音楽雑誌が総括した「2006年のベストアルバム」を自分なりに総括してみる! その④「BLAST ブラスト」

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 まだやるのか?という感じだと思うが、引き続き各音楽雑誌が総括した「2006年のベストアルバム」を総括してみる。

「BLAST(ブラスト)」(シンコーミュージック・エンタテインメント)BLAST AWARDS 2007

 FOREIGN HIP HOP ALBUM OF THE YEAR
 第1位『キング』 King.  T.I. 
 第2位『My Ghetto Report Card』 E-40
 
 R&B ALBUM OF THE YEAR
 第1位『Ghetto Revelations:供戞Urban Mystic
 第2位『フューチャー・セックス/ラヴ・サウンズ』 FutureSex / LoveSounds
  ジャスティン・ティンバーレイク Justin Timberlake

 この雑誌は、ほんとバカ高すぎる! 通常の号ですら800円以上するのだ。厚さとかボリュームは普通の音楽雑誌と何ら変わらない、むしろ薄いくらいだ(それは裏返せば、HIPHOPの雑誌でそんなに広告が取れないということかもしれないが)。なのにあろうことかこの雑誌は、音楽雑誌が毎年行う一年の総括を、増刊号みたいな形で(『BLAST AWARDS 2007』)別に販売するのである! 商魂たくましいというか何というか・・・。逆に言えば、普段この雑誌ブラストを読んでいる読者が、通常販売される号を読むだけでは、年間総括を見られないということだ。こんなことアリなのか? 理解に苦しむ。

 わざわざ別に号を作るのだから、さぞかしボリュームたっぷりなのかというと、それほどでもない。どちらかというとかなり不親切だ。元々この雑誌は初心者向けでは決してないが、通常の号とちがうとは言え、そのアルバムが日本盤の出ているものなのか、レコード会社がどこかなどを一切表記しないのはどういうことなのだろう? この雑誌でCDが売れるなんてことは一切考えていないのだろうか?

 この雑誌、昔はリーダーズ・ポールという読者投票も行っていたことがある。今はそんなものは影も形もなくなっているが。確かに読者投票は集計が面倒くさいし、少ないスタッフでは無理なのだろうが、でも別に増刊を作るぐらいなんだから、それぐらいやれよ!と思うのは私だけだろうか? 一番その年の流行を反映するのは、評論家的見地からすればつまらない結果かもしれないが、やはり読者投票なのである。逆にそんな読者投票ができるキャパシティがある雑誌は、それだけで純粋に評価できるに値するというものではないか。

 しかもこの雑誌は、やたらとジャンルを細分化したがる。ランキングもFOREIGN HIP HOPにJAPANESE HIP HOPにR&Bと、最初の段階で3つに分かれる(何でJAPANESE R&Bはないんでしょうかね???)。ここまでHIPHOPとR&Bの垣根があいまいになっている時代に、そこまでランキングを別にする意味もよくわからないが、実際FOREIGN HIPHOPのアルバムランキングは30位まで載せているにもかかわらず、R&Bはわずか10位まで(ちなみにJAPANESE HIP HOPは15位まで)と明らかに扱いに差がありすぎる。何じゃそりゃ?という感じがそれだけで多々するというものだ。

 さらに驚くべきことにライター陣ですら、完全にジャンル分けされてしまっている。FOREIGN HIP HOPのライター、JAPANESE HIP HOPのライター、R&Bのライターと分けられて、それぞれのライターは自分のジャンルからだけしかベスト10をピックアップせず、それ以外のジャンルの作品は一切挙げていないという徹底ぶりだ(ちなみにR&Bのライターは、安室奈美恵の一作品のみ挙げた一人を除いて、誰も国内物をピックアップすらしていない)。どうでもいいけど、こんなランキングっておもしろいか? HIPHOPのライターはR&Bには一切コメントせず、もちろんその逆もそうだ。実際のところ今の音楽シーンは、その辺のジャンルのクロスするところの意見や好みがほんとは興味深かったりするはずなわけだが・・・。

 このBLASTという雑誌(昔はFRONTというタイトルだった)は、元々『クロスビート』の増刊という形でスタートしている。当時『クロスビート』で盛り上がっていたHIPHOPをはじめとするブラックミュージックの盛り上がりを受けて作られた雑誌ではあるが(そういうこともあって、ことごとく『クロスビート』からブラック物は排除される形になったのだろう)、当初はHIPHOPとR&Bの扱いにはそんなに差はなかったようにも思う。ただ、この雑誌特有のライター(現役のラッパーやDJが多かった)の趣向により、当初は扱いをためらっていた日本語ラップが前面に押し出されたり、やたら機材の話には詳しい(それはそれでおもしろいのだが)、とにかく初心者にはやさしくないだろう雑誌になっていってしまったわけだ。一つ言えるのは、昨今のHIPHOPブームを牽引したのは、決してこの雑誌ではないということである。

 ランキングに戻ろう。FOREIGN HIP HOPの1位は、T.I.の『キング』。独自路線である。T.I.をここまで評価している雑誌は他にはない。個人的には、前作の中の曲「ブリング・エム・アウト」ほどインパクトがあったかと言われるとどうかなー?という感じのアルバムではあったが・・・。
 
 このランキングは雑誌が言うところによると「編集部主導による選考方式」で決められたらしい。なるほど、実際FOREIGN HIP HOPのライター達が挙げているもので、1位にしたのが最も多かったのは微妙に、Clipse 『Hell Hath No Fury』だったりする(ちなみにR&Bで言えば圧倒的に、Ne-Yo 『In My Own Words』だった)。みんなが総合的に挙げているものを集計してみれば、T.I.になると言えなくもないというほど微妙なものだ。そこら辺に明確な理由が示されていないのでわからないが、編集部の演出が作用しているのだろう。

 まあ雑誌独自のカラーを出したいというのはわかるし認めるが、それは今後も続くのでしょうか? かなり俗世間と離れている感がありますけど・・・。そもそもこの『BLAST AWARDS 2007』が発売されたのは1月末。数ある音楽雑誌の中でも一番遅い! なのに、2005年12月~2006年11月までにリリースされたものしか対象にしていないってどういうわけなのよ? つまりNASの『HIPHOP IS DEAD』も、Jay-Zの『Kingdom Come』も入ってないわけだ。一体編集作業にどれだけかかっているんでしょう? 一番遅く出しているのに、このアウト・オブ・デイト感は何なのでしょう? NASJay-Zも考慮に入れた上で、なおかつT.I.が1位というのなら、話はわかります。それなら確かにすごいよ。実際、最初この雑誌を見た時は、そう思ったものです!?が、全く違ってました。がっかりだよ! 何なの?その微妙な期間設定はよ! 来年この雑誌のランキングがどうなるか、注目しましょう。NASJay-Zを1位にもってくるのでしょうか? それだったら笑ってあげましょうね。

 まあそれはそうとして、どうして大体どこの雑誌も自分達が1位に挙げた作品のくせに、それについてコメントするのが、ライターたった一人だけなんでしょうね? それがほんとに今回各雑誌を見て思った疑問である。ほんとにその作品が1位でよかったの?って感じ。ありがたみも何もあったもんじゃない。

 別にこの『BLAST AWARDS 2007』の号に、T.I.本人のインタビューなんかいらないんやけど。どうせ『VIBE』の記事のまんまなわけでしょ。どうせなら「うちの雑誌が君を1位に選んだんやけど、どうよ?」とT.I.本人を直撃するくらいのことをやってほしい。電話インタビューとかメールでコメントもらうくらいはできるでしょう? それぐらいなけりゃ、見たくないですよ、こんな雑誌。