2020/01/05 George Washington Colonials vs. St. Bonaventure Bonnies @ Charles E. Smith Center (NCAA Basketball)

この日、NHLのゲームを見た後に行こうと思ったのは、ジョージ・ワシントン大学のバスケットボールチームの試合である。ジョージ・ワシントン大と言えば、あの日本人NBAプレーヤーとなった渡邊雄太が通っていた大学である。彼は卒業してしまったが、チームは、Atlantic10という強豪ぞろいというわけではないカンファレンスでは実力のあるチームで、NCAAトーナメントに出場する可能性は低いけれども、見る価値はあるなとは思っていた。

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ジョージ・ワシントン大のチームの愛称はコロニアルズ(Colonials 植民地のとか、開拓民のという意味だろう、やはりワシントンだから)実は今シーズンのロースターには、ジャミーア・ネルソンJr.(ガード、背番号12)という名前があり、私は直近のスタッツとともに注目していた。あのマジックなどで活躍したポイントガード、ジャミーア・ネルソンの息子である。写真を見ても結構,親父と似ている。2世選手としてはものすごく注目されているというレベルではないけれども、まだ1年生であり見た感じ少年で、大学でどういう成長をするかはわからないから、注目しておくに越したことはないと思っていた。しかも、渡邊雄太選手の付けていた12番を引き継いでいるのである。
 

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この日に見る候補は、もう1つあった。NBAの下部組織Gリーグのワシントン・ウィザーズの平たくいえば2軍であるキャピタル・シティ・ゴーゴーの試合もあった。私はGリーグの試合は今まで見たことがなく(かってはDリーグとも呼ばれていたが、その時代にさかのぼっても見たことはないので)、いい機会だと思っていた。2軍とは言っても、ワシントン・ウィザーズは今シーズンケガ人が続出しており、2WAY契約の選手もどんどんウィザーズのゲームに出場し活躍している。ゲーリーペイトン2世やギャリソン・マシューズ、アンジェスパセチニクス、アドミラル・スコーフィールドたちが主戦場として戦う姿を見られるわけだから、ウィザーズの今後を支える選手たちを見ておくことはできる。
 
Gリーグのキャピタル・シティ・ゴー・ゴーの試合は、ダウンタウンのど真ん中にあるキャピタル・ワン・アリーナではなく、郊外のポトマック川をはさんだ反対側にある、エンターテインメント・アンド・スポーツ・アリーナで行われる。この日の対戦相手は、オクラホマシティ・ブルー。ただ、試合開始時間が15時からだったので、NHLのワシントン・キャピタルズの試合が終わるのは15時は過ぎるだろうと踏んでいたし、移動に30分かかるとしたら、ほとんど見られないかもしれないと思って、あきらめた。一方、ジョージ・ワシントン大学の試合は15時半開始だった。正直、チケットの値段は、両方ともNBAに比べたら驚くべき安さで、それほど変わらないので、30分遅いこちらを選んだというわけだ。
 
ジョージ・ワシントン大学は、ワシントンDCのダウンタウンのど真ん中にある。とはいえ、自分の泊っているホテルからは離れているので、歩いて行くには遠い。バスや地下鉄でも行けたのだろうが、せっかく車があったので、自分で運転して行くことにした。NHLのゲーム終わりで移動するから、渋滞に巻き込まれるかもと思ったが、そんな心配はなかった。結局、15分くらいで着く。ジョージ・ワシントン大は本当にダウンタウンの街中にある大学で、明確にキャンパスというものが区別されてあるわけではない。ここは大学の建物だけど、この区画は普通の住宅だったり、オフィスビルだったりして、違いもよくわからない。ニューヨークのコロンビア大学みたいな感じだ。バスケットの試合会場は、チャールズ・E・スミス・センターといって(慈善活動家の名前で、バスケット関係者の名ではない)、選手の姿が大きく張り出されていて、わかりやすいホールなのだが、専用の駐車場があるわけではなく、結局、民間のビルの駐車場に止めることに。なんやかんやと試合会場に入った時には、もう前半が終了する直前だった。実にもったいない。

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ジョージ・ワシントン大学というと、日本人がイメージすると、初代大統領ワシントンの名をもらって作った、新興の私立大学みたいな気がするかもしれないが、1821年設立というかなり古い大学である。さすがにジョージ・ワシントン本人が設立した学校ではないが、「首都に国民が広く学べる大学を作りたい」という彼の遺志を元に作られたという。首都ワシントンにあるだけに、国際関係学、政治学という分野に強く、ロースクールとしても非常に有名な学校である。卒業生には、ジョン・フォスター・ダレス(元国務長官ワシントンのダレス空港の由来となった人物)、コリン・パウエル(元国務長官)、ジョン・エドガー・フーヴァー元FBI長官)など、とんでもない人たちを輩出している名門大学である。いやはや、こんなすごい大学に渡邊雄太選手は入学して卒業したんだということに驚く。ちなみにアンジェラ・アキも卒業生らしい。
 
せっかくなので、渡邊雄太選手の痕跡が何か残っていないか探そうと思ってきたんだけど、実際には何もなかったわ。だいぶ遅い時間に着いたので、売店にはプログラムも売ってなかったし、ホールの周りのメモリアル的なものを見ても、それっぽいものは見つけられなかった。学校からすれば、偉大な選手の1人には違いないはずだけどね。

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高校からプレップスクールを経てとはいえ、アメリカの大学に入学するなんて、なかなか普通の人間にはできないよ。本人の努力が一番ではあるが、両親が貧乏な家庭では無理だし、彼の場合は親がバスケ経験者であったこともあるが、親の理解がなければとてもじゃないけどダメだ。彼が在籍した年代は、NCAAトーナメントには出れなかったが、2015年と2016年にはNITトーナメント(NCAAトーナメントに出場できなかった大学で行われる残念大会みたいなものの1つ)に出場。しかも2016年は優勝している。2017年は、また違う大会、CBIトーナメントに出場した。これらの大躍進には、後にNBA選手になったタイラー・カバノーという先輩がいたことも大きかったのだが。渡邊雄太は、4年生時は準キャプテンも務めたというからすごいことだ(この4年生時の2017-18シーズンだけは芳しい結果を残せなかったのだが)。ちなみに渡邊雄太選手が在籍していた2016年にジョージ・ワシントン大学は、日本に遠征して、日本代表や琉球ゴールデンキングスと練習試合を行っている。とにかく渡邉雄太によって、日本人にとってもなじみ深い大学となっていることは間違いない。
 
話はそれたが、今日の試合である。 この日の相手はセント・ボナベンチャー大学。どこだよ、それ?と思うかもしれないが、ニューヨーク州のだいぶ北部、アルガニーという町にある大学(バッファローに近い)で、バスケットマニアならたまに聞く大学で、バスケには特に力を入れている学校である。どちらかというと、通年はジョージ・ワシントン大よりも成績のいいチームだ。NCAAトーナメントにもたまに出場することもあるほどだ。NBAに進んだ選手というと、最近ではオーランド・マジックなどで活躍し、現在は中国リーグでプレイしている、カナダ人のアンドリュー・ニコルソンがいる。昔でいうと、デトロイト・ピストンズのレジェンドであるボブ・レイニアーもこの大学の出身らしいが、さすがにその時代となると私もわからない。 やはりこのような中堅の大学では、プロで活躍できる選手となるとほとんどいない。もちろんジョージ・ワシントン大もしかりである。 セント・ボナベンチャー大のチームの愛称は、ボニーズ(Bonnies 骨のように強いという意味か)。  

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席に着いてしばらくしたら、前半終了でハーフタイムとなった。スコアは28-30とジョージ・ワシントン大がリードしている。NBAを見ていると、第1クォーターが終わった後のようなスコアだが、カレッジバスケットは、前後半それぞれ20分で行われるのだ。NBAほど点は入らないのが常だ。一見したところではわからないが、微妙にルールもコートサイズも違う。
 
ハーフタイムに、先述したように、渡邊雄太のゆかりのものを探すも見つけられなかった。後半になって、ようやく試合をきちんと見る。この大学の試合の雰囲気がどんなものかわかるまで少々時間がかかった。ジョージ・ワシントン大の選手は比較すると小さいように見えた。プロフィールを見ても6フィート10インチ(208cm)ある選手は1人しかいなかった(しかも試合に出ない1年生だった)。そして、3ポイントシューターが複数いて、彼らを中心にゲームを組み立てていく感じだった。メイシオ・ジャック(ガード、背番号14、3年生)、ジェイミソン・バトル(フォワード、背番号10、1年生)の主に2人。メイシオ・ジャックは自身でドライブもしながらシュートも撃つし、スペースを作り、空いている選手にパスを渡す役目を果たす。さらにガードのアーメル・ポッター(背番号2、4年生)やアミール・ハリス(背番号22、2年生)のドライブからの得点や、スリーも撃つなどの選択肢があるようだ。注目のジャミーア・ネルソンJr.(ガード、背番号12、1年生)は、スターターのポイントガードとして出場したようだが、この日の出番はあまりなかった。スティールやアシストをした時には非凡さは感じたが、試合に出ないとなかなかわかりようもない。

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多分、ジョージ・ワシントンのこのプレイスタイルは、渡邊雄太のいた時代からそんなに変わっていないだろう。渡邉雄太とタイラー・カバノーが3ポイントを撃つタイミングを常に動きながら図っていたような印象がある。ただ、この形は3ポイントが決まっている間はいいが、試合中ずっとそんなことはないので、どうリズムを変えたり、崩していくかが重要になる。さらに背が高い選手がいないから、リバウンドも取れないとなると、相手に付け込まれる隙を多く作ることになる。
 
一方のセント・ボナベンチャー大は、オーソドックスというか、ガードのカイル・ロフトン(背番号00、2年生)から展開していく流れで、彼はドライブもするし、ジャンパーも撃てる、パスもするし、3ポイントも撃てる、リバウンドだって結構取る、まさに万能型ポイントガードだ。ゴール下で待っているのは、センターのオシュン・オシュニーイー(背番号21、2年生)。いかにもアフリカ移民の家系の選手だが、線が細いわけでもなく、抜群の身体能力でスピードが速く、ダンクを繰り出し、リバウンドも取りプットバックもお手の物で、ブロックにも長けている才能のある選手である。身長は6フィート10インチだが、とにかく手が長い。両手を広げた長さ(ウィングスパン)は、7フィート8インチ(233cm)もあって、現在のNBA選手を見ても、オーランド・マジックのモハメド・バンバ(7フィート10インチ、238cm)選手に次ぐ長さらしい。

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この日の試合は、10点以上の点差が開くことはなかったので、両者の実力は拮抗していたと言えるだろう。逆に言うと、両者とも絶対的エースというべき人物がおらず、完全に流れを変えられるわけではないので、試合としてはおもしろみに欠けた感じだ。そんな中で、唯一、エースと呼べる存在になれるだろうと思ったのは、やはりオシュン・オシュニーイーである。いいところで彼の得点能力が、試合を決めた。カレッジバスケの中では、頭一つ抜きんでた存在には違いない。しかし、フリースローは決してうまくはないし、スリーポイントを撃てるわけでもなく、ドライブが得意な感じでもないし、パスで魅せるようなことは難しい選手だと思う。

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なので、彼がNBAで通用するかとなると、おそらく疑問符がつくのではないか。90年代のバスケなら十分通用しただろうが、現代ではポイントセンターという言葉もあるように、長身の選手であっても、さらなる武器がないときびしい時代になっている。とはいえ、まだ2年生なのだから、成長の余地は十二分にあるわけで、今後注目に値する選手なのは間違いない。それを思うと、このジョージ・ワシントン大学を卒業してもバスケを続けて、NBAでプレイすることができた渡邊雄太選手がいかにすごいことかというのがわかるかと思う。先輩のタイラー・カバノー選手も、NBAで選手生活を続けていることだし。ジョージ・ワシントン大、すごいよ。こうやってNBAのウィザーズの試合も見てくると、渡邊雄太選手はウィザーズのテストを受けた方が良かったんじゃないかと思ってしまう。彼なりのビジョンがあって、メンフィス・グリズリーズを選んだんだと思うが、ウィザーズがシューター不足で苦しんでいるのを見ると、地元の選手と言ってもいいのにもったいないなという気しかしない。

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結局、試合は、71-66でセント・ボナベンチャー大の勝利に終わった。 オシュン・オシュニーイーは20得点、9リバウンド、5ブロックという素晴らしいスタッツではあるが、それでも彼が支配していたかというと、そんな印象はないから不思議である。カイル・ロフトンは、17得点、8アシスト、5リバウンド。ベンチスタートのマット・ジョンソン(ガード、背番号4、3年生)が、12得点、3ポイント2/5というのが、ジョージ・ワシントン大の3ポイント攻勢と比較して際立っていた。

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一方、ジョージ・ワシントンは、ジェイミソン・バトルが20得点(3ポイントは3/12)、6リバウンド。メイシオ・ジャックが11得点(3ポイントは3/10)、3アシスト。アミール・ハリスは11得点、7リバウンド、3アシスト、3ブロックというのが、印象に残ったところか。ジャミーア・ネルソンJr.は出場時間12分、得点なし、リバウンド1、アシスト1、スティール1、ターンオーバー1だった。何かアクシデントなどがあったのか、その辺りはよくわからなかった。彼が今後どんな成長を見せるのか興味深いが、この世代で、NBAまで行ける人物が現れるのかどうかとなると、きびしいだろうなとしか思えなかった。

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フィールドゴールは、セント・ボナベンチャーが52.0%、ジョージ・ワシントンが41.8%だったが、ジョージ・ワシントンは、3ポイントが9/27の33.3%だった。リバウンドが、セント・ボナベンチャー33本に対して、ジョージ・ワシントンが27本というのが差が出たところだろうか。トータルとしては悪い数字ではないのだろうが、際立った数字を残せた調子の良かった人物がいなかったというのが大きいだろう。

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結局、セント・ボナベンチャーは19勝12敗、ジョージ・ワシントンは12勝20敗でシーズンを終える。まさかこの当時はコロナでシーズンが途中でキャンセルされ、NCAAトーナメントすら行われないことになるなんて思いもよらなかった。今シーズン、両者の所属するアトランティック10カンファレンスは、オハイオ州にあるデイトン大学が、ドラフト1巡目候補のフォワード、オビ・トッピンを擁し、29勝2敗、全米ランキング3位と圧倒的な力の差を見せつけた。こういう中堅大学でもこういった選手が出てくるのが、バスケットのおもしろいところだ。彼がドラフト何位で指名されることになるのかはわからないが(全体5位以内は確実視されている)、NCAAトーナメントで活躍する姿は見たかったなと思う。

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ジョージ・ワシントン大の会場には、大したグッズなども売っていなくて、結局、何も買わずに帰ることに。そして。明日もまたキャピタル・ワン・アリーナに行くことになっている。