続き各音楽雑誌が総括した「2006年のベストアルバム」を総括してみます。

 「bmr(ブラック・ミュージック・リヴュー)」(ブルース・インターアクションズ
 bmr AWARDS 2006
 第1位 『Doctor’s Advocate』 THE GAME ザ・ゲーム
 第2位 『Food & Liquor』  LUPE FIASCO ルーペ・フィアスコ

 この雑誌は、ここ最近最も誠実な音楽雑誌である。ブラック・ミュージックとは言いながら、決して専門的なマニアックなだけでなく、ちゃんと初心者にも入れるようなアプローチを忘れていない。書いているライター陣も、決してブラック・ミュージック一辺倒ではなく、ロックにも造詣があるんだななんてことが読んでいてわかる。

 おまけにこの雑誌は底力もすごい。日本の音楽雑誌でありながら、「ウェッサイ」や「サウス&ミッドウェスト」だけを特集した増刊号まで作ってしまうのである。なんという独自路線。こっちがそんなもん作って売れるのか?なんて心配してしまうほどだが、それでも実際作って売っていることを思うと成立しているんだろう。逆に言えばそれだけのことを語れるだけの人材と取材力があるということだ。

 3月号の「追悼 ジェイムズ・ブラウン」の特集もすごいものだった。アルバム解説はもちろん、ファンクの名曲のバックグラウンドから語り、さらにサンプリングした曲まで。ここまで濃密なJBの特集はこれまで見たことがなかった。まさに目からウロコの永久保存版と言っていい。ここまでの取材力がある雑誌が他にあるだろうか? 『BLAST』なんて比べ物にならないだろう。日本のブラック・ミュージックのリスナーがどれだけ成熟しているかはわからないが、ここまでの雑誌をつぶさないでくれ、頼むからみんな買ってくれとさえ思ってしまうほどだ。

 この雑誌はベストアルバムの選定基準も明確にしている。2006年1月発売号から12月発売号に掲載されたアルバムを対象に、編集者4名の合議で選定。選出にあたっては、「よく出来たアルバムであること」「2006年のシーンにおける重要なポジションを担う作品であること」「音楽的な完成度などとは別に突出した個性を持った作品であること」といった基準を重ね合わせているので、それぞれの相対関係は一様ではありませんなどと明記してある。わかりやすい。というか他の雑誌がここら辺を明らかにせず、ただランキングを載せていることが、よく考えてみるといかに異常かということがよくわかるというものだ。

 ランキング自体はヒップホップとR&Bをジャンル分けせず、今回のランキングには入っていないが、国内物だっていいものがあれば入るような感じだ。ブラック・ミュージックというだけに、ロックなど他ジャンルのものは入ることはないだろうが、パフォーマーが黒人や白人という人種的くくりも一切ないようだ。

 第1位がザ・ゲームというところも独自路線をつらぬいている。ただ、「これほどまでに繰り返し聴きたくなるアルバムはない」「ラップ好きなら世界中誰もが楽しめるリリックスが最高に楽しい」「ヒップホップの過去と未来を繋げる、ヒップホップ愛が溢れ出してくるアルバム」という論評には正直疑問を感じる。そうか??? まだまだ自分にはブラック・ミュージック・レビューに対する修行が足りないのかな?すら思ってしまう。雑誌である以上、どれを1位にするかがその雑誌の顔にもなるわけだが、この雑誌はこれでよかったのか? かなりマニアックすぎるという印象は受けるわな。

 第2位はルーペ・フィアスコ。「同じシャイタウンMCよりもコモンのコンシャスネスよりは格段に雑記帳風で」「どこか劇画調になりがちなヒップホップ・リリックのデフォルメされた世界を、久々に私小説のレヴェルに引き戻した男」うーん、確かに納得の表現である。でもこの感覚をわかる人ってそんなにいるの?

 ちなみに3月号にはライター別ベスト10が載っているのだが、すべてがすべてアルバムではなかったりするのだが、もしこれを単純に集計したら、リアルな1位はライフ・ジェニングス Lyfe Jennings『The Phoenix』じゃないのって思ったけど・・・。実際のライフ・ジェニングスのランキングは6位だったけど。さすがにこれを1位にするわけにはいかなかったか。それはそれで画期的なことなんやけどね。

 実はこの雑誌のランキングの画期的なところは、JAY-ZKingdom Come』がランキングに入っていることだ。ランキングは7位。12月(11月末)発売だったため、他の雑誌では2006年のランキングには入りきらないアルバムを、あえて入れようとしたところは評価したい。でもさすがにNASの『HIP HOP IS DEAD』は入っていないが・・・(これはほんとに最悪だ。「ヒップホップは死んだ」と言いながら、やってることは全く普通のヒップホップ。ただ騒ぐだけ騒いでるのに、乗っかってしまってるだけやろ? 何でこれをみんなホメるの?)。

 でもそのJAY-Zは7位だ。元々、色々なところで顔を出していたので引退していたことも曖昧なのだが、しかしここで復帰する意味、この作品で復活するほどのものがあるのか? かなり疑問な作品ではある。でも繰り返し言うが、他の雑誌では決して2006年のランキングには入らない作品なので、彼らが2007年のランキングでNASを含め、どう評価するのは要注目ではある。