音楽雑誌が総括した「2006年のベストアルバム」を自分なりに総括してみる! その③「ミュージック・マガジン」

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 ということで、予告した通り各音楽雑誌が総括した「2006年のベストアルバム」を、引き続き自分なりに総括してみるわけである。

 「ミュージック・マガジン」(株式会社ミュージック・マガジン) 2007年1月号

 第1位(ジャンル別で主要なものは以下の通り) 
 ロック(アメリカ/カナダ)
  『モダン・タイムズ』 Modern Times ボブ・ディラン Bob Dylan
 ロック(イギリス)
  『リングリーダー・オブ・ザ・メンターズ』 Ringleader Of The Mentors モリッシー Morrissey
 R&B/ソウル/ブルース
  『B‘Day』 ビヨンセ Beyonce
 ラップ/ヒップホップ(海外)
  『フード&リカー』Food & Liquor ルーペ・フィアスコ Lupe Fiasco 

 もうわけがわからない! 他とのあまりの異質さに言葉がないと言ってもいい。ミュージック・マガジンは昔から合議制でベスト・アルバムを決定するのだが、わざわざボブ・ディランモリッシーを選択するセンスというのは何なのか? ここまで音楽雑誌に差があるのだろうか?

 もう名前を出してしまおう。ロック(アメリカ/カナダ)にボブ・ディランを選んだのは、この3人、萩原健太、渡辺享、高橋修だ。 「ディランは無駄な若作りなどひとつもせずに、今の若者ミュージシャン群はもちろん、血気盛んだったころの自らとさえガチで対抗できる65歳ならではの傑作を作り上げてみせた」(萩原) 「ディランは現代も一つの歴史であると認識しつつ、“普遍の歴史”を同時代のみならず、後の世代にも伝えようとしている」(渡辺) 「伝統曲かと思ったらアリシア・キーズについて歌っている新曲だったみたいなその肌触りに、フォークというのはこうして更新されていく音楽だという彼の主張を感じる」(高橋) などとおっしゃってられます。

 何を言いたいのかのもわからない! そこでもったいながら、そのディラン『モダン・タイムズ』を買って聴いてみましたよ! ・・・でもこのアルバムが、他のアルバムに比べて特筆すべきものは感じなかったですね。昔のアルバムに比べたら、バンドアンサンブルはおもしろいものになっていると思うけど、かといってこのアルバムを特別評価するほどの対象になるのだろうか?って感じです。て言うか、これ聴いてておもしろいですか? 1曲目は確かにオッとは思いましたがねー。でも疲れますよー。あとアリシア・キーズについて歌っているのかどうかはよくわかりませんでした(笑)。

 確かに映画『ノー・ディレクション・ホーム』が公開されたそうであるが、それだけで今年はディランの年だったと総括されるのもいかかがなものか? 映画が大ヒットしたとか、少なくともこのアルバムからスマッシュシングルが生まれたとかいう出来事があれば、まだ理解はできるのですけど・・・。それほどのものじゃないでしょう?(映画があったこともこのミュージック・マガジンを見て、そう言えばあったねーと思ったくらいやし) それならばむしろ評価されるのはジョニー・キャッシュの方だし(こちらは故人で新作は作ってませんけどね)。

 それこそボブ・ディランカニエ・ウエストと組んだなんていう大事件があれば納得するものでしょうが、基本ボブ・ディランが現在のスタンスで、現在できることをやっているもので、こちらが予想できるものしかやっていないものに対して、ここまで持ち上げることにどんな意味があるのか? 結局、中年音楽評論家の、現在の音楽シーンへのささやかな抵抗みたいなものとしてしか、私にはとられないですけどね・・・。

 モリッシーを選んだ3者(大鷹俊一/保科好宏/油納将志)にもそんな文脈しか感じられない。モリッシーがエンリオ・モリコーネと組んだのはすごいかもしれないが、かといって特別大ヒットしたわけでもないこの作品を、合議制ですら1位にもってくるのには、嫌らしすぎる意図を感じるんですけど・・・。ロックが復興しているとか、中年老年も頑張ってますみたいな雰囲気を演出したいのだろうが、実際シーンはそれについていってないですよね? かつてジョージ・ハリスントム・ペティが復活した時ほどのシーンの盛り上がりなんて今はどこにもないでしょう。

 ちなみにクロスビートのベストアルバムに参加していた評論家やライター達の中で、ボブ・ディランを挙げていたのは広瀬融氏ただ一人でした! モリッシーに至ってはミュージック・マガジンのメンバーでもある保科好宏氏のみ!! この現実をどうとらえますかねー? 雑誌がちがうといえばそれまでなのでしょうか?

 なぜかボブ・ディランロッキング・オン誌のランキングでは4位に入っている。ただこの雑誌に至っては前述した通り、なぜそのランキングに入ったのか、なぜ選んだのかという説明が皆無のため、判断のしようがない。そのロッキング・オンで記事を書いているのは高見展氏。この人の文章もよくわからない。『モダン・タイムズ』を前2作と合わせて三部作として評価しているだけで、何も『モダン・タイムズ』だけに特筆したものがあるわけではないと言いたげな文章。だったら何でランキングに入れるのよ?ミュージック・マガジンの選考に敬意を払ってみましたというスタンスだけ?

 ミュージック・マガジンのたちが悪いのは、合議制であるため、1位にはディランやモリッシーを挙げるくせに、ベスト10の中には今どきのものも、そこはかとなく入れ込んでいる点だ。ロック(アメリカ/カナダ)では、マーズ・ヴォルタが4位、シザー・シスターズが9位という具合に(でもドナルド・フェイゲンが3位、ブルース・スプリングスティーンが5位という信じられないランキングだったりするのだが)、ロック(イギリス)では、モグワイが4位、アークティック・モンキーズが6位に入っていたりする(でもレイ・ディヴィスが5位、ザ・フーが9位という信じられないランキングであることには違いない)。それでバランスを取っているみたいに思わせているところが、ほんとに始末が悪い。一体何なんだこの人達は?と限りなく思うわけです。

 クラシックロックを挙げる評論家がいるのは仕方ないだろうし、彼らは結局そこら辺をランキングに入れることしか頭にないのだろう。彼らに引退してくれと言うこともできないのなら、もう別にジャンル分けをするしかないだろう。「クラシックロック」を別に設けるとか「オルタナティヴロック」を別に作るか(笑)? ミュージック・マガジンの読者は他とはちがうと言われればそうかもしれないが、今のシーンとそこまで乖離しすぎていいんだろうか? ロック産業を支えているのは中年購買層で、ロック復興というのも、そういう人向けのリバイバルヒットというのが大きいと思うが、雑誌もそういうケツをなめあうものでいいんでしょうかね? だからこそ、いまだミュージック・マガジンは廃刊もせず安泰ということなのでしょうか。